コラム/トピックス

HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム(1)

2024.4.3

2018年の食品衛生法改正により、2020年6月より食品の製造・加工、調理、販売等に携わる全ての食品製造事業者(公衆衛生に与える影響が少ない営業を除く)は衛生管理計画を作成し、HACCPに沿った衛生管理の実施を求められることとなりました。このHACCPや、その一歩先を行く食品安全マネジメントシステムについて、2回に分けて解説します。

1回目のこの記事では、FSMS(Food Safety Management System:食品安全マネジメントシステム)の全体像や、導入することによる効果について説明します。

HACCPの仕組みと意義

HACCPは製造工程での食中毒や異物混入などの事故防止に効果を発揮しますが、すでにHACCPの考え方を取り入れている事業者も多くみられ、さらに踏み込んだ取り組みとして、食品安全マネジメントシステムを導入する事業者も増えています。このため、単にHACCPに取り組んでいるだけでは他社との差別化が図れなくなります

本記事では、HACCPを含む食品安全のために取り組むべきさまざまな事項について、どのように運用していけばよいのかを解説していきます。

HACCPとは「食品事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法」(厚生労働省)です。

先に述べたとおり、2020年6月以降、食品等の取扱いに従事する方が50人以上いる事業場など、一定の基準に該当する事業者では、7原則12手順からなる「HACCPに基づく衛生管理」を実施することが求められるようになりました(食品等の取扱いに従事する方の数が50人未満である事業場など、小規模な営業者等は、各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理)を行うこととなりました)。

HACCPについてはご存じの読者も多いとは思いますが、以下に改めてHACCPの7原則12手順を示します。

厚生労働省「食品製造における HACCP 入門のための手引書」を基に弊社で加筆

上記のとおり、食品の製造工程をフローダイアグラム化して、「各工程におけるさまざまなリスクを洗い出すこと」、「重要管理ポイントを設け、科学的アプローチによる管理(温度測定、金属探知機による異物混入検査など)を行うこと」、「管理ポイントの確認結果について継続的に記録を残すこと」等が手順として定められています。

HACCPに取り組む主な意義を整理すると以下のとおりとなります。

  • 食品の製造工程におけるリスクを洗い出し、重要管理点の設定や管理基準を設けて確実に管理することにより、事故を防止することができる。
  • 各製造工程での留意点がマニュアル等で可視化されることにより、作業従事者等の間で共有化できるようになり、特定の作業者の勘や経験に頼らずに食の安全確保を図ることができる。
  • 管理ポイントの確認記録等を残すことにより、ルールの順守状況について検証が可能になる。検証の結果洗い出された問題点については、適切な改善策を講じることにより、より安全性を高めることができる。

HACCP、食品安全マネジメントシステムが求められる理由とその効果

  1. HACCP等の取り組み事項と食品安全マネジメントシステムの関係
    HACCPが制度化され、事業者において、その構築・運用が本格的にはじまったところですが、本取り組みを実施していれば食品安全に万全を期すことができるかといえば、そうではありません。

    事業者として食品安全を実現するためには、HACCPの他にも、食品事故が発生した場合の原因究明や対象製品の範囲を特定するためのトレーサビリティの把握、意図的な異物混入等(食品テロ)の防止を目的とした食品防御、法令等に準拠した適切な食品表示、食品事故発生時における損失の最小化に向けた緊急時対応等の取り組みを行っていくことが求められます。HACCPの取り組み主体は製造現場となるのに対し、上記取り組みは、製造現場だけでなく、他の部門・組織が主体となることが少なくありません。

    多くの製造事業者では、下の図表2のように、一般衛生管理を含めたHACCPのほか「トレーサビリティ」、「食品防御」、「食品表示」、および「緊急時対応」など食品安全の実現・確保に向けた取り組みについて、それぞれの責任組織のもとで、PDCAサイクルに基づく活動が行われていますが、事業者全体としてみた場合に以下のような問題が見られます。

    • 各取り組みが連動せず、取り組みの重複感や非効率さがある。
    • 各取り組みに対して、適切な経営資源の配分が行われていない。
    • 各取り組みに対する経営トップの関わりが薄い。

    一方、小売事業者の立場からすると、販売者責任を全うするために、より安全な食品を取り扱おうとします。そのため、食品自体の安全性がHACCP等によって担保されているのはもちろんのこと、供給者自身がしかるべき管理体制に基づき、継続的に安全な食品を提供できる組織であるかどうかが、評価の対象となってきます。実際に、ISO22000、FSSC22000等の食品安全マネジメントシステムの認証を条件としている小売事業者もあります。

  2. 食品安全マネジメントシステムの概要と導入することによる効果
    • 食品安全マネジメントシステムの全体像
      食品安全マネジメントシステムとは、経営者の積極的な関与・責任のもとで、経営理念に基づく食品安全方針や具体的な食品安全目標を立て、組織体制を確立し、食品安全を実現・確保するためのさまざまな取り組みを実施していくことです。そして、その実施内容について検証し、必要に応じて是正措置を講じながら、新たな目標を設定するという一連のPDCAサイクルに乗せて、継続的な改善を図るためのしくみです。食品安全マネジメントシステムの全体像は図表3の通りです。
      各種の規格等情報を参考に弊社で作成

    • 食品安全マネジメントシステムを導入することによる効果
      食品安全マネジメントシステムを導入することによって、次のような効果が期待できます。
      • 各事項を個別に運用するのではなく、統合的なシステムに乗せることにより、効率よく経営資源を活用できる。
      • 経営理念に基づく食品安全方針にのっとり、各取り組みを展開していくことで、食品安全に対する全従業員の意識統一・改革を図ることができる。

      さらに、食品安全管理手法に係る各種規格にのっとった取り組みを行い、認証等を取得することになれば、次のような効果も期待できます。
      • 外部から認証取得先として見られているという意識から、社員の責任感やモチベーションを向上させることができる。
      • 小売事業者に対して、国際的に認められた基準を満たしていることをアピールすることができ、競合他社との差別化が実現できる。
      • 行政、消費者も含めた関連するステークホルダーとの信頼関係を強化することができる。
      • 調達先や委託先・外注先等の取引先に対して、「自分達もしっかりと対応しなければならない」、との意識を植え付けることができる。

2回目の記事では、食品製造業者を対象にしたさまざまな FSMS 規格の概要と特長について解説します。
2回目の記事はこちらから。「HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム(2)」

※本記事は、2020年5月1日発行のMS&AD InterRisk Report・PLレポート(食品)「HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム 第1回 食品安全マネジメントシステム導入の目的と効果」を再編集したものです。

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