コラム/トピックス

HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム(2)

2024.4.3

2018年の食品衛生法改正により、2020年6月より食品の製造・加工、調理、販売等に携わる全ての食品製造事業者(公衆衛生に与える影響が少ない営業を除く)は衛生管理計画を作成し、HACCPに沿った衛生管理の実施を求められることとなりました。このHACCPや、その一歩先を行く食品安全マネジメントシステムについて、2回に分けて解説します。

1回目の記事では、FSMS(Food Safety Management System:食品安全マネジメントシステム)の全体像や、導入することによる効果について説明しました。今回は食品製造業者を対象にしたさまざまな FSMS 規格の概要と特長について解説します。

1回目の記事はこちらから。「HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム(1)」

① FSMS規格の概要とは

  1. これまでの経緯
    • 海外の動き
      1993年に、コーデックス委員会からHACCP導入のための指針が発出され、これを機にHACCPをマネジメントシステムに組み込んで管理しようとする機運が高まりました。しかしながら、食品安全に対する要求事項は国や顧客ごとに異なる状況が見られたため、これを改善し、円滑な国際貿易を実現する目的でISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)が食品業界に特化したFSMS(Food Safety Management System:食品安全マネジメントシステム)規格としてISO22000を2005年9月に発行しました。

      当時は様々な機関が定めたFSMS規格があり、どの規格が国際標準として通用するのかが不明確な状況にありました。そうした中で、大手の食品製造業者や小売等を中心としたGFSI(Global Food Safety Initiative:世界食品安全イニシアティブ)が発足し、さまざまなFSMS規格のベンチマーキング(評価・承認)を始めました。GFSIは食品流通のグローバル化が進む中、食品安全の問題は業界全体で統一的に取り組む必要があると考えたからです。

      このようにして、GFSIはオランダのFSSC22000(Food Safety System Certification 22000)や、米国のSQF(Safe Quality Food)を、ベンチマークスキームとして承認しました。GFSIの活動は、世界の食品等事業者の支持を受け、GFSI承認の認証取得を促進する流れに繋がり、食品安全管理の標準化が進みました。その結果、GFSIはFSMSの認証制度において、イニシアティブを持つに至っています。

    • 国内の動き
      2016年に、一般財団法人食品安全マネジメント協会(Japan Food Safety Management Association)が設立され、日本において培われてきた食品安全に関する知見を世界に提供すること等を目的に、日本発のFSMSとしてJFS規格が誕生しました。これにはJFS-A、JFS-B、JFS-Cの3種類があり、JFS-Aは主に一般衛生管理、JFS-B はJFS-AにHACCPシステムによる運用の要求事項を追加する形で構成されています。そして、マネジメントシステムの要求事項を追加することでJFS-Cにステップアップできるようになっています。その中で食品製造業者を対象にしたJFS-Cは、GFSIのベンチマーク要求を満たすFSMS規格として承認されています。

  2. 各FSMS規格の特長
    上述したFSMS規格の特長は下表のとおりです。

② FSMS規格を選ぶ

上述のように、各FSMS規格には要求事項の異同等があることから、自社の目的に見合ったFSMS規格を選ぶことが大切になります。FSMSの導入や認証取得に向けた目的を整理すると、大きく分けて以下のようになります。

  1. 自社の課題解決
  2. FSMSのスムーズな導入・構築
  3. ステークホルダーとのコミュニケーション

これらの目的別に適したFSMS規格を選ぶポイントを以下で説明します。

  1. 自社の課題解決
    どのFSMS規格でもHACCPを衛生管理システムとして導入している点で共通していますが、他の管理項目(要求事項)の記述や求められる深度には違いがあります。食品安全を実現するうえで、自社の課題を認識している場合、以下に示すとおり課題解決に適ったFSMS規格を選択することが有効です。
    • フードディフェンスの強化
      FSSC22000、SQF、JFS-Cのいずれにも、脅威(組織内外の人による意図的な食品汚染リスク)を特定し、それに対する食品防御の脆弱性の評価、その軽減方策と計画の作成が規定されています。さらに、FSSC22000では重大な脅威があると判明した場合の緊急時対応の実施も必要とされています。また、SQFは米国食品医薬品局の定めた手順に従って、人のアクセス権限や施設へのアクセスポイント等を具体的に計画化することを規定しています。一方、JFS-CはFSSC22000とほぼ同じ構成になっていますが、脅威について重みづけが規定されておらず、どのような場合に軽減方策の実施が必要になるのかは不明確です。

    • 産地偽装の未然防止
      FSSC22000、SQF、JFS-Cのいずれにも、脆弱性(食品偽装の起きやすさの評価)や、軽減方策と計画の作成が規定されています。さらに、FSSC22000では産地偽装があると判明した場合の緊急時対応の実施が必要とされています。また、SQFでは代替製品(牛乳に対する豆乳等)の脆弱性の評価や、軽減方策と計画の作成も規定されている点で違いがあります。JFS-Cでは食品偽装の脆弱性に優先順位をつけるための評価手順を文書化することを求めており、評価に使用する手順書が必要になります。

    • 食品表示ミスの防止
      ISO22000、FSSC22000、SQF およびJFS-Cのいずれも、法令・規制要求事項にそった食品表示を規定しています。なお、FSSC22000は輸出先の規制についての遵守を要求している点が特長的です。

    • 緊急時対応の強化
      ISO22000とFSSC22000では、緊急事態の例として、自然災害、環境事故、バイオテロ、作業場での事故等と規定した上で、定期的な訓練の実施を含んだ緊急時対応の強化を要求しています。また、SQFでも、使用される用語は異なるものの同様の要求がなされています。なお、JFSには、上記でいう「緊急時対応」にあたる要求事項はありません。

  2. FSMSのスムーズな導入・構築
    難易度の高いFSMS規格の取得をいきなり目指すのではなく、徐々にステップアップを図りたい場合や、効率的に取り組みたい場合に適したFSMS規格は以下のとおりとなります。
    • 段階的なステップアップ
      ISO22000を取得している場合には、ISO/TS22002-1(前提条件プログラム)等と追加要求事項(アレルゲン管理や食品偽装等)に取り組むことによりFSSC22000へステップアップが可能です。SQFでは認証レベルが「食品安全の基礎」「HACCPに基づく食品安全」および「食品品質」の3段階で設定されているので、まずは「食品安全の基礎」から始めることも可能です。JFSには上述のとおり、JFS-A、JFS-B、JFS-Cの順でステップアップできるように構成されています。

    • 既に取得しているISOマネジメントシステムの活用
      既に品質(ISO9001)や環境(ISO14001)等、他の分野でISOの構築・運用の経験がある場合は、一般衛生管理やHACCP等の食品安全分野の要求事項以外はシステムの運用方法が概ね同じなので、ISO22000は取り組みやすい規格といえます。前述の通り、FSSC22000はISO22000を含んで構成されているので、さらにFSSC22000の取得を目指すことも期待できます。

  3. ステークホルダーとのコミュニケーション
    取引先や消費者等に対し、自社製品の安全性をアピールする意図がある場合に適した FSMS規格は以下のとおりとなります。
    • 小売業者との関係強化
      GFSIのベンチマークスキームは国際標準として認められており、特に輸出による取引では有効です。また、国内の小売業者の中には自社のプライベートブランドの製造委託先に対して、GFSIで承認されているFSMSの取得を要求する場合もあるため、小売業者に対しては訴求力があります。なお、GFSIのベンチマークの対象外ではあるものの、JFS-Bの取得(適合証明)を推奨する小売業者も一部あります。

    • 消費者へのアピール
      SQFについては、事業者が「食品品質認証」を取得した場合に限り、製品に認証を取得した証明として「品質シールド」(認証マーク)を製品上に使用することが一定の条件下で認められています。これにより消費者に対して製品の品質を訴求することができます。

③ FSMS導入のポイント

マネジメントシステムに取り組む理由や事情は事業者により様々ですが、FSMSの取得にあたりハードルとなる典型例として、要求事項の理解、文書の作成および従業員への周知があります。また、同じFSMSを認証取得しようとしても、認証機関ごとに認証に要する費用が異なる上、FSMSの認証基準についても認証機関の方針と戦略によって相違が生じる場合もあります。

認証機関の選択にあたっては、単純な費用の比較だけではなく、当該認証機関にFSMSの構築を評価・判定してもらうことで得られる効果とのバランスを考慮のうえ、選択をすることが肝要です。そのため、複数の認証機関に問い合わせすることが得策です。どのFSMSも認証取得後は3年おきに更新審査が行われ、1年ごとに定期審査が行われますが、GFSIのベンチマークスキームでは、定期審査の中で非通知の審査(いわゆる抜打ち監査)があります。

認証取得にあたっては、事前にコンサルタント等を活用し、自社体制や文書化の現状、現場状況等について現状評価をした上で、自社に則したFSMS規格の提示や、認証を取得するまでの具体的なプラン等を提示してもらうのも一考です。

※本記事は、2020年7月1日発行のMS&AD InterRisk Report・PLレポート(食品)「HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム 第2回 食品安全マネジメントシステムの規格の概要と特長」を再編集したものです。

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