
食品安全の視点で見る加工食品の海外輸出のリスク対策 【第1回】加工食品の海外輸出の現状とリスク対策の重要性
2025.7.24
はじめに
これまでの解説コーナーでは、食品関連事業者において食品安全・食品衛生の実現のために求められる体制構築・運用のあり方等について解説してきました。2022年度は「食品安全文化を醸成するための処方箋」、2023年度は「食品安全・食品リスクマネジメント高度化のためのDX 導入の勘所」、2024年度は「食品安全マネジメントシステム FSSC22000 V6への対応における留意点」と題し、FSMS(Food Safety Management System)について連載しました。
FSMSにはISO22000やFSSC22000等がありますが、これらは食品安全マネジメントを語るうえでの世界共通言語と言っても過言ではありません。加工食品を輸出する場合であっても、海外仕向地のバイヤーが ISO22000やFSSC22000等のFSMS認証の取得を求めるケースもあります※1。
政府は、2030年には食品輸出総額5兆円を目指しており※2、そのためにもFSMS認証取得を後押ししています※1。
そこで、本コーナーでは、輸出を見据えたFSMSの構築・見直しは勿論のこと、日本の加工食品を海外に輸出する事業者が直面する食品安全上のリスクを理解していただき、その対策について、解説していきます。食品の安全性は、仕向地(輸出先国)の消費者の信頼を得るための重要な要素であり、企業の競争力を高めることになります。
第1回目は、国内外の食品マーケットの動向、日本の加工食品の輸出状況とその特性や強み、加工食品の輸出に伴う主なリスクについて触れます。
1.国内外の食品マーケットの動向
(1)国内マーケットの縮小
農林水産省では2040年・2050年の人口推移や食料消費量を見据え、国内の食品マーケットの動 向を調査し、2023年8月に「食品産業をめぐる情勢」※3としてまとめています。その中で、国内のマーケットの縮小が示されています。
(2)海外マーケットの拡大
農林水産省は、食品の更なる輸出拡大や食品関連産業の海外展開の促進等に資するため、将来の海外市場の動向を予測するものとして、世界(主要34か国)の飲食料市場規模の推計結果を、「世界の飲食料市場規模の推計」として取りまとめています ※4。2015年の飲食料の市場規模890兆円だったものが、2030年には1,360兆円と約1.5倍に成長すると予測され、特に、高い経済成長が続くアジア市場の規模は、420兆円から800兆円と約1.9倍に拡大すると予測しています。
図表 1:国別・部門別の飲食料市場規模


出所:農林水産省(農林水産政策研究所)「世界の飲食料市場規模の推計」※44 頁をもとに作成
2.日本の加工食品の輸出状況とその特性や強み
日本の加工食品は、その特性や強みが海外でも評価され、農林水産物と共に輸出額が増加、以下のように海外市場での需要が拡大しています。
図表 2:農林水産物・食品の輸出額の推移


出所:農林水産省「食品産業をめぐる情勢」※315頁より一部抜粋
日本の加工食品の特性や強みは、海外の需要者(バイヤーや消費者)の嗜好性や他国商品との比較の観点等から、以下の 3点が挙げられます。
①高度な品質管理 | 日本は食品安全に関する法律や規制が非常に厳格であり、 HACCPなどの国際的な基準に基づいた衛生管理が普及しています。 この高い品質基準は、海外市場における高い競争力の要因となります。 消費者は安全で高品質な食品を求めており、 日本の加工食品はそのニーズに応えることができるため、 輸出先国での信頼性が高まります。 |
②和食文化の継承 | 日本の加工食品は、長い歴史と文化に基づいており、 特に和食はユネスコの無形文化遺産に登録されています。 伝統的な製法や地域特産品を活かした商品展開は、 他国の食品と差別化される要素となります。 また、世界的に和食の人気が高まっている中で、 日本の加工食品はその文化的背景を持つことで、 消費者の興味を引くことができます。 これにより、輸出市場でのブランド価値が向上します。 |
③健康志向 | 日本の加工食品は、無添加やオーガニック製品が充実しており、 消費者の健康を重視するニーズに応えることができます。 化学添加物を避け、自然な素材を使用した製品は、 特に健康意識の高い消費者に支持されています。 このトレンドに乗ることで、日本の加工食品は輸出市場での 競争力をさらに強化することが期待できます。 |
輸出事業者は、これらの特性や強みを活かしつつ、食品安全の視点からリスク対策を効果的に行うことが肝要となります。
3.加工食品の輸出に伴う主なリスク要素
海外市場への展開には、さまざまなリスクが伴います。主なリスクは、以下のとおりです。
①法規制リスク (仕向地の規制) |
仕向地(輸出先国)の法規制は、国ごとに異なる食品安全基準や規制が存在し、 特に食品添加物やラベル表示に関する規制は厳格化しています。 これにより、輸出業者は事前に規制を把握し、遵守しなければならないため、 法規制リスクは特に重要です。違反があれば、製品の輸入拒否や罰金、 ブランドイメージの損失につながる可能性があります。 |
②品質リスク (食品の品質保持) |
加工食品は、食品安全のみならず、品質も消費者にとって重要な要素です。 輸送日数の増加に伴う食味や風味の劣化、温度変動に伴う離水、 衝撃や振動に伴う物理的変化等、品質の劣化が生じるリスクがあります。 品質が低下した製品は、消費者の信頼を損ねるだけでなく、 返品やクレームの原因となり、経済的損失をもたらす可能性があります。 したがって、品質リスクは非常に重要な要素です。 |
③輸送リスク (物流問題) |
輸送中の事故や遅延は、特に冷蔵・冷凍食品にとっては細菌増殖に伴う 食中毒も懸念され、致命的なリスクと言えます。温度管理が適切でない場合、 食品の安全性や品質も損なわれる可能性があります。また、国際輸送は、 コンテナ収納、倉庫待機、機材(輸送船/航空機)の載せ替え等を契機とした 予期しない事態が発生することもあります。輸送リスクは事業者が十分に 考慮すべき要素となります。 |
④市場リスク (需要変動) |
消費者の嗜好や経済状況は常に変化しており、これに対応できない場合、 需要が急激に変化する可能性があります。特に国際市場では、文化や嗜好性、 トレンドが異なるため、事前に市場調査を行わないと、商品がバイヤーや 消費者から受け入れられない場合もあります。市場リスクは、事業の持続可能性に 直接影響を与えるため、重要な要素として取り上げられています。 |
これらのリスクは、食品輸出において回避し難い要素であり、事業者は適切な対策を講じることが求められます。
おわりに
次回は、実際に食品安全上のリスクが顕在化した例として、海外での日本の加工食品等の事故事案とその傾向等について解説する予定です。
1)農林水産物・食品の輸出を目指す皆様へ(輸出先国の規制・条件に対応した施設・機器の整備と HACCP等の施設認定・認証取得を一体的に支援します!)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/gfp/attach/pdf/haccp-110.pdf
2)今後の更なる輸出拡大に向けた取組方向
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/yunyuukoku_kisei_kaigi/dai7/siryou2.pdf
3)食品産業をめぐる情勢
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/jizoku/attach/pdf/index-13.pdf
4)世界の飲食料市場規模の推計
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/190329_01.pdf
「PL レポート(食品安全)」は年 4 回発行します。
食品衛生や食品安全に関する最近の主要動向を国内トピックスとして紹介します。
この記事は「PLレポート(食品安全)<2025年7月号>」(2025年7月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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