コラム/トピックス

FSSC22000 の認証取得に向けた文書類の整備① ~HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム~

2024.4.5

食品安全マネジメントシステム(以下、FSMS)のなかでもFSSC22000は、GFSIのベンチマークスキームとして承認されており国際的に通用すること、また、食品安全実現のためにさまざまな観点から網羅的に取組事項が提示されていることから、国内において普及が進んでいます。そこで、FSSC22000の第三者認証を取得することを見据えた、以下の文書の作成方法や手順について、3回に分けて解説します。

  1. FSMS(Food Safety ManagementSystem:食品安全マネジメントシステム)を運用する上での仕組み・ルールを示した食品安全マネジメントマニュアル(以下、「マニュアル」という)
  2. その下位文書に相当し、マニュアルで示した仕組み・ルールに基づき担当者が実行できるように具体化した規程・手順書
  3. FSMSの運用結果を残す記録フォーム類

マニュアルの骨格作り

まずはじめに、ベースとなるISO22000規格の各項番や箇条文(要求事項)をそのままマニュアル用に転記します。次に、FSSC22000規格の独自の追加要求事項(ロゴマーク管理や食品防御、食品表示等の7項目程度)を、関連するISO22000の各章に適宜挿入します。

しかしながら、規格で示されている要求事項は、実施主体や対応方法が不明瞭な部分が少なくないため、それぞれの要求事項につき、自社の規模や体制を踏まえて、5W1Hを明確にしていく必要があります。

【例】「4.1 項 組織及びその状況の理解」を例にした5W1Hの明確化
<要求事項を転記しただけのもの>
組織は、組織の目的に関連し、かつ、そのFSMSの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える、外部及び内部の課題を明確にしなければならない

<5W1H の明確化の観点から修正したもの>
経営トップは、組織の目的に関連し、かつ、そのFSMSの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える、外部及び内部の課題に対して、「社内外の課題整理表」を前年度末までに作成し、明確にする

このように、各要求事項を転記した上で、自社の体制等を鑑みながら、5W1Hを明確にしていくことで、マニュアルの骨格ができあがっていきます。

マニュアルの内容の具体化・充実化

上記の作業を経てマニュアルの骨格は整いますが、これだけではFSMSを実現することはできません。なぜなら、要求事項そのものはFSMSを構築・運用するために組織が取組まなければならない基本要件しか書いていないからです。

そこで、FSMS を実効的なものとするためには、要求事項に加え、自社の状況に即した仕組み・ルールをマニュアルに定めたり、それを具体化するための規程・手順書を整備し、実施した記録を残すための記録用紙を予め準備しておくことが必要になります。なお、頻繁にルールや手順が変更になる場合、一部であっても、その都度マニュアル全体の改版やその他の手続(改訂履歴を付記した上で、旧版の廃棄や差替え、周知等)が必要になります。

このため、それらの改訂が見込まれる事項については、なるべく下位文書に回して、マニュアル自体は改訂があまり行われないように作ることが望ましいといえます。

以下、第1章から第7章までのマニュアル上で具体化・充実化すべきポイントについて解説していきます。

第1章 目的

ここでは、本マニュアルの目的を記載します。具体的には、「安全な食品を製造するための手段として、FSMS を構築し運用する際に必要となる手順を明確にすること」を目的として定めます。なお、ISO22000 の第1 章は、「適用範囲」の箇条名になっていますが、マニュアル上では、「目的」とします。

第2章 引用規格

ここでは、FSSC22000 の規格が次の3 つから構成されているので、それらを引用する旨を記載します。

    • ISO22000 規格
    • 自社の業態に該当するISO/TS22002シリーズ
    • FSSC22000 規格独自の追加要求事項

    第3章 用語および定義

    ここでは、一連の文書に使用する専門用語およびその定義を記載します。引用する規格類で定められた「用語および定義」を転記した上で、必要に応じ、自社内で使用されている独自の用語とその定義を明文化します。マニュアル策定後も、使用される用語及びその定義について、適宜、追加・修正を図っていきます。

    第4章 組織の状況

    ここでは、自社に対するステークホルダー(利害関係者)からのニーズや期待に対応するために、自社の課題の整理、および、本規格を適用する範囲(組織や製品群)を明確にすることが求められています。そこで以下(1)~(4)を検討し、マニュアルに追加します。

    1. 社内外の課題整理表の作成
      しかるべきFSMS を実行するためには、社内外のステークホルダーが直面している社会的状況や事情、および、それらの背景を踏まえ、自社の食品安全に関する課題を見える化(「社内外の課題整理表」を作成)することが必要になります。そこで、マニュアル上では、「社内外の課題整理表」を作ることと、それを検討した結果を記録に残す旨を明記します。
      以下に、記録フォームに記入した「社内外の課題整理表」の一例を示します。
      社内外の課題整理表(例)

    2. 組織図の作成・挿入
      適用する範囲(組織)として、当該規格を運用する組織(関連部署)を見える化した組織図を作成し、マニュアルに挿入します。すでに組織図があり、一部の組織のみで当該規格を運用する場合は、新たに作る必要はなく、全社組織図の上から太枠で囲む・赤字にする等して、適用組織を明確に区分すれば足ります。また、自社HP に掲載したり、パンフレット等に載っていれば、マニュアルにその掲載場所を示すだけでも問題ありません。

    3. 製品適用範囲一覧表の作成・挿入
      適用する範囲(製品群)を明確にするため、以下のような製品群とカテゴリ(NB/PB、一般用/業務用等)、および、対応する事業所名と住所を明記した製品適用範囲一覧表を作成し、マニュアルに挿入します。
      製品適用範囲一覧表(例)

      なお、当該表が頻繁に変更になる場合は、別紙として管理しておくようにすると、変更時はそれだけ差し替えればよいので便宜性が向上します。

    4. ロゴマークの管理手順の策定
      当該規格を認証取得した後のロゴマークの管理方法について、ロゴ管理の目的、適用範囲(自社ホームページ、パンフレット、名刺等)、責任と権限(担当部署と権限の範囲)、管理手順等を定め、その旨を記載します。なお、この管理項目は、FSSC22000の追加要求事項2.5.5項ですが、組織として当該マークを管理する必要があるため4 章に挿入します。

    第5章 リーダーシップ

    ここでは、経営トップが表明した食品安全方針や当該規格を実務的に運用する食品安全チームメンバーとリーダーを明示する必要がありますが、食品安全方針の策定方法や食品安全チームメンバーおよびそのリーダーの指名の仕方については、規格の内容からだけではわかりません。ここでは、それらの考え方について説明します。

      1. 食品安全方針の策定
        食品安全方針は、自社の経営方針や社是・社訓等をベースにし、5.2.1 項「食品安全方針の確立」の箇条a)からf)を満たすような形で策定し、経営トップの承認を経た上で、マニュアルに明記します。なお、このように策定した方針は、この章に記載するだけでなく、マニュアルの冒頭にFSMSを導入する契機や経営トップの想いとともに記載している企業も多く見られます。

      2. 食品安全チームメンバーおよびリーダーの指名
        経営トップが示した食品安全チームメンバーやリーダーを明記します。一般的には、製造責任者である工場長や品質保証責任者がリーダーとして指名されることが多く、リーダーによって、食品安全チームのメンバーが選定され、経営トップが承認します。

    第6章 計画

    要求事項では「FSMS の目標を確立する」「モニタリングし検証する」「必要に応じ維持及び更新する」旨の記述だけであり、具体的にどのように目標管理計画を立てればよいのか、また、その計画をいかに管理、検証・改善していけばよいのかが明らかになっていません。

    ここでは、食品安全に関わる重要課題の解決に向けた目標(例えば、ヒヤリハット件数10%減等)を定め、それを達成するための計画の作成方法や記録フォーム等を定めた「目標管理計画の作成手順書」を策定した上で、当該手順書に基づき、計画の進捗管理、実績に対する検証、来期に向けた計画の更新方法等について明示することが求められます。

    第7章 支援

    ここでは、6章で計画した目標を達成するために、必要となる組織内外のリソースの明確化やFSMSのシステム全体に関連する文書管理方法についての明文化が求められています。

      1. 教育訓練計画書の策定
        要求事項では、単に「教育・訓練により力量を備えていること」「有効性を評価すること」「力量の証拠を残すこと」等の旨の記述だけであり、具体的な教育・訓練方法や、力量の評価方法等については説明されていません。ここでは、教育対象者とその対象者に求められる力量と必要な教育内容および、その有効性の評価基準等を整理した「教育訓練計画書」を策定した上で、当該計画書に基づき、教育を実施し、その結果を「教育実施記録」に記録していく旨を明示することが求められます。

      2. 外注(アウトソース)・購買管理方法の策定
        要求事項では、単に「外注(アウトソース)先や原材料等の外部提供者についての選択・評価・見直し等を行うための基準を確立する」旨の記述だけであり、具体的な外注(アウトソース)・購買の管理方法については説明されていません。ここでは、外注・調達先の採用フローや評価方法等を定めた「外注(アウトソース)・購買管理規程」を策定した上で、当該規程に基づき外注先や調達先を評価・採用する旨を明示することが求められます。

      3. 外部コミュニケーション手順の策定
        要求事項では、単に「外部のステークホルダーとの有効なコミュニケーションを確立し、実施・維持する」「コミュニケーションの証拠を文書化して保持する」旨の記述だけであり、具体的な外部コミュニケーション手順の策定方法については説明されていません。ここでは、外部のステークホルダーの担当窓口と入手すべき情報の一覧(「外部コミュニケーション一覧」)や、外部情報の社内共有先等のルールを定めた「外部コミュニケーション手順書」を策定した上で、当該手順書に基づき、外部のステークホルダーとのコミュニケーションを実施することや、その記録を保持する旨を明示することが求められます。

      4. 文書管理規程の策定
        要求事項では、「文書化した情報の管理については、閲覧許可・改版管理・保管や廃棄に関して取組む」旨の記述だけであり、具体的な文書管理方法についての説明がありません。ここでは、管理すべき文書の適用範囲と文書管理者の責任と権限を明確にした上で、文書の発行・受領から保管(改版)・廃棄に至るまでの詳細なルールを定めた「文書管理規程」を策定した上で、当該規程に基づき、文書化した情報を管理する旨を明示することが求められます。

    第8章以降はこちらから

    この記事では、マニュアルや、マニュアルに紐づく規程・手順書、記録フォーム類の作成方法や作成手順についてマニュアルの第7章まで解説しました。次の記事では、第8章以降について同様に解説します。なお、具体化した規程・手順書や記録フォームと記入例は、あくまで一例ですので、各要求事項を自社の体制や規模に鑑み、適宜解釈の上、充実化していくことが望まれます。

    2回目と3回目の記事はこちらからご覧いただけます。
    「FSSC22000 の認証取得に向けた文書類の整備② ~HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム~」
    「FSSC22000 の認証取得に向けた文書類の整備③ ~HACCPの一歩先を行く食品安全マネジメントシステム~」

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