コラム/トピックス

能登半島地震から奥能登豪雨へ 複合災害に対して企業が備えるべき対策とは?

[話を聞いたコンサルタント]

山下右恭
専門領域
防災・減災(自然災害)
役職名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第一部
リスクエンジニアリング第一グループ 主任コンサルタント
氏名
山下右恭 Ukyo Yamashita(気象予報士)

2024.10.10

この記事の
流れ
  • 奥能登豪雨による被害は地震災害からの復旧途上で発生した「複合災害」
  • 能登半島地震、奥能登豪雨を“想定外”で片づけてはいけない
  • 複合災害であっても単一災害ごとの対策を着実に行うことが基本
  • 人命安全と事業継続の2つの観点から対策を
  • “災害はいつどこでも起きる”という意識を

先月(9月)21日、能登半島は記録的な豪雨に見舞われました。1月の大地震の復旧もこれからという段階での災害によって、甚大な被害が発生しました。
自然災害の激甚化が進むといわれる中、企業にとってもひとたび被災すると、事業活動の継続が困難になるだけでなく、従業員らを危険にさらす恐れも出てきます。
今回の災害をきっかけに、企業の防災対策ではどんな点を見直し、対策を強化していけばいいのでしょうか。気象予報士で企業の防災・減災対策に詳しいMS&ADインターリスク総研の山下右恭主任コンサルタントに話を聞きました。

奥能登豪雨による被害は地震災害からの復旧途上で発生した「複合災害」

ーー能登半島では記録的な豪雨に見舞われました。今回の豪雨災害の特徴を一言でいうとしたらどんなものだったといえますか?

山下)地震からの復旧・復興半ばでの大雨災害で、地震と水害の「複合災害」になった点だといえます。秋雨前線によって線状降水帯が発生して、24 時間で9月としては平年の 2 倍近い雨が降ったところもありました。

現地を調査した国土交通省が、1月の地震の影響で地盤が変化した影響を受けて、河川氾濫や土砂崩れが起きやすくなった地域も存在する可能性を指摘していたり、地震で被災した住民の仮設住宅が浸水被害を被ったりと、異なる災害が立て続けに発生したことで被害拡大につながった「複合災害」といえるものであったといえます。

能登半島地震、奥能登豪雨を“想定外”で片づけてはいけない

ーー記録的な地震と豪雨が立て続けに発生したことや、24時間で平年の2倍近い雨が降ったということを指して“想定外”とみる向きもありますが、今回の複合災害は、想定が困難なほど甚大なものだったのでしょうか?

山下)石川県は、災害前から地震や洪水のハザードマップを作成して公開していました(石川県洪水浸水想定区域図、石川県地域防災計画(地震対策編))。奥能登豪雨では、 実際に浸水したエリアや浸水深の詳細は、現時点ではまだ明らかになっていません。

参考として、7月下旬には山形県や秋田県を中心に大雨による越水や堤防の決壊による河川氾濫が起きましたが、ハザードマップで浸水が想定されていないエリアも浸水したり、想定されていた以上の深さまで浸水したりしたケースがありました。

このように洪水ハザードマップにおける想定浸水エリア・想定浸水深と実際の被害にはズレが生じるケースも珍しくないことは知っておくべきでしょう。それでも、洪水ハザードマップで全く浸水が想定されていないエリアが大規模に浸水するといった極端なケースは極めて稀であり、ハザードマップの有効性が否定されるわけではありません。

ーー地震に関してですが、1月の能登半島地震では輪島市で最大震度7を記録して、石川県地域防災計画(地震対策編)が想定していた最大想定震度の6強を上回りました。これについてはどう考えていますか?

山下)地震の場合は日本国内であればどこで発生してもおかしくないといえます。震度の想定は、全ての震源断層で起こる地震を想定しているわけではありません。ですから、地震ハザードマップにおいて最大震度 5弱となっている地域でも震度6 強の地震が起きる可能性はありますし、安易に想定外とみなすべきではありません。

複合災害であっても単一災害ごとの対策が基本

ーー能登半島では大地震に続けて豪雨被害が起きました。自然災害が激甚化するだけでなく頻度も増えていく中で、企業として今回のような「複合災害」をあらかじめ想定して対策を検討する必要がありますか?

山下)地震×水害、自然災害×感染症といった複合災害への備えは防災対策のいわば応用編にあたります。知る限りでは、応用編に取り組むレベルに至っている企業はほとんどなく、まずは、水害なら水害、地震なら地震というように単一の災害を想定した対策を進めることが現実的かつ重要だと思います。建物や設備の耐震対策、構内浸水に備える止水やかさ上げ対策、食料や防災用品の備蓄品対策、緊急時対応マニュアルの整備といった対応を一つずつ着実に実施しておくことが重要です。

これらの対策を実施したうえでさらに複合対策に備えるとすれば「建物が地震損壊して高所避難ができない状況で拠点が浸水する」「洪水で周辺の道路網が寸断された状態で地震に見舞われる」といった複合シナリオを設定して対策を検討することになります。ただ、これらのシナリオは、一企業が自社だけで対応できるものではなく、自治体や地域との連携が必要になります。

人命安全と事業継続の2つの観点から対策を

ーーまず単一の災害ごとの対策を準備することが重要だということですが、どんな点に気を付けて取り組む必要がありますか?

山下)基本的に取るべき対策は、今般の能登の災害の前後で大きく変わらないと思っています。対策の観点として考えられるのは、大きく以下の 2 つです。

  • 人命安全の観点
  • 事業継続の観点

人命安全の観点というのは、避難計画や出退勤基準などに関する防災マニュアルを作成する、防災備蓄品を管理するといった対応が代表的です。

もう1つの事業継続の観点では、物的被害を軽減するための対策に加え、例えば生産拠点が被災して生産継続が困難になるようなケースを想定して、代替拠点における生産体制を構築したり、製品在庫を安全な場所に積み増したりしておくといった対応が考えられます。災害対応ではこの2つの観点を常に意識しながら、対策を進めることが大事だと思います。

ーー水害と地震の対策について、具体的なポイントを教えてください。

山下)台風や大雨のような気象災害対策としては、洪水ハザードマップにおいて自社拠点が浸水の想定されるエリア内にあるのかないのかを確認して、浸水するおそれがあれば止水やかさ上げといったハード面での対策をしておきます。

また、影響開始後は、気象情報からある程度予測して行動することができるので、気象庁の防災気象情報の警戒レベルにあわせて、従業員に注意喚起を行う、事業活動を停止する、避難を開始するといった行動のトリガーを防災マニュアル/タイムラインの中に定めておくことも必要です。

図1
【図 1】気象警報等が発表された際に命を守るためにとるべき行動の例
気象庁の「防災気象情報とその効果的な利用」をMS&ADインターリスク総研で一部加筆

地震の場合は、先ほどお話ししたように「どこで発生してもおかしくない」ということを念頭に対策を準備する必要があります。このことを前提にすると地震に対する企業としての備えは、「自社の拠点で想定される震度の分布は震度5弱だから、これくらいの対策で大丈夫」と考えるのではなく、たとえば震度6強の揺れが来ることを “想定内”と考えて対策をとる必要があります。

“災害はいつどこでも起きる”という意識を

ーー最後に企業が災害に備えるうえでの心構えについて教えてもらえますか?

山下)当社は、これまでにさまざまな企業で自然災害に対する対策をサポートしていますが、一度被災した経験のある企業とそうでない企業では、その後の自然災害への意識や対策のレベルが大きく異なると感じています。被災した経験がある企業では、少なくとも10年程度はその痛みをずっと覚えていて、きちんと防災対策をとって毎年定期的に訓練をしてレベルアップを図っています。

一方で、これまで被災した経験のない企業だと「うちは過去数年間で一度も被災したことがないから今後もおそらく大丈夫」といった誤った認識のもと、実効性ある対策が十分に進んでいないケースも散見されます。これまで大きな被害を受けたことのない企業であっても、能登を襲った複合災害を自分事としてとらえ「災害はいつどこでも起きる」という意識を一人ひとりが強く持っておくことが何より大切になってくると思います。

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令和6年の大雨被害と水害への備え ~その1~ 「災害リスク情報(第98号)」
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