コラム/トピックス

FAO「統合的山火事管理自主ガイドライン」が約20年ぶりに改訂

2024.10.17

FAO(国連食糧農業機関)は、2024年7月26日、各国政府向けに「統合的山火事管理自主ガイドライン」を発表した。本ガイドラインは、2006年に公表された前身のガイドラインをベースに、近年の気候変動危機から派生する課題に対応するための新しい項目を盛り込んで更新されたものである。本ガイドラインでは「統合的山火事管理」として、気候危機への対応だけでなく、生物多様性保全、地域の文化維持、先住民族の権利やジェンダーを含む人権などの観点が盛り込まれている。

FAOによると、現在、年間で地球上の約3億4,000万から3億7,000万haの森林が山火事によって消失していることが報告されている。山火事は自然環境に固定された炭素を大気中に放出する要因になることから、大量のGHG排出に伴う気候変動危機を加速させる。

FAOは、今世紀末までに山火事の発生頻度が現在より50%増加すると予測している。その場合、山火事が気候変動を加速させ、干ばつの増加、気温の上昇、強風等の環境変化を引き起こし、それがさらなる山火事リスクを高めるという悪循環が生じるおそれがある。また、山火事の発生は、自然からの供給サービスを消失させることにより、地域レベルのみでなくグローバルレベルにおいても社会経済の持続可能性を脅かす要因となりえる。

今回発表されたガイドラインは、前身の旧ガイドラインと同様に以下に示す4章構成となっている。今回発表されたガイドラインの「1. 導入」部分では「1.4他の国際条約との関係」という項目が更新され、ガイドラインの目的を、国連気候変動枠組条約、生物多様性条約、持続可能な開発のための2030アジェンダに沿って解釈され、適用されることが意図されている。また、導入部分全体における記載としては山火事発生に伴う生態系リスクについてが加筆されている。

【ガイドラインの構成】

  1. Introduction (導入)
  2. Cross-sectoral issues(分野横断的な問題)
  3. Principals(原則)
  4. Strategical actions(戦略的行動)

ガイドラインの肝となる「4.戦略的行動」では期待される様々な取り組み項目が挙げられているが、今回の改訂に伴って、下表のとおり二つの項目が更新され、二つの項目が追加された。

まず項目No.12「計画的火災/計画的野焼き」では、伝統的な農法や生態系維持の観点から火入れに依存している環境があることが加筆され、生態系や文化維持および回復再生のためには火入れを許可することも統合的山火事管理の一部であると更新された。また新設された項目No.15「先住民族やその他の地域に関する知識保有者との協働」および項目No.16「統合的山火事管理における公平性」では、土地固有の慣習や洞察に基づく対策の有効性や、山火事管理に係るジェンダー配慮、多様な状況下にある人々が貢献できる可能性、差別やハラスメントなどに人権方針に関する事前の課題特定と対処についても考慮することが明記された。

<新旧のガイドラインの戦略行動項目比較>

表1
(出典:本ガイドラインをもとにMS&ADインターリスク総研が作成)

2006年に旧ガイドラインが発行されて以来、世界中の国々や多様なプロジェクトがFAOガイドラインを利用して、政策立案や技術訓練を策定している。本ガイドラインでは、新たに先住民族の伝統的知識、生態系配慮、人権などの観点が組み込まれており、気候、自然、社会の統合的管理が重視されている。

気候変動に起因して、グローバルに展開する企業は生産拠点やサプライヤーの山火事リスクが増大すると想定され、TCFD開示などでリスクとして挙げている例もある。一方で山火事は拠点内で講じられる対策には限度があり、水資源の枯渇リスクと同様に地域のステークホルダーと協力したコレクティブ・アクション(集団的行動)が必要となるものと想定される。また自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の開示提言では、気候と自然の統合(気候-自然ネクサス)が一般要件に含まれており、開示提言「ガバナンスc」において先住民族と地域コミュニティ(IPLC)に対する配慮も求められている。これらを踏まえると、山火事リスクの高い地域においては、企業も気候、社会、人権を統合的に勘案しつつ、コレクティブアクションに参画していくことが期待されることになる可能性がある。その際に本ガイドラインも参考になると思われる。

まずは自社拠点における気候変動シナリオに応じた山火事リスクの評価から、検討してみてはどうだろうか。

【参考情報】2024年7月26日付 Food and Agriculture Organization of United Nations HP:
https://www.fao.org/newsroom/detail/faolaunch-updated-guidelines-to-tackle-extremewildfires/en

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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.7」(2024年10月発行)の掲載内容から抜粋しています。
ESGリスクトピックス全文はこちらからご覧いただけます。
https://rm-navi.com/search/item/1889

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