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中国における電動自転車火災の現状と対策【中国風険消息(中国関連リスクニュース)2025年度 No.2】

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[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
インターリスク上海
執筆者名
副経理 梁瑞波

2025.12.10

要旨
  • 近年、中国では電動自転車が通勤や買い物などの日常の移動手段として急速に普及している。
  • それに伴い、電動自転車が原因となる火災も年々増加傾向にあり、社会的な関心が高まっている。
  • 本稿では、電動自転車の基本構造や火災発生の特徴、主な原因を整理し、火災を防ぐためのポイントおよび安全対策を解説する。

1.中国における電動自転車火災の現状

電動自転車は環境に配慮した経済的な交通手段として広く利用されている。中国電子技術標準化研究院が公表した「2025消費品行业系列研究报告—電動自転車新国標解読」によると、2024年末時点で電動自転車の保有台数は4億台を超え、短距離移動における主要な移動手段となっている。

図1.2018年以降の中国の電動自転車保有台数の推移(億台)

2018年以降の中国の電動自転車保有台数の推移
2018年以降の中国の電動自転車保有台数の推移

しかし、市場の拡大とともに安全面での課題も顕在化している。国家消防救援局によれば、電動自転車が原因の火災は2021年の約1.8万件から2023年には2.5万件に急増し、火災件数全体に占める割合も5.9%から12.7%へと上昇している。火災件数全体は今後も増加が懸念されており、対策の重要性が一層高まっている。国家消防救援局および応急管理部の関連データによる、直近4年間の電動自転車による火災件数の統計は図2のとおりである。

図2.電動自転車火災の受報件数

電動自転車火災の受報件数
電動自転車火災の受報件数

2.電動自転車火災の特徴

電動自転車火災は、燃焼速度が速い、有毒ガスの発生量が多い、短時間で温度が急上昇する、爆発を誘発しやすいといった特徴を有している。発生の多くは充電中に起こっており、老朽化した電池や改造電池ではリスクがさらに高まると考えられる。

電動自転車から火炎が上がると、避難通路がふさがれる事例もよく見られる。集合住宅や密集した居住エリアの住民にとっては、前方には危険が迫り、後方には逃げ道がない」という事態に陥りやすく、群集災害に発展しやすいと考えられる。

火勢が拡大し、煙が充満すると、他の種類の熱傷と比べて吸入性損傷の発生割合が顕著に高くなる。吸入性損傷とは、熱や煙を吸入することにより、鼻咽頭、気管、気管支および肺実質に損傷を生じさせ、全身的な化学中毒を引き起こすものである。重度の吸入性損傷における死亡率は48〜86%に達しており、患者死亡の主要な原因の一つとなっている。

※肺の中でガス交換を担う部分であり、肺胞や細気管支などの組織のこと

表1 電動自転車の火災の特徴と詳細

特徴 詳細
① 燃焼速度が非常に速い 出火後、短時間で大量の煙と高温が発生する。1台の火災でも数分で建物全体に煙
が拡散し、7分以内に温度が300℃を超える場合がある。複数台が連鎖的に燃焼す
ると、避難経路が瞬時に遮断される危険がある。
② 有毒ガスを放出し、
爆発の危険がある
電動自転車の製造に用いられる材料は、プラスチックやゴムなど可燃性物質が多く
含まれ、燃焼時に一酸化炭素やシアン化水素などの有毒ガスを発生させる。これら
は吸入による中毒や爆発を引き起こす要因となる。
③ 消火の難易度が高い リチウムイオン電池(以下、電池)の消火に関する研究は始まったばかりであり、
どのような消火手段が有効かについての研究は十分ではない。電動自転車火災では、
感電の危険がない状況で大量の水を持続的に散水し電池を冷却し、放電反応の終了
を待つことが基本であるため、迅速な消火が難しくなる。
④ 屋内での発生が多く、
避難に影響する
電動自転車火災は集合玄関、避難通路、階段、住戸内など屋内で多発している。夜
間に発生することが多く、火勢が速く煙が多量に発生するため、避難が難しくなる。
⑤ 死亡率が高い 火勢の拡大と煙の蔓延により吸入性損傷の発生割合は他の火傷タイプより高い。吸
入性損傷は熱または煙による気道損傷(鼻咽頭、気管、気管支、肺実質)および全身
化学中毒を引き起こす。重度の吸入性損傷の致死率は48%〜86%に達する場合があ
り、主な死因の一つである。

3.電動自転車火災の発生の主な原因

全国電動自転車安全リスク全連鎖是正作業専班は、2024年7月に全国の電動自転車火災統計データを収集し、計1402件の火災事故を分析した。

1か月分という限定的なデータではあるものの、その結果から原因の分布傾向を把握することができる。

出火原因を見ると、蓄電池の熱暴走が全体の半数以上を占めている。

注目すべきは、駐輪中に充電していない状態で発生した電動自転車の火災が639件に上り、全体の45.6%を占めた点である。

このことは、電動自転車の本質的な安全性の問題が依然として重要な課題であり、引き続き重点的な対策と改善が求められることを示している。

図3.発火原因

発火原因
発火原因

図4.発火時の状態

発火時の状態
発火時の状態

電動自転車火災の多くは、バッテリーの熱暴走や不適切な充電操作、品質不良など複数の要因が重なって発生している。

代表的な原因として以下が挙げられる。

① 電気配線の故障

長期間使用した車両では配線の絶縁劣化や摩耗が進み、通電中に短絡や発熱を引き起こす場合がある。特に、露出した配線を直接電源に接続する「飛線」充電では、雨や湿気により絶縁が低下し、容易に過熱・発火に至る。加えて、規定より細い電線を使用したり、複数の車両を同一タップに接続したりする行為も火災リスクを高める。

② 過充電

利用者が「長く充電するほどよく充電できる」と誤解し、充電器を長時間差しっぱなしにするケースが多い。特に夜間の充電では、バッテリー内部の温度が上昇し続け、熱暴走を引き起こす危険が高い。過充電により化学反応が過剰に進行すると、電解液の気化・膨張・発火へとつながる。

③ 電池の熱暴走

バッテリー内部は、正極・負極・電解液・セパレーター(隔膜)など複雑な構造を持つ。外部からの衝撃、水没、穿刺などで内部構造が破損すると、正極と負極が直接接触して短絡することで、発熱反応が連鎖的に拡大して爆発に至る場合がある。特に品質が劣る電池では過充電・過放電に対する保護回路が不十分であり、内部圧力が急上昇して破裂・発火を引き起こす事例が報告されている。

④ 充電器の品質不良

市場には安価な非正規品の充電器が多数出回っており、過充電防止機能や過電流遮断機能を備えていないものが多い。そのため、バッテリーへの電流供給が制御されず、充電完了後も電圧が加わり続ける結果、内部温度が上昇し発火に至るケースがある。

⑤ 違法改造

航続距離を延ばす目的で、大容量バッテリーや高出力モーターへの交換、スピーカーやライトの増設を行う利用者もいる。こうした改造により回路が過負荷状態になり、過熱・短絡・火災を引き起こす危険がある。改造品は設計上の安全基準を逸脱するため、メーカー保証の対象外となる。

⑥ 環境および使用条件による要因

高温・高湿環境下ではバッテリー内部の化学反応が活性化し、熱暴走を誘発する。冠水や雨天走行により電気部品が水に触れると短絡を起こす危険がある。特に夏季の屋外駐輪では直射日光による温度上昇に注意が必要である。過積載や頻繁な急加速・急ブレーキもバッテリー内のセルのずれや圧迫を生じさせ、内部短絡の原因となる。

これらの要因は単独で発生する場合もあるが、実際の火災では複数の要素が重なって発生することが多い。たとえば「劣化した配線+粗悪な充電器」「違法改造+過充電」など、複合要因による事故が少なくない。

4.電動自転車の火災の予防対策

電動自転車火災の多くは、バッテリーの熱暴走を起因として発生する。その特徴は、発火が早い、燃焼が激しい、有毒ガスが多い、避難可能時間が極めて短いことである。予防にあたっては、生産段階ら対策を講じる必要があり、以下の原則に従うことが基本となる。

(1)電動自転車の品質基準の向上

電動自転車の製造品質は、火災防止の第一歩である。本質的安全性を高めるため、中国政府は電動自転車の製造に関する品質基準の整備を進めており、特にバッテリー、充電器、電気装置などの主要部品に対する防火性能要件を強化している。

2024年には、改訂された強制性国家標準である『GB17761—2024 電動自転車安全技術規範』および『GB43854—2024 電動自行车用锂离子电池安全技术规范』が公布され、以下の点について明確な規定が示されている。

  • 車両本体および主要部品の防火性・難燃性の性能要件
  • バッテリーパック、コントローラー、スピードリミッターに関する改ざん防止要件
  • 製品の銘板および合格証に、推奨使用年限を明示
  • 電動自転車用リチウムイオン蓄電池セルの安全要件
  • 製造者による電池パックへの「安全使用年限」の表示義務及び使用期限到達時の交換・廃棄周知

さらに、2025年6月、中国の四部門は共同で「電動自転車の強制性国家標準の実施を強化し、新製品供給を加速するための意見」を発表した。

国家消防救援局、工業・情報化部、公安部、市場監督総局が連携し、電動自転車に関する安全リスク全連鎖の整治成果を維持・深化しつつ、国家標準の実施を共同で推進するとしたものである。

また、電動自転車およびその主要部品に対する強制性製品認証管理を引き続き強化し、品質の抜き取り検査を常態化する方針が示された。検査に合格した製品は「ホワイトリスト」 として登録・公表し、不合格品については企業責任を厳しく追及して警示効果を持たせる措置が取られる。

これらの取り組みにより、電動自転車の製品品質基準を引き上げ、火災発生の根本原因を取り除くことが期待されると考えられる。

(2)使用時の注意事項

個人使用者においては、以下の点に留意する必要がある。

① 適切な電源の配線:

電動自転車の充電用電源配線は安全かつ信頼性が高く、規定要件に適合している必要がある。充電ケーブルは、柔軟性があり、絶縁性が高く、摩耗しにくい電線を使用し、線径は使用電力に見合った太さを確保する。配線の乱雑な取り回しや無理な接続は避けるべきである。

また、充電用の電源タップは正規メーカー製の製品を使用し、1つのタップに複数の充電プラグを同時に差し込まない。加えて、プラグを奥までしっかり差し込むことで接触不良を防ぎ、火災防止につながる。

② 指定区域での充電:

可燃物が多い場所での充電は避ける。充電中はバッテリー・配線・充電器が発熱し、発火につながるおそれがあるため、必ず指定された区域で充電を行う。特に、可燃性・爆発性物質が存在する場所や、藁・布・綿などの可燃物を多く保管している場所での充電は厳禁である。

③ 専用充電器の使用:

電動自転車の充電には車両に付属する専用充電器を使用する。バッテリーは配合や製造工程が異なるため、必要とされる充電器の仕様も異なるため、互換性のない充電器の使用は避ける。充電前に充電器のプラグのプラスマイナスや形状が車両側のソケットに適合しているか確認し、非正規品や品質の低い充電器を使用しないことが重要である。

④ 適切な充電時間:

電動自転車を長時間充電したままにしない。一般的に電動自転車の充電は8時間を超えないことが望ましい。バッテリーが満充電になったら速やかに電源プラグを抜き、充電していない時は、充電器を通電状態で放置しないことが重要である。

(3)電動自転車の充電場所に関する設計基準

近年、各地方政府は地域の実情に基づき、電動自転車の充電場所に関する地方標準を相次いで制定している。これらの基準では、充電場所の消防設計や安全管理に関する具体的要件が定められているが、内容は省市によって多少異なる。

本節では、上海市の「電動自転車集中充電・駐輪場所設計標準」を例に、安全な避難動線、車両配置計画、消防設備の配置などに関する重要な条文を取り上げ、併せて、弊社が日常のリスクサーベイで確認している代表的なリスク事象について解説する…

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