コラム/トピックス

バイオマス発電所で爆発や火災相次ぐ?原因と事故防止に向けた動向は?

[このコラムを書いた研究員]

池田 貴彦

専門領域
リスク管理・社会保障制度
役職名
マネジャー上席研究員
執筆者名
池田 貴彦 Takahiko Ikeda

2025.3.10

この記事の
流れ
  • バイオマス発電所と爆発・火災事故
  • バイオマス燃料とは
  • 粉じん爆発って何?
  • バイオマス燃料の自然発火ってどういうこと?
  • バイオマス発電所の事故防止に向けた取り組み
  • まとめ

ここ最近、各地で運転されているバイオマス発電所。ただ、経済産業省によると、爆発や火災の事故が相次いでいるといいます。こうしたことを受けて、「安全性は大丈夫なの?」といった声も聞かれるようになりました。
そこで、なぜバイオマス発電所で爆発や火災の事故が起きているのかや、事故防止に向けた動向についてわかりやすく解説します。

バイオマス発電所と爆発・火災事故

経済産業省が2024年9月にまとめた資料※1によると、バイオマス発電所での爆発や火災の事故は、2019年2月から2024年7月までの間に13件、特に2023年以降で8件も発生しているとのことです。

なぜバイオマス発電所でこうした事故が相次いで起きているのでしょうか?その原因を考えてみることにします。

バイオマス発電所は他の火力発電所(石炭、石油、天然ガス)と基本的な仕組みに大きな違いはなく、いずれも蒸気やガスを発生させてタービンを回して発電しています。異なる点は使われている燃料ということになります。

筆者がWEB上で公表されている事故の原因を調査したところ、バイオマス発電所での爆発や火災事故のおよそ80%がバイオマス燃料の「粉じん爆発」と「自然発火」によるもので、燃料の搬送中や保管中に爆発や火災事故が発生しています。

バイオマス発電

バイオマス燃料とは

バイオマス発電所では、大きく分けて以下の2種類の燃料が使われます。ともに「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のため、バイオマス燃料と呼ばれています。

  • 間伐材や廃材等の木材
  • 家畜排せつ物、食品廃棄物等の廃棄物

ちなみに、日本国内のバイオマス発電所では、約80%が木材を利用しています。

木材は、燃焼しやすいよう切削や破砕されて「木質チップ」とするか、おが粉等を粉砕・乾燥させて圧縮成形する「木質ペレット」となり利用されています。

爆発や火災の事故は、特にこの木質ペレットが「粉じん爆発」や「自然発火」しているケースが多いようです。

粉じん爆発って何?

粉じん爆発とは、簡単に言うと、浮遊している一定濃度の可燃性の粉が火気や静電気により引火して爆発することです。

可燃性の粉には木材だけではなく、アルミニウム等の金属粉や小麦粉が原因で発生した事例もあります。着火源としては「直火」だけではなく静電気による火花、機械の整備不良や金属等の異物が混入し接触することで火花が発生することもあります。

バイオマス発電所の火災事故では、木質ペレット等の粉じんが堆積して一定の高濃度となり、そこに異物の混入等により発生する火花で引火するケースが多いようです。

バイオマス燃料の自然発火ってどういうこと?

木質ペレットが自然に発火して燃える現象は次の通りです。

木質ペレットは、保管中に湿気等により吸湿し、水分率が15%程度まで吸湿するとバクテリアが発酵して発熱します。その後木質ペレットの温度が65℃程度まで上昇するとさらに酸化が進み加熱、最終的に発煙・発火に至る ※2とされています。

火は大量に貯蔵され、堆積している木質ペレットの内部で発酵・発熱が始まり、発火したのち、非常にゆっくりとしたスピードで広がっていきます。

このように貯蔵している燃料が自然発火すると燃料内部でゆっくり火が拡散するため、外から見てもその状況がすぐに分からないという怖さがあります。

木材ペレット火災

バイオマス発電所の事故防止に向けた取り組み

昨今のバイオマス発電所の爆発や火災事故を踏まえ、経済産業省は2024年1月に、消防庁でも2024年2月に注意喚起や業界内での情報の共有化について通知を出しています。

また、情報収集のための事故報告義務範囲や各種設備の技術指針の見直し、バイオマス燃料の品質規格の検討等も開始されたところです。

今後これらの対応によりバイオマス発電所の事故防止に向けたノウハウが蓄積・共有されることや各種指針の見直しにより、事故低減につながることが期待されます。

まとめ

日本のエネルギー政策の基本理念である「S+3E」、つまり安全性(Safety)を前提にエネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストと環境への適合(Environment)を図るためには、バイオマス発電所の安全性向上が欠かせません。

バイオマス発電は第7次エネルギー基本計画において、現在の401億kWhから2040年に最大で720億kWhの規模になることが期待されています。そのため、より一層の安全対策が必要になります。

1)経済産業省産業保安・安全グループ電力安全課「バイオマス発電所における爆発・火災事故及びその対応について」(2024年9月10日)より

2)電力中央研究所の研究レポート「木質ペレット貯蔵時の自然発火性に関する調査―自然発火メカニズムと実証試験法―」(2009年5月)より

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