食品安全マネジメントシステムFSSC22000 V6に対応する上で気を付けるべき点は?~②要求事項の解説と取組例(その1)~
2024.10.31
この解説コーナーでは、「食品安全マネジメントシステム FSSC22000 V6 への対応における留意点」と題し、FSSC22000 Version6(V6)※1について、Version5.1(V5.1)からV6 への変更点と対応のポイントの解説を連載しています。
前回は、FSSC22000の審査対象組織に対する要求事項のうち、一般の食品関連事業者に影響を与えるものとして、パート 1、パート 2 の主な変更点について解説しました。
前回の記事
「食品安全マネジメントシステムFSSC22000 V6に対応する上で気を付けるべき点は?~①審査対象組織に対する要求事項の主な変更点~」
https://rm-navi.com/search/item/1835
今回からは、「パート 2 審査対象組織の要求事項」において、具体的な変更内容と、変更点をふまえた取組例を解説していきます。
なお、前回、「詳細化」として挙げた要求事項については、V5.1で実施している現行の仕組み・ルールに対して、V6で詳細化された要求事項に基づき細分化した上で、「いつ/だれが/何を/どうする」等の肉付けをすることで概ね対応が可能なため、本紙での解説は割愛します。
今回対象とする要求事項は以下の通りです。
No. | 要求事項 | 変更状況 | |
---|---|---|---|
1 | 2.5.1 サービスと購入資材の管理 | 項目追加 | |
2 | 2.5.2 製品のラベリング及び印刷物 | 項目追加 | |
3 | 2.5.3 食品防御 | 2.5.3.2 計画書 | 項目追加 |
4 | 2.5.4 食品偽装の軽減 | 2.5.4.2 計画書 | 項目追加 |
以降の解説の要求事項は、FSSC財団「FSSC22000スキーム第 5.1版」、FSSC22000スキーム第6.0版」を引用しています。
1.2.5.1 サービスと購入資材の管理
本要求事項は項目が追加されています。
(1)従前の要求事項の概説
従前の要求事項では、a)外部分析機関を使用する際の検査能力の確保、b)緊急時の代替原材料調達に関する手順書の作成、c)使用禁止物質の管理対象である動物、魚、海産物の調達方針の設定、d)食品安全は法令・顧客要求事項に確実かつ継続的に適合するためのレビュープロセスの確立を求めています。
a) | ISO22000:2018の7.1.6に加えて、組織は、食品安全の検証及び/又は妥当性確認に外部の試験所分析サービスを用いる場合、それらが妥当性確認された試験方法及びベストプラクティス(例えば、習熟度試験プログラム、規制承認プログラムに参加して合格、又はISO17025のような国際規格に従って認定)を用いて、正確で再現性のある結果を生成する能力のある試験所(的確な内部並びに外部の試験所)によって実施されることを確実にしなければならない。 |
b) | フードチェーンカテゴリC,D,I,G,K(食品製造、飼料製造、食品包装及び包装材の製造、生化学製品の製造、輸送及び保管)に対し、ISO22000:2018の7.1.6 に次の追加要求事項が適用される: 組織は、製品が指定の要求事項に適合し、サプライヤが評価されるよう、緊急事態の調達に関して手順書を用意しておかなければならない。 |
c) | ISO/TS22002-1の9.2 に加えて、組織は、使用禁止物質(例えば、医薬品、獣医学、重金属、殺虫剤)の管理対象である動物、魚、海産物の調達に対する方針を有していなければならない。 |
d) | フードチェーンカテゴリC,D,I,G,Kに対し、ISO22002-1の9.2;ISO22002-4及び4.6、及びISO/TS22002-5の4に次の追加要求事項が適用される。組織は、食品安全、法的及び顧客要求事項に対する確実な継続的適合性のために、製品仕様に 対するレビュープロセスを確立、実施、維持しなければならない。 |
(2)要求事項の変更点
今回、新たに以下の要求事項が追加されました。
e) | フードチェーンカテゴリI(食品包装及び包装材の製造)の場合は、ISO22000:2018の7.1.6に 加え、組織は、最終包装材の製品に投入される原材料としてのリサイクル包装材の使用に関する基準を確立し、関連する法的及び顧客要求事項が満たされていることを確実にしなければならない。 |
この要求事項は、SDGsに対応するために盛り込まれた、包装材メーカー向けの要求事項となります。包装材の原材料に、不良品や端材などをリサイクルして使用できるようにルールや基準を決め、取り組むことを求めるものです。
(3)変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項 e) を踏まえた包装材メーカーの取組例を以下に示します。
仕組み・ルール
関係法令への適合と、顧客要望を満たすためのリサイクル包装材の使用に関する基準※を設け、以下のように実施する。
※基準:当社で使用するリサイクル包装材は、「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度」に合致した成分を使用するものとする。
いつ | リサイクル包装材の受入れ時に |
---|---|
誰が | 受入れ担当者が |
何を | リサイクルの依頼元からマニフェスト(産業廃棄物管理票)を受領する際に、添付されているポジティブリスト制度に合致した包材であることの証明書(包材メーカーから発行される安全データシート等)を |
どうする | 目視で確認し、証明書に瑕疵のないことを確認、受入れ伝票を発行し、資材課に共有する。 瑕疵のある場合は、正しい証明書を取付けるか、リサイクル包装材を受入れない。 |
管理文書等 | リサイクル可能な包装材一覧、マニフェスト控え、安全データシート控え、受入れ伝票 |
2.2.5.2製品のラベリング及び印刷物
本要求事項は項目が追加されています。
(1)従前の要求事項
従前の要求事項では、輸出先国の要求事項に準拠した表示をすること、ラベルレス製品の場合はバラ売りはせず外装への表示することを求めています。
a) | ISO22000:2018の8.5.1.3に加えて、組織は、最終製品に、販売先に予定されている国の該当 するすべてのアレルゲン及び顧客の固有要求事項を含む法令・規制要求事項に従ってラベル貼付されることを確実にしなければならない。 |
b) | ラベル貼付されていない製品の場合、顧客あるいは消費者による食品の安全な利用を確実にするために関連するすべての情報を入手できるようにしなければならない。 |
(2)要求事項の変更点
今回、新たに以下の要求事項が追加されました。
c) | 製品のラベルまたは包装に強調表示(アレルゲン、栄養成分、製造方法、加工・流通過程、原材料の状態など)が行われる場合、組織はその表示を裏付ける検証の証拠を保持し、製品の完全性が維持されることを確実にするため、トレーサビリティや質量バランスを含めた検証システムを導入しなければならない。 |
d) | フードチェーンカテゴリⅠ(食品包装及び包装材の製造)の場合、印刷物が適用される顧客及び法的要求事項を満たすことを確実にするために、アートワークマネジメント及び印刷管理手順を確立し、実施しなければならない。その手順は、最低限以下のことに対応しなければならない:
|
要求事項c) は、パッケージ等への強調表示が食品偽装とならないような検証システムを構築することを求めるものです。要求事項 d) は、包装材メーカーに対し、版下管理と印刷管理の手順書を作成し、その手順書に基づき実施することを求めるものです。
(3)-1 変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項c)を踏まえた加工食品メーカーの取組例を以下に示します。
仕組み・ルール
強調表示のあるパッケージ表示を作成する際のエビデンス資料を踏まえ、正しい表示であることを以下の内容で検証する
表示作成段階 | 内部監査段階 | |
---|---|---|
いつ | 強調表示のあるパッケージ表示作成時に | 内部監査を兼ねた年1回の定期検証時に |
誰が | 表示作成担当者が | 内部監査員(検証担当者)が |
何を | 表示を裏付けるエビデンス資料を | 検証時に製造されている製品の強調表示が製造現場と合致していることを |
どうする | 原材料メーカー等から取り付け、パッケージ版下を起案し、上長がそれを承認する。 | 原材料や配合比等が商品規格書に合致していることや、ロット印字等トレーサビリティ規程等に合致していることを確認する。 |
管理文書等 | 商品規格書、強調表示のエビデンス資料、パッケージ版下、… | 商品規格書、商品パッケージ、トレーサビリティ規程、… |
(3)-2 変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項 d) を踏まえた包装材メーカーの取組例を以下に示します
仕組み・ルール
顧客要望や法的要求事項を満たすために、版下および印刷管理手順(版下/印刷管理手順書)を確立し、実施する。
いつ | 新規の版下作成/版下改版/包装材の仕様変更(基材やサイズ変更等)/包装材の製造・出荷 |
---|---|
誰が | 営業窓口担当/デザイン担当/包装材製造担当/印刷製品在庫管理担当/出荷担当及び各担当の上長 |
何を | 版下/印刷管理手順書に基づいた業務を |
どうする | 各プロセスにおいて実施し、内部監査時に手順書通り実施されていることを確認する。 |
管理文書 | 版下/印刷管理手順書、包装デザインラフフォーム、校了版下、包装材仕様書、… |
イメージ
3.2.5.3 食品防御 > 2.5.3.2 計画書
本要求事項は項目が追加されています。
(1)従前の要求事項
従前の要求事項を以下に示します。食品への意図的な異物や薬物の混入を予防する食品防御のための計画書に関するものです。
a) | 組織は、組織のFSMS適用範囲内のプロセス及び製品を対象にした、軽減方策を規定した食品防御計画書を備えていなければならない。 |
b) | 食品防御計画書は、組織のFSMSで裏付けなければならない。 |
c) | 計画書は、適用される法令に適合し、最新の状態に維持しなければならない。 |
(2)要求事項の変更点
今回、新たに以下の要求事項が追加されました。
d) | フードチェーンカテゴリ FII(仲買業/取引/電子商取引)の場合は、組織はサプライヤーが食品防御計画を実施することを確実にしなければならない。 |
この要求事項は、仲買業が、取引先のサプライヤーにおいて、食品防御計画に基づいた対応を実施していることの確認を求めるものです。
(3)変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項 d) を踏まえた仲買業者の取組例を以下に示します。
仕組み・ルール
当社よりも一つ川上の事業者(卸業や業務用加工食品メーカー等)が食品防御計画を備え、かつ実施しているこを以下の内容で確認する。
いつ | サプライヤーとの取引開始前の商談のための往訪時および概ね 3 年毎の再訪時に |
---|---|
誰が | バイヤーが |
何を | 一つ川上の事業者が自社で策定した食品防御計画に基づいて食品防御を実施していることを |
どうする | 食品防御計画やその記録(施錠記録やカメラ映像)を閲覧し、サプライヤー往訪記録(食品防御計画やその記録は閲覧のみ)にその旨を記録する。 |
管理文書 | サプライヤー往訪記録(食品防御計画やその記録は閲覧のみ) |
4.2.5.4 食品偽装の軽減 > 2.5.4.2 計画書
本要求事項は項目が追加されています。
(1)従前の要求事項
従前の要求事項を以下に示します。食品偽装軽減のための計画書に関するものです。
a) | 組織は、組織のFSMS適用範囲内のプロセス及び製品を対象にした、軽減方策を規定した食品偽装軽減計画書を備えていなければならない。 |
b) | 食品偽装軽減計画書は、組織のFSMSで裏付けなければならない。 |
c) | 計画書は、適用される法令に適合し、最新の状態に維持しなければならない。 |
(2)要求事項の変更点
今回、新たに以下の要求事項が追加されました。
d) | フードチェーンカテゴリFII仲買業/取引/電子商取引)の場合は、上記に加え、組織はサプラ イヤーが食品偽装軽減計画を実施することを確実にしなければならない。 |
この要求事項は、仲買業者が、取引先のサプライヤーにおいて、食品偽装軽減計画に基づいた対応を実施していることの確認を求めるものです。
(3)変更点を踏まえた事業者の取組例
要求事項 d) を踏まえた仲買業者の取組例を以下に示します。
仕組み・ルール
当社よりも一つ川上の事業者(卸業や業務用加工食品メーカー等)が食品偽装軽減計画を備え、かつ実施していることを以下の内容で確認する。
いつ | サプライヤーとの取引開始前の商談のための往訪時および概ね 3 年毎の再訪時に |
---|---|
誰が | バイヤーが |
何を | 一つ川上の事業者が自社で策定した食品偽装軽減計画に基づいて食品偽装の軽減対策を実施していることを |
どうする | 食品偽装軽減計画やその記録(商品仕様書、製造記録等)を閲覧し、サプライヤー往訪記録(食品防御計画やその記録は閲覧のみ)にその旨を記録する。 |
管理文書 | サプライヤー往訪記録(食品偽装軽減計画やその記録は閲覧のみ) |
おわりに
本稿では、審査対象組織に対する要求事項のうち「パート2 審査対象組織の要求事項」の「2.5.4.2計画書」までの範囲において、具体的な変更内容と変更点をふまえた取組例をご紹介しました。
次回も同様に、変更があった要求事項について、変更内容と変更点をふまえた取組例を解説する予定です。
1)Foundation FSSC Delivering trust and impact for global food safety with FSSC 22000
https://www.fssc.com/schemes/fssc-22000/
「PL レポート(食品安全)」は年 4 回発行します。食品衛生や食品安全に関する最近の主要動向を国内トピックスとして紹介します
この記事は「PLレポート(食品)<2024年10月号>」(2024年10月発行)の掲載内容から抜粋しています。
PLレポート全文はこちらからご覧いただけます。
https://rm-navi.com/search/item/1883