排出量取引制度の2026年本格稼働に向け政府WGが始動、公平性・実効性確保が論点
2024.11.5
政府のGX実行推進室が設置したワーキンググループ(WG)が2024年9月3日、第1回会合を開催した。2050年カーボンニュートラルの実現を目指し、2026年度からの排出量取引制度の本格稼働に向けた具体的な設計の検討がスタートした。今後、専門家や産業界などへの複数回のヒアリングを経て、12月頃に論点を整理する予定。温室効果ガス排出量の削減について、業界特性等により各企業の置かれた環境が異なる中、制度の公平性や実効性を高める方策が主な論点になる見込み。
国内での排出量取引は、カーボンニュートラルの実現を目指す企業が参加するGXリーグで試行的に実施されている。参加企業の排出量を合計すると国内全体の5割を超えるが、参加が任意で業種ごとに参画企業の割合がまちまちな実態だ。こうした現状をふまえ、事務局が第1回会合で、排出量取引制度の本格稼働に向けた検討の方向性を提示した。
<表:制度化に向けた主な論点>
検討の視点 | 諸外国の例 | |
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① 制度対象者 |
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【EU】 設備/施設単位で、直接排出2.5万トンを基準に設定 【韓国】 事業者単位で直接・間接排出合計12.5万トンを基準に設定 |
② 目標設定方法 |
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【EU】【韓国】 制度開始当初はグランドファザリング方式(基準年度の排出実績に一定の削減率を乗じる)。その後、より公平性を高める観点からベンチマーク方式(業種毎の目指すべき排出原単位を乗じる)に移行 |
③ 目標達成の規律 |
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【EU】【韓国】【米カリフォルニア州】【豪州】 排出実績と同量の排出枠を償却(またはベースラインから超過した量と同量の排出枠を償却)する義務を課した上で、排出量に応じたペナルティや償却義務の残存(無償割当から控除)で、排出削減の実効性を担保している。 |
④ 取引のあり方 |
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【EU】 制度開始当初より幅広い主体による取引を許容し、先物も導入。現在はデリバティブ取引が活発に行われている。 【韓国】 開始当初は義務対象者に参加が限定し流動性が低迷。参加者拡大等の改革で、取引量が徐々に増加した。今後はデリバティブ市場の開設も予定。 |
⑤ 投資予見性 |
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【EU】 オークション実施の増減といった量的アプローチにより価格をコントロール 【米カリフォルニア州】 固定価格での排出枠の売却や、有償オークションでの下限価格設定といった価格的アプローチによる価格コントロール |
第1回会合では、日本鉄鋼連盟、日本化学工業協会、石油連盟、電気事業連合会、WWFジャパン、9月20日の第2回会合では、セメント協会、日本製紙連合会、日本自動車工業会、定期航空協会、日本気候リーダーズ・パートナーシップにそれぞれヒアリングした。主に、温室効果ガス排出削減が困難な産業(Hard-to-Abate産業)と呼ばれる対象だ。ヒアリングでは、温室効果ガス排出削減に向けて必要となるコストや時間軸の考慮、カーボンプライシングによる国際競争力の低下、基盤産業特有のScope3削減によるScope1・2の増加のジレンマといった課題が挙げられ、個別業界の実態を配慮した制度設計を望む意見が挙がった。
【参考情報】2024年9月3日付 内閣官房 HP:
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/carbon_pricing_wg/dai1/index.html
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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.8」(2024年11月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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