カスタマー・ハラスメント対策における企業の留意点
2024.12.10
2024年10月4日、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が可決された。2025年4月1日に施行される。本条例はカスタマー・ハラスメント(以下カスハラ)を防止するために制定された全国で初めての条例となった。
本条例においてカスハラは「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう」と定義されている。
また、企業の責務、企業が講ずべき措置として、下記が挙げられている。
- カスハラの防止に主体的かつ積極的に取り組む
- 東京都が実施するカスハラ防止施策に協力するよう努める
- 従業員がカスハラを受けた場合は、速やかに安全を確保する
- カスハラを行った顧客等に対し、その中止の申入れ、その他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努める
- 顧客等からのカスハラを防止するための措置として、体制の整備、従業員への配慮、防止のための手引きの作成その他の措置を講ずるよう努める
なお、本条例の検討の過程では、罰則の制定が議論になったが、明記されなかった※1。ただ、本条例の施行により、上記の責務については、労働者に対する安全配慮義務の一環として考慮される可能性がある。また、カスハラが企業における看過できないリスクになっており(カスハラの増加※2のみならず、顧客からの著しい迷惑行為による職場環境の悪化や人材流出など)、しかるべきカスハラ対策が急務といえよう。
一方、企業がカスハラ対策強化を進める上で難しいのは、顧客への対策を講じなければならない点だろう。セクハラやパワハラは主に社内の従業員への対策の側面のみであるが、カスハラは社内向けの対策に加えて、顧客への働きかけも必要になる。また、顧客からの正当な苦情や意見、要望は顧客の権利であり、これらは業務の改善や新たな商品又はサービスの開発につながるものでもあり、カスハラと峻別する必要がある。
企業としては社内外に対し、「会社としての方針・姿勢を明示」し、それを訴求し、ときに顧客に対して毅然とした対応を貫いていくことが求められる。他社事例や条例施行までに東京都から作成される予定のカスハラに関する指針(顧客等、就業者、事業者の責務に関する事項、事業者の取り組み、その他従業員の保護につながる具体策が記載される想定)を参考にし、実効性の高い仕組み・ルール等を検討することが望まれる。
1)罰則措置が明記されなかったのは、条例化に向けての取組を推進した「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」(https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/plan/koyou/kasuhara/)における議論で、スピード感をもってカスハラを禁止するために罰則はない方がよいとの意見が背景にある。一方で労働法や経済法が届かない部分を条例がフォローしており、事業者が積極的な取組に努力すべきとの議論がなされている。
2)「令和5年度厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001256079.pdf)P.52のとおり、顧客等からの著しい迷惑行為の件数が減少していると答えた企業より、増加していると答えた企業が多い
【参考情報】
東京都カスタマー・ハラスメント条例案:
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/09/11/documents/18_01.pdf)
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この記事は「ESGリスクトピックス2024年度 No.9」(2024年12月発行)の掲載内容から抜粋しています。
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