レポート/資料

医療機関・福祉事業者に求められるカスハラ対策 医療福祉RMニュース<2024 No.3>

2025.3.5

要旨
  • カスハラの相談件数が増加傾向にあり、医療機関・福祉事業者では特に対策が必要である。
  • 東京都等では条例を定め、事業者の取組みを責務として示す動きもある。
  • カスハラ対策として、従業員への教育・研修が推奨される。

1. カスハラの増加とその背景

近年、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシャルハラスメント(セクハラ)の他、モラルハラス メント(モラハラ)、アルコールハラスメント(アルハラ)など、ハラスメントの種類が多様化しており、一部のハラスメントについては事業者に対策が義務付けられている。その中でも特に、消費者や顧客からの過剰な要求や迷惑行為を指す、カスタマーハラスメント(カスハラ)とその対応に注目が集まっている。厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、パワハラ・セクハラの相談件数は減少傾向にある一方で、「顧客等からの著しい迷惑行為」に関する相談件数は増加傾向にある(図1)。

【図1】2023年から過去3年間に相談があった企業における相談件数の推移(ハラスメントの種類別)

【図1】2023年から過去3年間に相談があった企業における相談件数の推移(ハラスメントの種類別)
(出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)

カスハラが社会的な注目を集め、相談件数が増えている要因として、消費者の権利意識の高まり、SNSの普及、過剰な顧客第一主義の広がり、社会の閉塞感などによるストレス等が挙げられる。

また、顧客との接点が多い医療・福祉業や宿泊・飲食サービス業ではカスハラに関する相談が多い傾向にあることが示されている(図2)。特に医療・福祉業では患者・利用者の安心感や満足度を高めるために、従業員が常に親切で丁寧な態度を求められることや、人の生命や健康を扱う業務に従事する責任感から、従業員が患者・利用者の要求に可能な限り応えようとする傾向にあることが特徴であり、このような患者・利用者と従業員の関係がカスハラを助長しているとも考えられる。

【図2】2023年から過去3年間の顧客等からの著しい迷惑行為に関する相談の有無(業種別)

【図2】2023年から過去3年間の顧客等からの著しい迷惑行為に関する相談の有無(業種別)
(出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」)

しかしながら、厚生労働省の同調査では、医療・福祉業においてパワハラ・セクハラ対策に取り組んでいる事業者に比べて、カスハラの対策に取り組んでいる事業者が半数以下であることが示されており、従業員をカスハラから守るために備えることはこれら事業者の急務であると言える。

また、東京都をはじめとするいくつかの自治体では、カスハラの防止・対応に係る条例が2025年4月から施行される予定であり、条例上でも事業者はカスハラに係る対策の実施が求められる。

そこで、本稿では、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」や各種調査、東京都の「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」等を参考に、医療・福祉事業者に求められるカスハラの対策について解説する。

2. カスハラとは

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、企業や業界により顧客等への対 応方法・基準が異なることが想定されるため、カスハラを明確に定義することは避けつつ、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」をカスハラとして扱っている。また、各自治体の条例上で説明されるカスハラも、概ね同様の定義となっており…

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