TNFDが自然関連データ市場の整備ロードマップ案、自然移行計画の開示フレームワーク案を発表
2024.12.12
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、2024年10月下旬に開催された生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)において、「自然関連データ市場のアクセス強化に向けたロードマップ案(以下、本ロードマップ案)」および「自然移行計画に関するディスカッションペーパー(以下、本ディスカッションペーパー)」を発表した。本ロードマップ案では、自然関連データの品質や入手可能性を向上させるためにTNFDが「自然関連データ原則」を策定するとともに、オープンアクセス型の統合的データベース「自然関連データ・パブリック・ファシリティ(NDPF)」ベータ版の開発と試行を行うとしている。また本ディスカッションペーパーは、TNFD開示提言の戦略Bで開示が推奨されている移行計画に関して、その開示フレームワーク等を整理したものであり、2025年中に自然移行計画ガイダンスの正式版を公表する予定としている。
本ロードマップ案では、TNFD開示を行っている企業からのフィードバックを受けて、自然関連データに関する5つの課題を特定している(表1)。
<表1 フィードバックから得られた自然関連データに関する課題>
No | 課題 |
---|---|
1 | 断片化されており馴染みのない自然関連データソースから、組織の意思決定に活用できるデータを探し選択することに時間を要する |
2 | 断片化されたデータを入手することや、専門コンサルタントの利用などでコストがかかる (特に中小企業や新興国、発展途上国において課題となる) |
3 | 入手可能なデータの適時性や、生物群系、地域全体での可用性など、品質に懸念がある |
4 | 各企業や資産クラスにおける比較可能性に課題がある |
5 | 利用可能な自然関連データの保証可能性が担保されていない |
またTNFDはこれらの課題に対応するために、データプロバイダーから市場仲介者、エンドユーザーにまたがる自然関連データバリューチェーンにおけるパイロットテストを、2025年までに行うことを予定しており、特に以下の3つに注力する(表2)。
<表2 自然関連データ整備における注力分野>
No | 注力分野 |
---|---|
1 | 既存の科学データやオープンデータ、企業報告データの基準と原則を参考にして、自然関連データ原則を開発すること |
2 | 中期的な観点から、優先的に資金提供する必要がある自然関連データバリューチェーンの強化すべき点と品質改善すべき点を特定すること |
3 | NDPFベータ版を通じて、エンドユーザーの需要をさらに調査すること |
NDPFはオープンアクセス型の統合的な自然関連データベースで、標準化団体や市場規制当局によって設定されている科学的データ基準、オープンデータ基準、企業報告データ基準のすべてに整合させ、自然関連データにおけるデータの信頼性を担保するものとしている。様々なデータプロバイダーと協力してNDPFベータ版を開発し、そのテストを通じて市場参加者のニーズや実現可能性を判断する。
これからベータ版に着手するというNDPFが正式に市場に実装されるまでには相当な時間がかかると考えられるが、実現した場合、企業にとって自然関連データの入手や分析のあり方が劇的に改善することが期待される。
自然移行計画に関するディスカッションペーパーは、気候変動分野の移行計画策定の指針となっているグラスゴー金融同盟(GFANZ※1)の「金融機関のネットゼロ移行計画 (NZTP)」報告書や移行計画タスクフォース(TPT※2)の「TPT開示フレームワーク」などを参考にしている。特に本ディスカッションペーパーで提示されている開示フレームワーク案は、「TPT開示フレームワーク」をベースに、自然分野の観点から一部削除および追加する形で構成されている(図1)。
今後、2025年までに策定される自然移行計画ガイダンスの正式版は、金融機関と企業の両方のニーズに対応したものになるとされており、企業と金融機関のエンゲージメントが強化されると考えられる。多数の日系企業がTNFD開示を始めているが、まだ自社の自然関連課題を分析するに留まり、課題に見合うだけの具体的な対策とその計画まで踏み込めている企業は限られている。本ディスカッションペーパーをもとに先んじて移行計画を検討しておくことが期待される。
<図1 自然移行計画の開示フレームワーク案>
(出典:TNFD “Discussion paper on Nature transition plans” (2024)を基にインターリスク総研仮訳)
1)GHGネットゼロを目指す世界の金融同盟。銀行、保険、アセットオーナー、資産運用会社等の伊イニシアチブの連合体。
2)2022年にイギリス政府が立ち上げた、移行計画策定に関するイニシアチブであり、現在はISSBがその成果物を引継ぎ、責任を負っている。
【参考情報】
2024年10月26日付 TNFD HP
https://tnfd.global/upgrading-market-access-to-decision-useful-nature-related-data/
2024年10月27日付 TNFD HP
https://tnfd.global/tnfd-transition-plans-paper-published/