生物多様性COP16の報告 ~TNFD自然移行計画ガイダンス案、NP「I 自然の状態」指標案、SBTN初の認定事例を中心に~【RMFOCUS 第92号】
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[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社
- 所属名
- サステナビリティ推進部
- 執筆者名
- TNFD専任SVP 原口 真 Makoto Haraguchi
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ第一グループ
- 執筆者名
- マネジャー上席コンサルタント 金子 祐 Yu Kaneko
2025.1.7
ポイント
- 生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16)がコロンビア共和国のカリで開催された(2024年10月21日~11月2日)。グローバルな生物多様性への関心は高く、参加人数は13,000名超となりCBD-COPとしては過去最大の参加人数であった。
- 本稿では、本会合での主要議題の成果と課題に加え、筆者らが参加したサイドイベントの中でビジネスセクターに関連の深い以下テーマについて解説する。
・自然移行計画に関する討議文書(TNFD)
・自然関連データの市場アクセス向上のためのロードマップ(TNFD)
・Nature Positive Initiative(NPI)による自然の状態に関する指標のドラフト案
・SBT for Natureの設定事例
1.本会合の決定事項と課題
本会合では、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)注1)の利益共有メカニズム、昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組み(GBF)の進捗評価のためのモニタリングフレームワーク、先住民および地域社会の参画に関する補助機関の設立、自然や生物多様性保全のための資金調達などについて議論された。
このうち、DSIの利益共有メカニズムについては、DSIの利用による公正かつ公平な利益配分のために、グローバルな基金である「カリ基金」を含む多国間メカニズムを運用するための方法を採択した。カリ基金はDSIを製品やサービスに利用する企業が、その利用によって得られた利益を公平に分配するための仕組みである。具体的な拠出の企業規模や貢献割合については引き続き検討が進められる。
また、GBFの目標達成に向けた進捗を測るためのモニタリングフレームワークについては、グローバルレビューの手順、グローバルレビューと報告書の内容、GBFモニタリング枠組みの下での指標に関する議論が行われたが最終合意には至らなかった。
指標については、2050年グローバルゴールおよび2030年グローバルターゲットに関する指標案が提案されている。企業に特に関連があると考えられるターゲット3、12、15の指標案を表1に示す。
次章以降では、筆者らが参加したサイドイベントの中でビジネスセクターに関連の深いテーマについて解説する。
【表1】昆明・モントリオールグローバル生物多様性枠組み(GBF)の指標(案)の一例
ターゲット | ヘッドライン指標注2)またはバイナリー指標注3) |
---|---|
3. 陸と海のそれぞれ少なくとも30%を保護地域およびOECMにより保全 | 【ヘッドライン】 保護地域およびOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)の割合 |
12. 都市部における緑地・親水空間の面積、質、アクセス、便益の増加、および生物多様性を配慮した都市計画の確保 | 【ヘッドライン】 都市の市街地面積のうち公共利用のための緑地/親水地の平均割合 【バイナリー】 緑地または親水地の都市空間に言及する生物多様性に配慮した都市計画を実施している国の数 |
15.事業者が、特に大企業や金融機関等は確実に、生物多様性に係るリスク、生物多様性への依存や影響を評価・開示し、持続可能な消費のために必要な情報を提供するための措置を講じる | 【ヘッドライン】 生物多様性に関連するリスク、依存、影響を開示している企業の数 【バイナリー】 企業や金融機関、特に大企業や多国籍企業、金融機関に対して、生物多様性への負の影響を漸進的に減らし、正の影響を増やし、生物多様性に関連するリスクを減らし、持続可能な生産パターンを確保するための行動を促進することを奨励し、可能にすることを目的とした法的、行政的、政策的措置を講じている国の数 |
(出典:参考文献*1)を基にMS&ADインターリスク総研作成)
2.自然移行計画に関する討議文書*2)
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が、10月27日に公開したこの文書は、自然移行計画を策定および開示する企業や金融機関向けのガイダンスの草案を示すものである。
このガイダンスは、自然損失の要因である気候変動と温室効果ガス(GHG)排出、および自然の炭素蓄積を除いて、自然のあらゆる側面をカバーしている。TNFDは、関連するイニシアチブやナレッジパートナー(GFANZ、TPT、SBTN、Business for Nature、WWFなど)と協力してこの文書を作成した。
なお、対象外となっている気候変動の側面に自然を含める移行計画については、同日にGFANZが Nature in Net-zero Transition Plans を公表しており、こちらでカバーされている。
(1)自然移行計画とは何か?
自然移行計画とは、2050年までに自然を回復に向かわせるために、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させるというGBFが示唆する移行に対応し、貢献するための組織の目標、ターゲット、行動、説明責任メカニズム、意図するリソースを示す、組織の全体的な事業戦略である。
このような計画における行動は、実体経済を変化させることを優先させるべきであり、負のインパクトの回避と削減、自然の保護・保全・再生・回復、自然喪失の要因に対処するための根本的なシステムの変革、先住民族・地域コミュニティ・ステークホルダーとのエンゲージメントが含まれる。
(2)現在の気候移行計画に関する市場慣行に基づいて策定
本草案は、気候変動のネット・ゼロ移行計画に関する現在の市場慣行を基礎として策定されている。特に、ネット・ゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)と Transition Plan Taskforce(TPT)の活動を基礎とし、移行計画の開発と開示に対する統合的なアプローチを支援する内容となっている。
TNFDの草案では、自然移行計画の開発と開示を行うテーマとして、GFANZの金融機関のネット・ゼロ移行計画報告書(2022年11月)で提供された指針の次の五つのテーマを踏襲している。
基礎:
範囲、ビジネスモデルとバリューチェーンの変更、計画の優先事項、移行のための資金調達戦略など、自然移行に対する組織の全体的なアプローチ
実行戦略:
事業活動、製品、サービス、方針を移行計画の優先事項と整合させるために、組織が実施する予定の措置
エンゲージメント戦略:
移行計画の実施を支援し、経済全体の移行を加速させるために、組織は他者とどのように協力するか
測定指標とターゲット:
移行計画の優先事項に対する進捗を管理するために組織が使用する測定指標とターゲット
ガバナンス:
移行計画の実施を監督し、インセンティブを与え、支援するための取締役会および経営レベルの構造とプロセス
GFANZ提言の詳細は、ネット・ゼロ達成のための内容であるため、TNFDの草案では自然特有の側面を反映している。例えば、エンゲージメント戦略において、企業が移行計画を実現するために行動を起こしているランドスケープ(陸域)、流域、またはシースケープ(海域)全体にわたるエンゲージメントを追加していること、また、測定指標とターゲットにおいて、依存とインパクトの測定指標を追加していることなどである・・・
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