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金融庁が人的資本と人権の有報好開示例を公表、定量情報や連結情報を重視
2025.2.13
金融庁は2024年12月27日、企業の有価証券報告書の優れた開示を紹介する「記述情報の開示の好事例集」第3弾を公表した。2024年版の3回目の更新となる今回は、「人的資本、多様性等」と「人権」の各テーマの開示例を追加した。
これまでの好事例集の中で、「人的資本、多様性」「人権」はそれぞれ21年と23年からテーマとして取り上げられてきた。今回は、これらのテーマの開示内容充実を求める投資家等の期待の高まりを受けて、より踏み込んだ内容を紹介している。
特色のある開示として、以下の企業の例を取り上げている。【図はすべて事例集からの引用】
人的資本・多様性では、財務情報との連動を意識し、定量的情報や連結ベースでの開示に注目。例えば、SHIFT(23年8月期)では、人材採用について、新卒、第二新卒、中途といった区分別に採用取り組みを定量情報も含めながら端的に記載した点が評価された。
【図1】SHIFTの例
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ニデック(24年3月期)は、人材開発における戦略の1つである「経営層および重要ポスト後継者候補の開発 」について具体的に記載し、関連する指標の目標と複数年の実績を定量的に記載している事例として取り上げられた。
【図2】ニデックの例
経営層および重要ポスト後継者候補の開発に関する指標 | 2022年度 | 2023年度 | 2025年度目標 |
---|---|---|---|
幹部候補の準備度 | ― | 59.8% | 70% |
内部承継率 | 65% | 84.6% | 85% |
後継者候補準備率 | 62% | 55.6% | 70% |
後継者の継承準備度(即時継承可能) | ― | 59.8% | 70% |
後継者の継承準備度(1~2年後に継承可能) | 62% | 55.6% | 70% |
後継者の継承準備度(3~5年後に継承可能) | ― | 40.2% | 60% |
また、天馬(24年3月期)は、多様性に関する指標を連結子会社の合計に加えて地域ごとに分けて集計した数値も記載した例として紹介された。
【図3】天馬の例
地域別 | 管理職 | 男女の賃金の格差 | ||
---|---|---|---|---|
全労働者 | うち正規雇用労働者 | うちパート・有期労働者 | ||
日本 | 2.0% | 54.9% | 71.4% | 50.8% |
中国 | 21.6% | 83.2% | 82.6% | 97.6% |
東南アジア | 40.2% | 97.1% | 94.8% | 101.5% |
北米 | 12.5% | 108.3% | 108.3% | ― |
合計 | 21.8% | 60.8% | 58.6% | 95.5% |
一方、人権では、人権デューデリジェンス等の結果だけでなく、識別された課題などの管理・解決の方法や未然防止取り組みについて開示することが有用と指摘。人権リスクに関する環境認識や影響、リスクへの対応体制、対応事例を端的に記載した例として、オムロン(24年3月期)を紹介している。
【図4】オムロンの例
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また、三井物産(24年3月期)は、人権リスク等の高い分野の原材料や商品について、トレーサビリティや認証品調達率の目標と実績を定量的に記載している点が評価された。
【図5】三井物産の例
商品 | 内容 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2030年目標 |
---|---|---|---|---|---|---|
天然ゴム | 原産地までのトレーサビリティ | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
パーム油 | ミルレベルまでのトレーサビリティ | 99.1% | 100% | 100% | 100% | 100% |
RSP0を始めとする持続可能確認証品取扱比率 | 6.9% | 11.2% | 12.2% | 18.6% | 100% | |
木材 | 国際的に認められた認証材・または準じる材の取扱比率[製材] | 100% | 100% | 77% | 0%※1 | 100% |
同上[製紙用ウッドチップ] | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% | |
紙製品 | 違法性のない原料で製造された製品であることのトレーサビリティ | 91% | 93% | 100% | 100% | 100% |
個別のテーマとは別に、「投資家・アナリスト・有識者が期待する開示を充実化させるための取組み」として、数値などをまとめた表を、「画像」ではなく「テキスト」での掲載の推奨を追加した。読み手がデータを取り込み分析しやすいよう配慮を求めた。
同庁は今年度内に、第4弾として「コーポレート・ガバナンス」の好事例を公表する予定だ。
【参考】
1)認証団体のFSCが特定産地国材に対する認証付与を取りやめたことによるもの。認証付与が取りやめになった当該製材については2024年4月時点で新規受注を終了しており、2024年6月に履行完了見込み。