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2025年3月28日にミャンマー中部で発生した地震について② 長周期地震動による被害と地震後の安全点検 【InterRisk Asia Report 2025 No.02】

[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第二グループ
執筆者名
グループ長  鈴木 恭平 Kyohei Suzuki

2025.4.2

2025年3月28日、ミャンマー中部の大地震により被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

要旨
  • 2025年3月28日にミャンマー中部で発生した地震では、震源から約1000km離れたバンコクで長周期地震動によって高層ビルが大きく揺れ、多くの建物で被害が発生しました。
  • 長周期地震動は震源から離れた場所であっても高層建築物を中心に被害を及ぼす可能性があり、十分な対策が必要となります。
  • 地震直後に建物の継続使用可否を判断するためには調査が必要となりますが、専門技術者がすぐに手配できないことも考慮し、施設管理者自らが点検を実施できる体制を構築することが重要といえます。
  • 長周期地震動では、建物の被害だけでなく室内の家具・什器の被害も想定され、事前の対策が重要となります。
  • 巻末に地震後の安全点検チェックリストを添付しますので、ご活用ください。

長周期地震動の特徴

地震の揺れ(地震動)には、周期(揺れが1往復するのにかかる時間)の短いガタガタした揺れや周期の長いゆったりとした揺れなど、様々な周期の揺れが混在しています。「長周期地震動」とは、長い周期の揺れを多く含んでいる地震動のことをいいます。一般に、長周期地震動は短い周期の揺れに比べて揺れが減衰しにくいため、震源地から遠く離れた場所まで伝わる性質があります。

建物には固有の揺れやすい周期(固有周期)がありますが、地震動の周期と建物の固有周期が一致すると共振して、建物が大きく揺れます。建物の固有周期は高さによって異なり、木造家屋や低層ビルでは固有周期が短く、高層ビルでは固有周期は長くなる傾向があります。長周期地震動は長い周期の揺れを多く含むので、固有周期の長い高層ビルほど大きな影響を与えることになります。

図 短い周期の地震動と長周期地震動による揺れの違い
図 短い周期の地震動と長周期地震動による揺れの違い(出典:日本気象庁 1)

建物と同様に地盤にも固有周期があり、硬い岩盤ほど固有周期が短く、柔らかい地盤ほど固有周期が長くなります。震源から離れた場所であっても、柔らかい地盤によって長周期地震動が増幅され、さらに建物の固有周期と一致し共振が起こる場合、建物に大きな被害を及ぼす可能性があります。

今回の地震では、震源であるミャンマー中部から約1000km離れたタイ・バンコクで長周期地震動による高層ビルの被害が多く見られました。バンコク周辺のチャオプラヤ川やバーンパコン川にかけての一帯には「バンコク粘土層」とも呼ばれる軟弱な粘土層の地盤が広がることが知られており、長周期地震動が増幅した要因の一つと推定されます。

図 バンコクの地質断面
図 バンコクの地質断面 2)

長周期地震動による過去の被害事例

過去の地震でも、長周期地震動により震源から離れた場所で様々な被害が報告されています。

(1)建物倒壊被害

1985年メキシコ地震では、震源から約400km離れたメキシコシティで多くの建物が倒壊する被害が発生しました。被害はメキシコシティの広範な地域で発生したわけではなく、市内の軟弱地盤地域に集中しており、特に中高層の鉄筋コンクリート造建物に顕著な被害が生じています。

(2)スロッシング

スロッシングとは、容器内の貯蔵される液体が長周期の揺れを受けることで揺動する現象をいいます。例えば2003年十勝沖地震では、震源から約250km離れた苫小牧にある石油タンクでスロッシングが起こり、タンク浮き屋根の損傷や流出した石油による火災が発生しています。

今回の地震では、バンコクの高層コンドミニアムの屋上階にあるプールの水がスロッシングにより外部に溢れる事象が確認されています。

(3)エレベータのロープの損傷被害・閉じ込め被害

例えば2004年新潟県中越地震では、震源から約200km離れた東京都内の高層建物でエレベータのロープ損傷被害が報告されています。また、2011年東北地方太平洋沖地震では、エレベータロープの絡まりによる閉じ込め事象も発生しています。

(4)非構造部材の被害

長周期地震動に伴う建物の揺れにより、柱・梁などの建物構造躯体のみならず、間仕切壁・床・天井といった非構造部材に被害が生じることがあります。例えば2011年東北地方太平洋沖地震では、震源から約800km離れた大阪の高層ビルで壁面ボードのゆがみ・亀裂、天井ボードの落下、床材のゆがみ・浮き、防火戸のゆがみといった被害が発生しています。また、東京都内の高層ビルではスプリンクラー配管からの漏水やエキスパンションジョイントカバーの脱落といった被害が報告されています。

今回の地震では、バンコクの高層ビルで間仕切壁のひび割れや天井ボードの落下といった非構造部材の被害が多数報告されています。

(5)室内の家具・什器の被害

高層建築物の高層階では、長周期地震動により大きな揺れを長時間受けることになり、建物に被害が生じない場合であっても室内の家具・什器に被害が生じる場合があります。例えば2011年東北地方太平洋沖地震では、固定されていない棚の転倒、キャスター付きの什器・コピー機の移動といった被害が発生しています。

 

地震後の安全点検

地震後の建物継続使用に際して、建物の安全性の確認および室内の家具・什器等の安全状況を確認することが重要です。以下では、日本国内の文献をもとに建物および室内の家具・什器の安全点検の方法について解説します・・・

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