レポート/資料

企業に求められる土地利用・転換への目標設定 -SBTs for Nature 陸域ガイダンスの解説- 【サステナブル経営レポート 第26号】

[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ第一グループ
執筆者名
主任コンサルタント 塚本 陸

2025.4.2

本号の概要
  • 本稿では、2024年7月に公開された自然に関する科学的根拠に基づく目標(Science Based Targets for Nature SBTs for Nature)の陸域の目標設定ガイダンス「Technical Guidance 2024 Step3 Land v1」の概要とポイントを整理する。
  • 近年は人口増加や資源の大量消費に起因する土地占有の拡大や土地転換などにより、陸域の自然環境の劣化が懸念されている。こうした自然関連課題に対して企業が取り組みを検討する際は科学的根拠に基づいた定量的な目標の設定が望ましいが、一方で自然関連分野ではこうした 枠組みは限られていた。
  • 今回公開された陸域の目標設定ガイダンスでは、自然生態系の直接的・間接的な転換を抑止する「自然生態系の転換ゼロ」、農業による土地占有を削減して生態系の回復のために土地を開放することを目指す「土地利用の削減」、自然の回復につながる行動を地域単位で推進するための「ランドスケープエンゲージメント」という3つの目標に対して要件が定められている。これらの目標達成に向け取り組みを推進することで、陸域へのインパクトの低減を図る。
  • 依然としてSBTs for Natureの目標設定のハードルは高いが、各ステップを丁寧に検討することで、自社にとってリスクとなりうる自然関連のインパクトの低減に効率よくアプローチすることが可能となる。自然関連分野は気候分野と比較しても考慮すべき内容が多く、自然関連課 題への取り組みは気候以上に社内協力、リソースの確保、プロジェクト管理が肝要である。

1. はじめに

陸域は生息地や生活の場をもたらすだけでなく、水質浄化や気候調整、バイオマス・食糧生産など、多様な生態系サービスの土台となっており、地球上の生命を支えている。一方で、近年は人口増加や資源の大量消費に起因する土地占有の拡大や土地転換などにより、陸域の自然環境の劣化が懸念されている。現在の土地利用のあり方は持続可能とはいえず、「ネイチャーポジティブ社会」や「自然と共生する世界」の実現に向け早急に取り組みを進める必要がある。

生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services IPBES)の「土地劣化と再生に関する評価報告書」によると、人間活動に伴う陸域の劣化により、少なくとも32億人の福利に悪影響が及んでいるという1)。また陸域の劣化が地球を6回目の大量絶滅に追い込むとともに、生物多様性および生態系サービスの消失により世界の年間総生産の10%以上に相当する経済的損失を引き起こすとの見解も示されている。同報告書によると、陸域の劣化やそれに関連する生物多様性の消失の主な直接的要因として、在来植生地への耕作地や放牧地の拡大、持続不可能な農林業、採取・採掘産業が挙げられるという。なかでも農地は陸地の約3分の1、氷河や砂漠などを除く居住可能な陸地に限ると約半分を占めており2)、農業関連セクターは陸域の生態系や生物多様性に影響を与えやすいセクターといえる。

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に代表されるように、昨今は企業に対して自然関連の依存・インパクト、リスク・機会(自然関連課題)を把握し、適切に対処することが求められている。自然関連課題に対して企業が取り組みを検討する際は、目標を設定することが効果的である。ここで設定する目標は科学的根拠に基づいた定量的な目標が望ましいが、一方で自然関連分野について科学的根拠に基づいた目標を設定する枠組みは限られていた。こうした背景もあり、2023年5月に「自然に関する科学的根拠に基づく目標(Science Based Targets for Nature SBTs for Nature」が公開された。既に気候変動分野では、企業等が科学的知見に基づいて1.5℃の気温上昇経路に整合した温室効果ガスGHG)排出削減目標を設定する「Science Based Target (SBT)」が主流化しているが、)」が主流化しているが、SBTs for Natureはその自然版となる目標設定枠組みである。2023年5月に淡水のSBTs for Nature目標設定ガイダンスが公表されたのを皮切りに3)、2024年7月には陸域の目標設定ガイダンス「Technical Guidance 2024 Step3 Land v1」が公開された。本稿ではこの陸域目標設定ガイダンスの内容とそのポイントを整理する。なお、以下では同ガイダンスにより設定する目標を「陸域目標」と表記する。

1)IPBES Assessment Report on Land Degradation and Restoration
https://www.ipbes.net/assessment-reports/ldr

2)Hannah Ritchie and Max Roser (2019) - “Half of the world’s habitable land is used for agriculture”
https://ourworldindata.org/global-land-for-agriculture

3)詳細はESGリスクトピックス2023年度 No.5「『 SBTs for Nature』第1版を公表 自然に関する企業の目標策定に影響」参照
https://rm-navi.com/search/item/900

2. SBTs for Natureの概要

SBTs for Natureは企業向けの自然に関する科学的根拠に基づく目標設定の枠組みである。

【図表1】SBTs for Natureの5つのステップ

【図表1】SBTs for Natureの5つのステップ

出典:「SBTN企業のための初期ガイダンスエグゼクティブサマリー(日本語仮訳)」4を参考にMS&ADインターリスク総研仮訳

SBTs for Natureは企業およびそのバリューチェーンの自然に対するインパクトについて、「Step1 分析と評価」、「Step2 結果の理解と優先順位づけ」、「Step3 計測、目標設定と情報開示」、「Step4 計画の策定と行動」、「Step5 進捗状況の追跡」という5つのステップで…

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