レポート/資料

資金動員と政治対立に左右されたCOP29【RMFOCUS 第93号】

[このレポートを書いた専門家]

粟野 美佳子
会社名
一般社団法人SusCon
執筆者名
代表理事  粟野 美佳子 氏 Mikako Awano

2025.4.2

要旨
  • COP28のような会場の広さではないため、参加者数も出展数も前回より少なくなったが、それ以上に各国の政治状況が出展者の顔ぶれに影響を与えた。
  • トランプ大統領の再選決定直後の開催で、アメリカ政府関係者の大半がこの話題を回避。他方、民主党上院議員は国境炭素調整(CBAM)の導入議論が超党派で進んでいることを紹介した。
  • 炭素クレジットの国際移転に関する条約での詳細ルールは確定したが、民間炭素市場の問題が解消されると見るのは早計だ。

2024年11月に開催された第29回気候変動枠組条約締約国会議(COP29)は、例年に比べ各国の国内政治状況や外交関係が影を落とし、ドバイで開催された前回COPにみられたビジネス界の盛り上がりもしぼんでしまった感がある。条約本体では、長年積み残されてきた、炭素クレジットの国際移転に関わる詳細ルールがようやく決着はしたものの、それで現状の炭素クレジットが抱える課題が一気に解決ということでもない。

本稿では、トランプ氏の大統領当選が決まった直後に開催されたCOP29の会場の雰囲気やアメリカ政府関係者の様子、企業のネットゼロ目標達成にも関係する炭素クレジットの問題を、会期中の公式サイドイベントやパビリオン(国や民間団体によるブース)での議論を軸として紹介していく。

1.巨大化は一服

今回と前回の大きな違いは、規模である。前回のドバイは万博跡地という広大な場所で開かれたことから、スタッフ含め8万人以上という過去最大の参加者数を記録した。これに比べ今回の開催場所はアゼルバイジャンの首都バクーにあるオリンピックスタジアムとその周囲を使用しており、会場が圧倒的に狭い。COPの会場内に入れるのは政府や国際機関の他、条約事務局から参加資格を得ているオブザーバー団体に限られるのだが、オブザーバー団体も人数割り当てがあり、希望した人数通りに許可が下りるわけではない。前回はオブザーバーのカテゴリーだけで13,000人以上が参加登録を許可され会場に押し寄せていたが、今回議長国はこれを9,500人までとする方針を打ち出し、一気に参加登録が狭き門となったのである。割り当てにあたっては、参加者が欧米の組織に大きく偏っている状況が途上国から問題視されてきたことを受け、欧米の組織に対する割り当て数を全体的に減らす変更を実施。1名しか登録できないNGOや教育機関が続出した。最終的にバクーに足を運び会場に入った人数はオブザーバーでは8,400人未満にとどまり、総参加者数の面でも、大量に配置された現地ボランティアスタッフを入れても54,000人強と縮小した。

しかしそれでも5万人以上である。会場が手狭ということもあり、通路は人であふれかえり、ラッシュ時間帯のJRの駅を上回る混雑に、2日目あたりから右側通行が徹底された。条約交渉を長年追ってきた参加者からは、COPがビジネスエクスポ化し、交渉とは無関係になってきていることに懸念を示す声も出始めている。他方、今回初めてCOPの経済効果調査を条約事務局が実施。宿泊代や食事代等でどれだけのお金がアゼルバイジャンに落ちたのか、アゼルバイジャンの印象改善につながったか、参加者にアンケートを行った。調査結果が公表されるのかは不明だが、最低でも通常の3倍以上に高騰するホテル価格を考えれば、議長国にとっての経済的メリットはかなり大きいと思われ、規模縮小の方向にはおそらく向かわないだろう。

2.パビリオンは世界の縮図

規模縮小は参加者数だけではない。パビリオンの出展数も230以上あった前回から150強とかなり減っている。だが、パビリオンについては数以上に、顔ぶれと内容に特徴があった。当然のことながら、アゼルバイジャンの周辺国カザフスタンやキルギスタン、ジョージアが初めてパビリオンを出展。だが、アゼルバイジャンとは歴史的に敵対関係にあるアルメニアは出展しておらず、アルメニアとつながりが深いフランスもパビリオンを出さなかったのである。フランスについてはパビリオン以上に、本会議から環境大臣が退席するという異例の事態になったことが波紋を呼んだ。アゼルバイジャン大統領が会期3日目の「世界リーダーズサミット」で、マクロン体制はニューカレドニアで市民を虐殺していると演説で名指し非難。アゼルバイジャンがニューカレドニアの独立派を支援しているためフランスとは外交的にこじれていたが、外交儀礼を無視した演説にフランスは激怒。環境大臣が本国に帰国し、会期2週目の閣僚会合も気候特使だけ派遣して、大臣は戻ってこなかったのだ。

パビリオンはあるが中身が何もないEUも異例と言えば異例である。欧州委員会のフォンデルライエン委員長は再任されたが、日本で言えば各省大臣にあたる委員が正式に任命され、第二期として発足したのは12月1日からである。この政治スケジュールでは、始動前の11月に2週間にも及ぶパビリオンのプログラムを組みようがなかったのだろう。かなり早い段階から、今年はセッションプログラムがないことは告知されていた。2019年のCOP25でEUグリーンディール政策の発表がパビリオンで行われ、当時その場に居合わせた筆者は超満員の会場にあふれる熱気に圧倒されたものである。それを思うと、毎年EUの環境政策を世界にアピールする場として機能してきたパビリオンが単なる休憩所になってしまったのは(写真①)、今のEUの迷走ぶりの予兆だったのかもしれない。

【写真①】EUパビリオン
【写真①】EUパビリオン
自動プレゼンテーションでEUの政策を映し出していた
(Photo: UN Climate Change - Habib Samadov<https://unfccc.int/cop29>)

対照的に存在感を見せつけたのが中国である。パビリオン出展は有料なので、ブースのサイズはそれぞれの懐事情によるが、中国パビリオンは議長国アゼルバイジャンに匹敵する広さで、次の議長国ブラジルよりも目立っていた。アメリカが条約の世界から姿を消していく中で、中国が世界のリーダー国の座につかんとする野心を感じたのは、筆者だけではあるまい(写真②③)。

【写真②】中国パビリオン
【写真②】中国パビリオン
(Photo: UN Climate Change - Kamran Guliyev<https://unfccc.int/cop29>)
【写真③】中国パビリオンの一角は記念撮影用コーナーになっていた。ここだけでも小さなパビリオン一小間分は優にある
【写真③】中国パビリオンの一角は記念撮影用コーナーになっていた。ここだけでも小さなパビリオン一小間分は優にある
(Photo: UN Climate Change - Kamran Guliyev<https://unfccc.int/cop29>)

3.アメリカの行方

大統領選の結果が早々に出て、気候変動推進派のバイデン政権から気候変動否定派のトランプ政権へと、振り子が反対方向に動くことが明確になったアメリカはどうだったか。バイデン政権下では毎年アメリカ政府もパビリオンを設けており、気候変動政策を様々な省が代わる代わるアメリカ国内向けにアピールするというのが、パビリオンの内容であった。そのため、筆者はこれまであまりアメリカのパビリオンには足を向けなかったのだが、今回は民主党敗北を受け、どのような発言が飛び出すかを期待していくつかのセッションに参加してみた。・・・

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