
福岡県久留米市「1日でも早く被災者に日常を取り戻してほしい」被害認定調査計画の策定支援サービス導入の背景
2025.6.24
福岡県南部に位置する久留米市。2023年までの6年間に5回の大規模な豪雨災害に見舞われました。そのたびに、被災者の生活再建に必要となる「り災証明書」発行のための被害認定調査に多大な労力がかかったといいます。
「1日でも早く、被災者が日常を取り戻せるように支援したい」。久留米市はその思いから、家屋の被害認定調査を効率化するツールと管理者向けのマネジメント研修がセットになった、MS&ADインターリスク総研の「被害認定調査計画の策定支援サービス」を導入しました。
久留米市はどのような課題に直面していて、このサービスを活用してどう解決しようとしているのか?担当の職員のみなさまにお話を伺いました。
流れ
- 毎年のように起きる豪雨災害
- 課題となった調査計画作りのスピードアップ
- 被災家屋の軒数と調査要員数の自動算出で大幅効率化
- ツールにセットされた研修で使い方の習得も


話を伺った久留米市の職員のみなさま
毎年のように起きる豪雨災害
ーー久留米市では、2024年5月に、家屋の被害認定調査の効率化ツールを導入されました。そのきっかけを教えていただけますでしょうか?
久留米市)当市では、2018年から毎年のように大規模な豪雨災害(表1)が起きました。特に、2023年の豪雨では、内水氾濫に加えて外水氾濫、土砂災害も発生して、2名の尊い命が失われてしまいました。
【表1】久留米市で発生した豪雨災害


久留米市や内閣府情報をもとにMS&ADインターリスク総研で作成
このような豪雨災害が相次ぐ中で、家屋の被害認定調査の計画作りや実施にかなりの時間と労力がかかったことから、「1日でも早く、被災者が日常を取り戻せるように支援したい」と考えていたことが、今回のツールの導入のきっかけです。
課題となった調査計画作りのスピードアップ
ーーそもそもの話になりますが、豪雨や地震の災害が発生した際、自治体としては家屋の被害認定調査を含めてどのような対応をする必要があるのですか?
久留米市)自然災害によって家屋に被害を受けた住民のみなさまが公的な支援を受けるためには「り災証明書」が必要となります。その前提となるのが、家屋の被害の程度を評価する「被害認定調査」です。大規模な被害が出ると、調査対象となる家屋の数も増えるため、自治体は次のような情報を集めて、調査計画を作る必要があります。
- 被災した家屋の棟数の把握
- 調査に必要となる要員数の把握(他の自治体への応援要請含む)
ただ、災害の規模が大きくなればなるほど、被害の全体像を把握することが難しくなるため、調査に必要な要員数を見極めにくく、調査計画の策定にも時間がかかってしまいます。それによって、り災証明書の発行が遅れていくことになります。
いかに調査計画を迅速に作って、家屋の被害を評価する調査を実施できるかは、被災者の生活の早期再建に直結するのですが、毎年のように豪雨が発生して1000件を超える家屋の調査をする必要がある中で、なんとかスピードアップできないか検討を重ねていました。
被災家屋の棟数と調査要員数の自動算出で大幅効率化
ーー被害認定調査の効率化ツールは、そうした課題の解決につながると考えて導入されたということですか?
久留米市)先ほどお伝えしたように、家屋の被害認定調査の計画を立てるためには、被災家屋の棟数の把握と調査要員数の把握が必要となります。ツールの活用によって、この2点を効率化してスピードアップできると考えました。
ツールを使うと、水害が発生した際に国土地理院が提供している「浸水推定図」※などに基づいて、浸水エリアを推定して、被災家屋の棟数を自動で算出可能となります。また、推定された被災家屋の棟数に基づいて、調査に必要となる要員数も自動で算出できるようになります。
※浸水推定図:国土地理院が「平成30年7月豪雨」以降、大規模水害時に発災直後の被災自治体向けに発信している、浸水範囲の水深を色の濃淡で表した地図。
これらの情報は、ツールにひな形として用意されている調査計画書に自動で入力されるため、計画書の策定にかかっていた時間を大幅に短縮できると期待しています。

ツールでは、専用のサイトから「調査件数・調査体制が自動入力された計画書」「被災住家マップ」など4つのファイルをダウンロードできる
ツールにセットされた研修で使い方の習得も
ーー実際にツールを操作してみて、いかがでしたか?
久留米市)役に立つツールであっても、実際に災害が起きた際に我々自身がしっかり使いこなせないと意味がないと思っていたので、ツールに「被害認定調査業務のマネジメント研修」がセットになっていた点も、ツールを導入するかどうか検討するうえで決め手の1つとなりました。
研修は調査業務の管理者向けの内容で、内閣府の「災害に係る住家被害認定業務・実施体制の手引き」や過去の被災地で行われた実際の業務を分析して作成されたということでした。想定される災害の演習を通して、平時の段階から実際にツールを使ってみることで、使い方を習得することができました。
マネジメント研修のプログラム例

大規模な災害が起きると、ほかの自治体からの職員も多数応援に来てもらうことになるので、マネジメント研修で得た知見は、効率的で円滑な被害認定調査の計画作りと実施に非常に役立つ内容だと感じました。
このツールの導入で調査計画の策定の効率化とスピードアップにつながると期待しています。一方で、万が一大規模な災害が起きて、ほかの自治体からの応援者含めて計画通りに調査を実施するためには、訓練を重ねてレベルを維持・向上させていくことが課題だと考えています。
マネジメント研修で得た知見をもとに当市の中で繰り返し訓練を行うなどして、災害が起きた際に、被災者のみなさまの迅速な生活再建につなげられるよう取り組んでいきたいと思います。
【自治体様向け】被害認定調査の効率化を可能にするデジタルソリューション
MS&ADインターリスク総研では、「被害認定調査計画の策定支援ツール」も含めて、自治体様が被害認定調査を効率的に実施できるようにするためのデジタルソリューション「被害認定調査DXパッケージ」をご用意しています。
その中心となるサービスが、久留米市様が導入した「被害認定調査計画の策定支援ツール」と、損壊した住家の被害額を自動で計算できる「損害割合カリキュレータ」の2つです。
当社が積み上げてきた多くの経験と実績に基づき、調査計画の策定から、実際の調査、職員の研修までトータルで支援することで自治体の皆さまの負担を軽減し、迅速なり災証明書発行業務を支援します。