
地方公共団体における公共施設の老朽化に対するマネジメント【RMFOCUS 第94号】
-
ご登録済みの方は
[このレポートを書いた専門家]

- 会社名
- 三井住友海上火災保険株式会社
- 部署名
- リテールマーケット戦略部 地方創生推進チーム
2024年度自治体職員派遣研修生 - 執筆者名
- 特別推進役 小又 悠右 Yusuke Omata
(東京都研修生)
(組織名・役職名は2025年3月執筆当時のものです)
2025.7.1
- 日本の公共施設は、多くが高度経済成長期に建設され、老朽化対策が急務となっている。
- 老朽化した施設の修繕・更新には膨大な費用がかかることに加え、将来的な人口減少および税収減も想定されることから、地方公共団体においてはコストと運用の両面で中長期的視点の対応が求められる。
- 各地方公共団体においては、一律的なコストカットの取り組みは限界を迎えており、老朽化対策への新たな取り組みとして「予防保全」型の施設管理の導入や、将来需要を見据えた施設規模の適正化、異なる機能の施設の複合化、民間事業者との連携による効率化等を推進している。
- 公共施設の老朽化問題は、その地域の住民生活や将来的なまちづくりにつながる重要な取り組みであり、コスト・運営の両面から適切な対策を講じることで、公共サービスの質の維持・向上を目指すことが重要である。
1. 公共施設の老朽化
地方公共団体が保有する公共施設(本稿では道路、橋梁、河川、上下水道等の「インフラ系」を除く)は、社会の基盤として重要な役割を果たしている。これらの施設には、庁舎、学校、公民館、図書館、福祉施設など住民の生活に直結する様々な施設がある。
これらの施設の多くは、1960年代以降の高度経済成長期に人口増加に伴い集中的に建設されたものが多く、老朽化が進行し耐用年数を超えるものが増えた結果、地方公共団体では、これらを一斉に修繕・更新する時期を迎えるとともに、それに伴う維持管理費の増大という課題に直面していた1)。
このような公共施設等の老朽化問題を背景に、国は2013年11月に「インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議」において「インフラ長寿命化基本計画」を策定し、国や地方公共団体等が管理するあらゆるインフラを対象に戦略的な維持管理・更新等の方向性を示した1)。
この計画を受け、総務省では、各地方公共団体に対し、公共施設の統廃合・複合化や立地適正化、長寿命対策等を推進することで、維持管理・更新等にかかる財政負担の軽減・平準化を進めるための「公共施設等総合管理計画」を2016年度末までに策定するよう要請した。各地方公共団体では、個別の施設ごとに長寿命化の方針を定め、点検・診断、修繕・更新、情報の記録・活用といったメンテナンスサイクルの構築を進め、2024年3月末時点での策定率は100%となった2)。
参考までに、公共施設の老朽化の財政負担については、国土交通省が所管する12分野(道路、河川・ダム、砂防、海岸、下水道、港湾、空港、航路標識、公園、公営住宅、官庁施設、観測施設)における予防保全の考え方を基本にした場合の2048年度までの維持管理・更新費用は176.5~194.6兆円程度、そのうち「その他6分野」に分類される空港、航路標識、公園、公営住宅、官庁施設、観測施設だけでも42.3~46.4兆円程度かかることが推計されている3)(図1)。
【図1】国土交通省所管分野における社会資本の将来の維持管理・更新費の推計

2. 公共施設老朽化の現状と課題
各地方公共団体の税収や施設の利用状況、適正規模を検討する意味で、公共施設の老朽化問題は、人口減少の問題とも大きく関わっている。日本の将来人口推計(令和5年推計)4)(表1)によれば、総人口が減少する都道府県数は今後も増え続け、令和2(2020)年から令和32年(2050)年にかけて東京都を除く46道府県で総人口が減少していくことが予想されている。
つまり、各地方公共団体において老朽化施設の維持管理費や更新費を軽減・平準化する取り組みを進めたとしても、人口減少の進行による税収、施設利用料の減収、過疎化による人材不足等も同時に進むことが予想され、地方公共団体の人口動態によって、老朽化対策に要する十分な財源の確保が困難となってしまうことが懸念される。人口減少や財政の制約により、これまでのような維持管理・更新は難しく、より効率的なまちづくりが求められることとなる。
【表1】都道府県別総人口の推移


前述の定期的な点検・診断は各施設分野で定められたサイクルに基づき、おおむね順調に進められているが、点検結果に応じた修繕・更新については、多くのインフラを管理する都道府県や市区町村において未着手の施設がいまだ多く残っており・・・
ここまでお読みいただきありがとうございます。
以下のボタンをクリックしていただくとPDFにて全文をお読みいただけます(無料の会員登録が必要です)。
会員登録で レポートを全て見る

ご登録済みの方は