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健康経営を人材確保につなげるには ~就活学生に対するリクルート効果の実態と企業が取り組む上でのヒント~【RMFOCUS 第94号】

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[このレポートを書いた専門家]

新井 卓二 氏
会社名
ビューティ&ウェルネス専門職大学
執筆者名
専任教授 新井 卓二 氏 Takuji Arai

2025.7.1

要旨
  • 健康経営が普及する中、経済産業省の調査では就活学生やその親が「従業員の健康や働き方に配慮」を重視する一方で、他の調査では就職人気ランキングに対する健康経営の影響は認められず、その要因として大学生における健康経営の認知度が低いことなどが推察される。
  • 大学生における健康経営の認知度は約25%、大学のキャリアセンター職員は約78%と差があり、キャリアセンター職員は健康経営を知っているものの、就活学生にはあまり紹介していない状況にある。
  • 企業が健康経営の取り組みによりリクルート効果を得るためには、ホームページや各種求人サイト上でこれらを紹介することや、メディア等への露出を狙うなど、求職者の目に触れるよう周知していくことが望まれる。
  • 昨今、陸上自衛隊や国家公務員等においても健康経営への取り組みや検討が進められている。また、健康経営に関する国際規格ISO 25554(Wellbeing ISO)が発行され、大阪・関西万博において健康経営が紹介されるなど、国際的な関心の高まりとともに国内でも取り組む企業がさらに増えていく可能性がある。

1. 健康経営の現状

「健康経営」という言葉をご存じの読者も多いのではないでしょうか。経済産業省のホームページによると、健康経営とは「従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」1)とあります。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されています。

健康経営は、1992年に出版された『The Healthy Company』2)の中で、著者のロバート・ローゼン氏が提唱したことが発端とされています。日本には、2006年に岡田邦夫氏がNPO法人健康経営研究会3)を発足させ、持ち込まれました。

2010年には、経済産業省が「健康会計(仮称)」を提唱したことがきっかけとなり、健康経営と名がつく初めての書籍『会社と社会を幸せにする健康経営』4)が発刊されました。その後、2015年から現在まで毎年続いている上場企業を対象とした顕彰制度の健康経営銘柄5)を、経済産業省と東京証券取引所の共催で開始し、2017年からは経済産業省と日本健康会議6)の共催で、上場企業だけでなく医療法人や未上場企業も対象とした新たな顕彰制度、健康経営優良法人7)(大規模法人部門と中小規模法人部門)が開始されました。健康経営優良法人認定の上位500社に、それぞれ「ホワイト500」、「ブライト500」の冠が付与されています。また、2024年からは中小規模法人部門への申請企業が2万社を超えたため、上位500社の表彰だけでは少ないとの判断となり、「ネクストブライト1000」が新設されています。2024年度までの認定数は、表1のとおりです。

【表1】健康経営銘柄、健康経営優良法人の回答数と認定数等

健康経営銘柄、健康経営優良法人の回答数と認定数等
(出典:経済産業省主催の第2回健康経営推進検討会事務局資料を基に筆者作成)

健康経営銘柄および健康経営優良法人に認定されるためには毎年行われる健康経営度調査に回答する必要がありますが、上場企業では全約3,800社のうち、3割超の1,264法人8)が、また、日経平均株価を構成する225の日本を代表する大企業では8割強が回答しています。中小規模法人部門でみると、申請数は2024年 度で20,260 件と、前年度比で約17%増加しています。総務省・経済産業省「令和3年経済センサス―活動調査」によれば、日本の中小企業のうち1人以上の従業者を有する企業数は約170万社ということですから、中小規模法人の申請率は全体の1%強で、大企業に比べて浸透は遅れているものの、ここ数年で多くの企業が取り組み始めており、健康経営は日本において取り組みやすい企業戦略ともいえるのではないでしょうか。

また上場企業でも取り組むところが増えていることから、健康経営は株主からも肯定的にとらえられていると推察できます。企業がどんな経営戦略をとる場合も、元気でいきいきとした社員や活力ある組織は好ましく、健康経営は他の経営戦略とは競合しない戦略といっていいでしょう。

2. 健康経営のリクルート効果

近年、健康経営に期待される効果の一つに、リクルート効果があります。リクルート効果とは、経済産業省の資料によれば、優秀な人材が獲得でき、人材の定着率が向上すること1)、アメリカの研究では、就職人気ランキングの順位上昇で採用に有利になること9)とされています。

日本では、総人口の減少や高齢化の進行等の人口動態の変化により、人手不足割合(正社員/非正社員不足を感じている企業の割合)の高止まりが続いています。人手不足割合は、コロナ禍前の2018年11月に過去最高の53.9%(正社員)を記録しましたが、2024年12月時点でも52.6%と、高止まりが続いています・・・

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