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海洋関連課題の概説と国際的な動向 ―国連海洋会議での議題を含めたポイントの紹介-【サステナブル経営レポート 第27号】

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[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ第一グループ
執筆者名
主任コンサルタント 坪井 絵里子 Eriko Tsuboi

2025.8.1

要旨
  • 2025年6月9日~13日の5日間、フランス・ニースにおいて第三回国連海洋会議(UN Ocean Conference:UNOC3)が開催され、筆者も現地参加した。
  • UNOC3のメインテーマは「海洋の保全と持続可能な利用に向けた行動の加速とあらゆる主体の動員」であり、持続可能な開発目標(SDGs)の中でも特にSDG14(海の豊かさを守ろう)の達成に向けて、様々な主体が協力して行動を起こす必要があることが改めて強調された。
  • 海洋関連の課題は生態系の保全や汚染問題など多岐にわたるため、本稿では特に企業との関連性が深いテーマを中心に国際的な動向を紹介し、UNOC3におけるポイントをいくつか抜粋して解説する。

1. はじめに

2025年6月、第三回国連海洋会議(UN Ocean Conferece:UNOC3)がフランス・ニースで開催された。ニューヨーク(2017年)、リスボン(2022年)に続く3回目の開催であり、フランスとコスタリカの2ヵ国の共催によって「海洋の保全と持続可能な利用に向けた行動の加速とあらゆる主体の動員」をテーマに実施された。

会議の場では、海洋に関するあらゆる課題について議論された。例えば以下のようなテーマである。

  • 海上輸送を始めとする産業活動からのGHG排出
  • 海洋生態系の保全のための取り組みや保護地域の拡大
  • 持続可能な海洋資源の利用
  • IUU(違法・無報告・無規制)漁業

本稿においては、これまで議論されてきた海洋関連課題の国際的な動向の中で企業の事業活動に関連するテーマを中心に概説し、UNOC3で示された直近の海洋関連の動向や議題を紹介する。

2. 海洋関連の課題・国際的な動向について

2-1. 国際的な海洋関連の目標

地球の約7割を占める海洋に関して、これまで幅広いテーマで国際的な議論が行われてきた。国際的な目標の一つである2030年のSDG14(海の豊かさを守ろう)の達成のためには科学的な知見の蓄積や協力が不可欠であるとして、2017年12月の国連総会において「国連海洋科学の10年」と称し、2021年~2030年の間、海洋関連課題に集中的に取り組むことが宣言された。2025年はちょうどその中間年にあたる。さらに2022年には生物多様性条約のもとでグローバル生物多様性枠組み(GBF)が採択され、2030年までに陸域と海域のそれぞれ30%を保護する(30by30)などの目標も定められた。

UNOC3においても随所でSDG14のターゲット(下表)に触れながら、その達成に向けた議論が行われた。

【表】SDG14のターゲット(MS&ADインターリスク総研より一部要約)*1)


14.1 2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む陸上活動によるあらゆる海の汚染を防ぎ、大きく減少する


14.2 2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に対する重大な悪影響を回避し、健全で生産的な海洋のための回復措置を講じる


14.3 あらゆるレベルでの科学的な協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限に抑え、対処する


14.4 2020年までに、過剰漁業、違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)、破壊的な漁業慣行を根絶し、科学的根拠に基づいた管理計画を実施することにより、水産資源を最大持続生産量を生み出せる水準まで回復させる


14.5 2020年までに、国内法及び国際法に則り、入手可能な最良の科学情報に基づき、沿岸域及び海域の少なくとも10%を保全する


14.6 2020年までに、過剰漁獲等につながる漁業補助金を禁止し、IUU漁業につながる補助金を撤廃し、新たな補助金の導入を控える


14.7 2030年までに、持続可能な漁業管理、養殖業、観光業などを通じて、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国における海洋資源の持続可能な利用による経済的便益を増大させる


14.a 海洋の健全性を向上させ、開発途上国の開発に対する海洋生物多様性の貢献を高めるため、科学的知識の向上、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う


14.b 小規模零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する


14.c 海洋及びその資源の保全と持続可能な利用のための法的枠組みを規定する国連海洋法条約に反映された国際法を実施することにより、海洋及びその資源の保全と持続可能な利用を強化する


海洋関連の課題は様々だが、SDG14でも挙げられている通り、プラスチックや栄養汚染などを含む陸上由来の汚染、海洋由来の汚染、海洋生態系の破壊、海洋酸性化、IUU漁業、海洋資源の減少などがその一部として挙げられる。また、気候変動の影響によるサンゴ礁の白化や海洋生態系の生息域の変化なども、国際的な海洋関連課題の一つと言える。

これらの課題に対応するため、例えば海洋におけるプラスチック濃度のデータ取得の精緻化やサンゴ礁の現在の状態といった海洋データの取得や科学的知見の向上、IUU漁業の根絶のための漁業の適正な規制と持続的な管理をサポートする取り組みの実施、海洋に関係深い産業の自然に与えるインパクトや取り組みといった内容が、国連海洋会議においても種々のイベントで協議された。

2-2. ブルーエコノミーの促進

ブルーエコノミーは、「海洋生態系の健全性を維持しながら、経済成長、生計の向上、雇用のために海洋資源を持続的に利用すること」と定義されている*2)。具体的には、漁業や水産養殖、海運、サンゴ礁やマングローブなどを始めとする沿岸・海洋観光、洋上風力や海水淡水化、海底の資源採掘といった事業が深く関係していると言える。これらの産業セクターは、海洋の資源や景観などの生態系サービス*3)に依存し、インパクトを与えている。与えているインパクトを回避・低減し、修復・再生していくことは、自らの産業のためにも重要な取り組みである・・・

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