コラム/トピックス

TNFD・GRI 生物多様性・自然関連情報開示に関する事例集を共同発表

2025.8.12

自然関連情報開示の促進・発展を目的として、2025年6月30日、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)と国際非営利団体のGlobal Reporting Initiative(GRI)は、企業の生物多様性・自然関連情報開示の好事例をまとめた事例集を公表した。事例集では、下表に示す7社の自然関連課題(依存・インパクト、リスク・機会)の評価事例が紹介されている。

企業名 セクター 依存、インパクトの評価方法
CDL 不動産
  • Aqueductを用いて、水資源不足や水資源不足に伴う生態系の劣化
    といった依存・インパクトを評価。
Ecopetrol 石油・ガス
  • 環境規制への対応のために収集した環境データに基づき、
    依存・インパクトを評価。
Enel 公共事業
  • TNFD LEAPアプローチとSBTNガイダンスStep.1とStep.2の
    考え方に則して分析。
  • ENCOREを用いて、依存・インパクトのスクリーニングを実施。
  • スクリーニングによって得られた結果を踏まえ、IBAT等の
    ツールや事業活動情報を踏まえ事業にとって依存・インパクトの
    大きい拠点(ホットスポット)を54拠点特定。
Iberdrola 公共事業
  • ENCORE及びSBTNマテリアリティツールで依存・インパクト
    を評価。
  • 生物多様性上重要地域をWDPA(保護地域)、KBA(生物多様性
    重要地域)、IMMA(重要な海洋哺乳類地域)等の情報で分析。
JSWSteel 金属・鉱業
  • 世界資源研究所(WRI)の Ecosystem Services Reviewに基づき、
    拠点レベルでの依存・インパクトを「高・中・低・なし」の
    4段階で評価。
  • 文献評価に加え、ENCOREやWWF Biodiversity Risk Filter等の
    ツールを使用し拠点を評価。
Reckitt 消費財
  • TNFD LEAPアプローチに則して分析。
  • 原材料サプライチェーンに焦点を当て、生物多様性上重要地域との
    近接性等を評価。
  • WWFなどの環境保護団体と協業した依存・インパクト分析を
    実施。
Vale 金属・鉱業
  • すべての拠点に対して実施している環境影響評価の結果に基づき、
    依存・インパクトを評価。

出典:GRI & TNFD case studiesガイダンス情報をもとに
当社作成

特にEnelは、依存・インパクトの大きい拠点であるホットスポット評価を、5つのステップ(どこの土地を占有しているか(STEP1)、占有している土地は自然を改変しているか(STEP2)、重要な種が生息しているか(STEP3)、インパクトの強度はどの程度か(STEP4)、事業との関連性はどの程度か(STEP5))で行っており、これから自然関連課題を検討する企業に対して参考となる事例として紹介されている(図1)。

<図1 依存・インパクトの大きい拠点(ホットスポット)の特定プロセス(Enel)>

依存・インパクトの大きい拠点(ホットスポット)の特定プロセス(Enel)
依存・インパクトの大きい拠点(ホットスポット)の特定プロセス(Enel)

出典:GRI & TNFD case studies資料より抜粋
STEPは当社が附番

リスク・機会の評価については、本事例集で紹介されている先進開示企業であっても具体的な手法は開発途上であり課題であると言及されている。各社の評価方法と課題として以下が述べられている。

企業名 セクター リスク・機会の評価方法と課題
CDL 不動産
  • 定性的に財務影響を評価(例:生態系サービスの減少に伴う不動産
    評価や保険料に及ぼす影響)。
  • 財務影響の定量化が課題となっている。
Ecopetrol 石油・ガス
  • 気候シナリオを用いて気候変動と水に関連するリスク・機会を
    定性的に評価。
  • その他の自然に関連するリスク・機会の評価が課題となっている。
Enel 公共事業
  • 54のホットスポットすべてにAssessを実施し、拠点特有の
    リスク・機会を整理。
Iberdrola 公共事業
  • 依存・インパクトの評価で特定した、拠点でのリスク・機会を整理。
  • インパクトにおけるリスクの定性的な評価は行ったが、生態系
    サービスへの依存に関するリスク・機会の評価は検討段階であり、
    評価が課題となっている。
JSWSteel 金属・鉱業
  • 環境影響評価や拠点固有の過去の生物多様性調査結果を基に
    リスクを定性的に評価。
Reckitt 消費財
  • リスクシナリオを独自にモデル化し、自社の主要な原材料に対し、
    自然の状態指標を用いて定性的に評価。
Vale 金属・鉱業
  • 生物多様性に関連する財務影響をBiodiversity Risk Filter(WWF)等の
    ツールを活用し、拠点ごとに評価してリスクを特定。
  • 評価結果の正確性を追求するため、拠点固有のデータの追加や
    専門家のレビューが必要であるとしている。

出典:GRI & TNFD case studiesガイダンス情報をもとに
当社作成

本事例集は、自然関連課題の評価手法や開示方法、開示にあたっての現状の課題等について具体的に把握することができるため、これから自然関連情報開示を検討する企業、または開示のステップアップを検討している企業は確認することが推奨される。

【参考情報】
2025年6月30日付 Global Reporting Initiative HP: https://www.globalreporting.org/news/news-center/gri-and-tnfd-advance-nature-reporting-through-practical-guidance/

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