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船舶運航事業者に今後求められる 安全・安心対策~「安全管理規程のひな形の改正」と「安全情報提供体制の構築」を中心に~【RMFOCUS 第95号】

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[このレポートを書いたコンサルタント]

迫本 祐介
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第二部
運輸総合リスクマネジメントグループ マネジャー上席コンサルタント
執筆者名
迫本 祐介 Yusuke Sakomoto

2025.10.1

要旨
  • 2022年の知床遊覧船事故を契機に、「旅客船の総合的な安全・安心対策」が整理され、海上運送法等の一部が改正された。
  • 海上運送法等の改正は、海上旅客輸送の安全を図るため、「事業者の安全管理体制の強化」、「船員の資質の向上」、「行政処分・罰則等の強化」、「旅客の利益保護の充実」等について焦点を当てている。
  • 安全管理規程のひな形の改正は段階的に実施されており、2026年度中に「安全管理規程の実効性確保」、「事故の防止、事故発生時の対応」、「管理者等の資質の向上、事業参入時・参入後のチェック強化」等の対応が求められる。
  • 人の運送をする船舶運航事業者は、安全情報の公表・報告が義務化された。また、国土交通省も情報公開を強化し、利用者の選択・安全確保を促進している。

1.海上運送法等改正の背景

(1)契機となった重大事故

旅客船の総合的な安全・安心対策を講じることで海上旅客運送の安全を図ることなどを目的とした「海上運送法等の一部を改正する法律」1)(以下、「改正法」)が2023年5月12日に公布され、段階的に施行されている。本改正法により船舶運航事業者は、安全管理体制の整備・強化、安全情報の提供、船舶・乗務員等の管理、行政手続きなど、多岐にわたる対応が求められており、重大な転機を迎えている。この背景にあるのは、2022年4月23日に北海道知床半島沖で発生した遊覧船事故である。26名もの死者・行方不明者を出す極めて重大な事故となった本事故は船体構造等の問題、運航の判断の問題、安全管理規程の不遵守、監査・検査の実効性の問題、救命・通信設備の不備等、複合的な要因が重なって発生したものであり、船舶運航における安全確保のあり方を抜本的に見直す契機となった。

(2)旅客船の総合的な安全・安心対策

国土交通省では、この知床遊覧船事故を踏まえ、二度とこのような事故を起こさないよう、旅客輸送における安全対策を総合的に検討するため、2022年4月に「知床遊覧船事故対策検討委員会」を設置した。本委員会は、2022年5月から12月まで計10回開催され、2022年12月22日に「旅客船の総合的な安全・安心対策」が発表された2)。本発表は、「対策分野別の考え方」と「対策の主な内容」によって整理されている。

(3)対策分野と対策の主な内容

対象となった知床遊覧船事故は、複合的な要因が重なって発生していることから、多角的な視点で対策を検討する必要があり、上述した「対策分野別の考え方」は、以下七つの分野で構成されている。

  1. 事業者の安全管理体制の強化
  2. 船員の資質の向上
  3. 船舶の安全基準の強化
  4. 監査・処分の強化
  5. 船舶検査の実効性の向上
  6. 安全情報の提供の拡充
  7. 利用者保護の強化

これら対策分野のうち、本稿では、報告・公表が求められている「①事業者の安全管理体制の強化」および「⑥安全情報の提供の拡充」の考え方を取り上げる。「①事業者の安全管理体制の強化」は、運輸安全マネジメントや管理者試験制度の導入により経営層・運航管理者の資質向上を図り、安全管理規程の実効性向上を企図している。また、「⑥安全情報の提供の拡充」は、安全情報の提供や安全性評価・認定制度を通じて利用者による事業者の評価・選択を促進し、これを受けて事業者が安全性向上に継続的に取り組むことを促している。

なお、分野別の対策の主な内容については表1に整理する。また、「旅客船の総合的な安全・安心対策」では、次頁図1にて本対策における利用者や行政機関、事業者等の位置付けを明示しており、その関係性について確認されたい。

【表1】分野別の対策の主な内容

【表1】分野別の対策の主な内容

(出典:参考文献2)を基にMS&ADインターリスク総研作成)

【図1】関係者間における各対策の位置付け

【図1】関係者間における各対策の位置付け

(出典:知床遊覧船事故対策検討委員会『旅客船の総合的な安全・安心対策』2022年12月22日)

2.改正法の概要と変遷

(1)改正法の概要

上述した「旅客船の総合的な安全・安心対策」を受けて、海上旅客輸送の安全を図るため、海上運送法等の一部が改正された。改正点の概要については、表2に整理する3)

【表2】改正法の概要

【表2】改正法の概要

(出典:国土交通省海事局「海上運送法等の一部を改正する法律案」を基にMS&ADインターリスク総研作成)

(2)改正の変遷

2023年5月12日に公布された改正法は、迅速な安全性の確保と事業者等の準備期間の確保の観点から…

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