
TNFD提言を踏まえた自然関連シナリオ分析~企業における実務的アプローチ~【RMFOCUS 第95号】
-
ご登録済みの方は
[このレポートを書いたコンサルタント]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第五部
サステナビリティ第一グループ マネージャー上席コンサルタント - 執筆者名
- 粟ヶ窪 千紗 Chisa Awagakubo
2025.10.1
- 2023年9月のTNFD開示提言正式版の発表から2年が経過し、国内外の先進的な企業では、将来の自然関連リスク・機会に対する認識を深めるため「シナリオ分析」に取り組む事例が増えている。
- 自然関連のシナリオ分析においては、TNFDが提案するシナリオを活用しながら自社の事業特性や依存・インパクトに合った具体的なシナリオストーリーを検討すること、気候変動との統合も見据えて検討することが効果的である。
22023年9月のTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォー ス)の開示提言正式版(以下、「TNFD提言」)の発表から2年が経過し、企業による自然関連課題(自然への依存・インパクト、リスク・機会)の把握、および情報開示の取り組みはますます拡大・深化している。先進的な企業では、将来の自然関連課題に関する認識を深めるために「シナリオ分析」を実施し、その結果を開示するケースも増えている。
本稿では、TNFD提言およびTNFDの“Guidance on scenario analysis”(以下、「シナリオ分析ガイダンス」)の内容を踏まえ、自然関連シナリオ分析の実務上の進め方を解説するとともに、国内外の企業の取り組み・開示事例を紹介する。
1.TNFD提言における「シナリオ分析」の位置付けと目的
TNFD提言では、主に、自然関連課題や企業活動への影響を把握したうえで、課題への対応方針や、企業の事業戦略がレジリエントであるかを説明することが求められている。自然関連のリスク・機会を生じさせる、企業を取り巻く外部環境は日々変化しており、将来の状況には様々な不確実性が存在する。TNFD提言におけるシナリオ分析の目的は、このような不確実性があることを前提に、将来の外部環境を複数の「シナリオ」として描くことを通じて、自然関連のリスク・機会に関する認識を深め、企業のレジリエンスを検証するとともに、戦略やリスク管理上の意思決定に反映することとされている。
TNFD提言では、戦略C)において、「自然関連のリスクと機会に対する組織の戦略のレジリエンスについて、さまざまなシナリオを考慮して説明する。」ことが推奨されており、シナリオ分析による検討結果は、この推奨項目に対し開示するものとなる(次頁図1)。
【図1】TNFD提言の開示推奨項目

(出典:参考文献1)を基にMS&ADインターリスク総研作成)
2.TNFD提言における自然関連のシナリオの特徴
TNFDのシナリオ分析ガイダンスによれば、シナリオは「主要な駆動要因(driving force)や重要な不確実性に関する一貫性のある仮定に基づき、将来がどのように展開するかについ ての、もっともらしい複数の記述や物語のセット」であるとされている。なお、シナリオは「将来を予測するもの」ではなく、いくつかのもっともらしい未来の見方を提示するものである。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)においても、TNFD提言と同様にシナリオ分析が推奨されているが、気候関連のシナリオと自然関連のシナリオでは、以下のように異なる性質があるとされている。
●自然関連の依存・インパクト、リスク・機会は場所により固有である
気候変動の場合、温室効果ガス排出による影響は排出する場所によって変化しないが、自然関連の依存・インパクト、リスク・機会は、場所ごとに固有である。
●国際的な単一目標が存在しない
気候変動に関しては、パリ協定に基づき地球の平均気温上昇を1.5℃に抑制するという単一の国際的な目標が存在するが、自然に関しては単一の指標による目標がない。
●すぐに使用できるシナリオセットがない
気候変動の場合には、IEA(国際エネルギー機関)やNGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)のシナリオのように、定量的なシナリオのセットが存在するが、自然の場合にはそのような、すぐに使用できるシナリオセットがない。
このような特徴を踏まえて、TNFDのシナリオ分析ガイダンスにおいては…
ここまでお読みいただきありがとうございます。
以下のボタンをクリックしていただくとPDFにて全文をお読みいただけます(無料の会員登録が必要です)。
会員登録で レポートを全て見る

ご登録済みの方は