フランス産のナチュラルチーズ、リステリア検出により自主回収 ~チーズ回収から考える食品安全~
2025.10.29
2025年8月、フランス産のナチュラルチーズからリステリア(Listeria monocytogenes)が検出された。輸出先であるヨーロッパ各国、アジア、北米等30か国以上で商品回収が行われ、欧州では20人以上の感染者、人の死亡例が報告されている。日本では、健康被害の報告はないが、複数の輸入品が回収対象となった。
日本では、これまでもリステリアによる食中毒の発症はほとんど報告されていないが、食品衛生法においては、非加熱食肉製品、ナチュラルチーズ(ソフト、セミハード)にリステリアの基準値(100/g 以下)が設定されており、リスク管理が求められる菌の1つである。リステリアの特徴は以下のとおり。
(1)生育環境
- 動物の腸管内や環境中に広く分布。環境中ではバイオフィルムを形成し長期間生存する。
- 一般的な食中毒細菌と同様に通常の加熱によって死滅するが、4℃以下の低温や、12%食塩濃度下でも増殖可能である。
(2)原因食品
- 長期冷蔵保管されている間にも増殖可能なため、加熱せずに食べる食品が原因となり得る。ナチュラルチーズ、スモークサーモン、生ハム、カット野菜、冷蔵惣菜など、加熱しない食品や、加熱殺菌後に再汚染の可能性がある食品はリスクが高い。
(3)症状
- 悪寒、発熱、筋肉痛などインフルエンザなどの他の感染症と区別が難しい場合や、敗血症、髄膜炎、中枢神経系症状などを引き起こす場合(リステリア症)がある。
- 健康な成人では、多くのリステリアを摂取しないと発症しないが、妊婦・高齢者・乳幼児・免疫低下者などは注意が必要である。
このリステリアへの対策は、「特殊なこと」は必要なく、非加熱で摂取する食品の食中毒対策と共通する。以下にポイントについてまとめた。
(1)原材料の受入・仕入れ
- 原料に付着した菌を持ち込まないため、仕入先を監査・選定する。
- 賞味期限内、適切な温度で輸送されたものを受け入れるため、納品時に温度と外観を確認する。
(2)温度管理(保存・輸送)
- 菌の増殖を抑えるため、冷蔵 10℃以下※、冷凍は-18℃以下を維持する。
- 低温で増殖する菌も存在するため、早めに使いきる。
※リステリアが増殖しにくいとされているのは 6℃以下(2~4℃以下が望ましい)
(3)交差汚染防止
- 生食用と加熱用の器具を区別することで、二次汚染を防ぐ。
- 手指からの菌の移行を防ぐため、調理従事者は作業ごとに手洗い・手袋の使用を徹底する。
(4)製造環境
- 冷蔵区と加熱区を分けてゾーニングし、菌が広がらない環境を維持する。
- ドレン、床、排水溝など湿潤部位を清掃し、リステリア等の常在化を防ぐ。
(5)製品設計・表示
- 賞味期限、消費期限を科学的根拠に基づいて設定し、消費者が安全に食べられる期間を明示する。
- 非加熱提供品には「要冷蔵」など保存方法を正しく表示する。
(6)従業員教育
- 従業員の知識不足が事故につながる可能性もあるため、非加熱食品の取り扱いに特化した教育を定期的に実施する。
非加熱で摂取する食品は殺菌工程が無いため、いかに菌をつけないか、増殖を抑えるかがポイントとなる。日常の基本対策を確実に実行することで、リスクは低減可能といえる。
食品におけるPL(Product Liability)リスクとは、食中毒や異物混入、表示ミス等により第三者に健康被害や損害を与えるリスクをいいます。
本レポートでは、食品PLの最新動向をわかりやすく解説します。以下のリンクからご覧ください。
https://rm-navi.com/search/item/2313