コラム/トピックス

「ビジネスと人権」政府行動計画改定案が公表、外国人労働者やAIが優先分野に

2025.12.12

外務省は2025年10月1日、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を国内で推進するため、法制度の整備や政策の実施、企業の取り組みの促進など、今後の政府の取り組みをまとめた行動計画の改定案を公表した。20年に策定した現行動計画の改定版の位置づけ。

それによると、企業による人権侵害リスク抑止の取り組みがレジリエンス及び企業価値の向上につながると意義を強調。その上で、昨今の社会・経済状況を踏まえて、外国人労働者の就労・生活環境の改善や人工知能(AI)との安全な協調などを政府の取り組みの優先分野に挙げた。一方で、これまでに国連やNGOなどが設置を求めている政府から独立して人権侵害の調査や救済を担う機関の設置のほか、人権デューデリジェンスを企業に義務付ける法制化についての言及はない。

10月30日までのパブリックコメントを経て、25年内に確定する予定。

改定案では、行動計画の目的について現行計画と同じ4点を継承した。

  • 国際社会を含む社会全体の人権の保護・促進
  • 「ビジネスと人権」関連政策に係る一貫性の確保
  • 日本企業の国際的な競争力及び持続可能性の確保・向上
  • SDGsの達成への貢献

その上で、グローバル企業を念頭に、サプライチェーンを含めた人権尊重の取り組み推進を通じて、国際社会の信頼や投資家の高評価を引き出し、最終的には自社の企業価値向上につなげる意義を強調している。

また、目的の達成のために各省庁が実施する施策や措置を具体的なテーマやトピックスに応じて列挙する現行計画の構成を維持。改定案では「優先分野」に名称が変更されたものの、同様の趣旨で整理されている。現行計画と改定案を比較すると、取り上げられているテーマやトピックスは大部分は共通だ。ただ、改定案では、現行計画策定時との社会・経済の状況変化を反映して記載の濃淡が若干変化している。

【表】政府行動計画に記載の主要施策の現行・改定案比較

現行計画 改定案

(1)横断的事項

  • 労働
  • 子どもの権利の保護・促進
  • 新しい技術の発展に伴う人権
  • 消費者の権利・役割
  • 法の下の平等(障害者、女性、性的指向性自認など)
  • 外国人材の受入れ・共生

(2)人権を尊重する企業の責任

  • 国内外サプライチェーンの取り組みと人権デューデリジェンスの促進
  • 中小企業の取り組み支援

1.人権デューデリジェンス及びサプライチェーン

2.「誰一人取り残さない」ための施策推進

  • ジェンダー
  • 外国人労働者
  • 子ども・若者
  • 障害者
  • 高齢者

3.テーマ別人権課題

  • AI・テクノロジーと人権
  • 環境と人権

出典:当社作成

中でも、外国人労働者とAIは、現行計画と比べて重要度が引き上げた印象の記載となっている。

まず、外国人労働者について、現行計画が「在留資格を有するすべての外国人を…社会を構成する一員として受け入れていく」といった概括的な表現なのに対して、改定案では「日本が『選ばれる国』になる環境の整備は…国際競争力の向上に重要」と切実さが際立つ記載に変更。その上で、就労環境や能力開発、日常生活などの各側面できめ細やかな配慮を備えた施策を挙げた。国内の急速な人口減少を受けて、国内経済の維持や持続的成長のために外国人労働者の存在が不可欠な現状への危機感が垣間見える。

一方で、AIは改定案で「テーマ別人権課題」の個別の項目に特出しされている。23年5月の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で日本が主導した「広島AIプロセス」やその後の施策を引き合いに、AIイノベーションの促進とリスク対応の両立による人権尊重・法令遵守・安全な協調を重視したガバナンスの実現や国際的な協調の推進を今後の主要施策に挙げている。現行計画では「新しい技術の発展に伴う人権」のうち、インターネット上の名誉毀損やヘイトスピーチ対策と併せ、AIと人権やプライバシー保護について「議論の推進」を挙げるにとどまっていたのとは対照的だ。

また、国連指導原則の3本の柱のひとつ「救済のアクセス」では、公的・民間双方の通報・相談窓口の周知促進や企業の公益通報窓口体制の整備促進などを具体的施策に例示した。ただ、23年7月に来日した国連ビジネスと人権作業部会の調査団が報告書で指摘したほか、国内外のNGOなどが政府に繰り返し設置を要求している国家人権機関(NHRI)の設置に触れる記載はなかった。NHRIは、政府から独立し、差別への対処や権利の保護、人権侵害に対する司法以外の救済などの役割を担う機関だ。国連は各国に設置を求めており、持続可能な開発目標(SDGs)にも含まれている。

【参考情報】
2025年10月1日、e-Govパブリック・コメントHP
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=350000222&Mode=0

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