レポート/資料

先行する欧州で得た企業の人権取り組み深化のヒント ~国連フォーラム参加と欧州ヒアリング~ 【サステナブル経営レポート <第23号>】

[このレポートを書いたコンサルタント]

ルドン 絢子
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属名
リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第五部 サステナビリティ第二グループ
執筆者名
上席コンサルタント ルドン 絢子 Ayako Redon

2025.2.3

レポートの
概要
  • 筆者は2024年11月にスイス・ジュネーブで開催された第13回国連ビジネスと人権フォーラムに参加した。企業の人権への配慮の重要性が高まる中、国際的な情報交換やネットワーキングの場である本フォーラムでは、過去最多の4000人が参加した。
  • 今回のメインテーマは「スマート・ミックス」で、法令による義務と自主的な企業の取り組みを組み合わせて人権課題を解決することを指す概念。CSRDやCSDDDなどの欧州の規制を例に、法令による義務と自主的な取り組みを組み合わせた人権課題の解決が強調された。
  • このほか、気候変動対策における人権配慮や、企業とライツホルダーとの意味ある対話の重要性などのトピックスで白熱した議論が交わされた。
  • 筆者は、フォーラム参加に併せて欧州企業のサステナビリティ担当者にヒアリングを実施し、欧州では規制や政府の政策に背中を押される形で、企業の人権取り組みが進んでいることを確認した。これらに基づき、日本企業の取り組み深化に向けて欧州から得たヒントをまとめた。

1. はじめに

筆者は2024年11月、スイス・ジュネーブで開催された第13回国連ビジネスと人権フォーラムに参加した。このフォーラムは、企業の人権への配慮がますます重要視される中、国際的な参加者間の情報交換やネットワーキングを通じて、次期のホットイシューを把握できる場として注目されている。今回は、フォーラムの概要や注目トピックスについて報告する。また、フォーラム参加に併せて欧州で企業の担当者にサステナビリティへの対応状況ををヒアリングした。欧州では各種規制への対応や市民社会からの要請など日本とは異なる重圧の下、サステナビリティや人権侵害防止の施策を展開・情報開示していることを認識した。現場のリアルな声を踏まえて、特に日本の企業が今後取り組みを充実していく上でのヒントに触れた。

【写真1】会場のパレ・デ・ナシオン外観
【写真1】会場のパレ・デ・ナシオン外観

2. フォーラムの概要

◇参加者は過去最多の4,000人

本フォーラムは、国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)が主催。今回は11月25日から11月27日の期間中、156か国から合計約4,000人が参加し、過去最多※1)だった。国連関係者によると、アジア太平洋地域の参加者は増加傾向で、日本からの参加者も過去最多で多くの企業や団体が集まった。主だった参加者は、政府関係者や市民団体、企業の代表、弁護士、有識者などだった。国連ジュネーブ事務局が所在する伝統的な歴史建造物パレ・デ・ナシオン内の3つの会議室を使って開催された。開催期間中は、周辺施設でも様々なサイドイベントが開かれ、祭典ムードに満ちた密度の濃い3日間だった。

【写真2】セッションの様子
【写真2】セッションの様子

同フォーラムの第1回は2012年で、その後毎年開催されている。初期は参加者も2000人にも達しなかった。会期中セッション数も今ほど多くなく、各国や各企業の知見共有を目的にしたプログラムが中心だったが、回を重ねるごとに各種人権課題に対する企業の具体的対応を議論する場へと発展してきた。新型コロナウイルスが世界的に流行した時期に、オンライン開催、そしてハイブリッド開催に変化した。初回開催から10年の節目に当たる22年にはこれまでの活動を総括し、以降、各回で世界情勢の変化などを踏まえたテーマを取り上げながら、国際的な情報共有とネットワーキング、学びの場として機能している。

【表】「国連ビジネスと人権フォーラム」過去の開催概要

開催期間 テーマ
第1回 2012年12月3日-5日 設定なし(指導原則と「保護、尊重、救済」のフレームワーク
実施に関するトレンドと試みについて議論)
第2回 2013年12月3日-5日 同上
第3回 2014年12月2日-4日 設定なし(マルチステークホルダーとの対話やエンゲージメントの強化、
指導原則実施にむけたNAP、有効な救済措置の探索、
成功事例の特定などにフォーカス)
第4回 2015年11月17日-19日 設定なし(進捗把握や方針の普及によってライツホルダーのために
現場での早急な変化を達成する手法にフォーカス)
第5回 2016年11月15日-17日 リーダーシップとレバレッジ:グローバル経済を動かす
ルールと関係性に人権を埋め込む
第6回 2017年11月28日-30日 効果的な救済へのアクセスの実現
第7回 2018年11月27日-29日 人権を尊重するビジネス―成功に倣う
第8回 2019年11月26日-28日 行動の時:人権を尊重したビジネスを促進する触媒しての政府
第9回 2020年11月17日-19日 ビジネス由来の人権侵害をなくす:人と地球のサステナブルな未来への鍵
第10回 2021年11月29日-12月1日 ビジネスと人権の新時代:『指導原則』実施のペースと行動規模の拡大)
第11回 2022年11月28日-30日 ライツホルダーを中心に:次の10年における人と
地球を尊重するビジネス促進にむけた責任強化
第12回 2023年11月27日-29日 義務、責任と救済の実施における有効な変化に向けて
第13回 2024年11月25日-27日 事業活動における人権擁護のための『スマート・ミックス』の実現

【出典】OHCHRホームページ情報に基づきインタ総研が翻訳・編集

※1)OHCHR HP(2024 年 12 月 6 日)
https://www.ohchr.org/en/stories/2024/12/business-and-human-rights-adopting-smart-mix

◇新たな試みの「Networking hubs」と「Snapshots sessions」

会期中は3つの会議室で60以上のセッションや「Snapshot sessions」と呼ばれるミニセッションが企画された。これは、「Networking hubs」と併せて今回フォーラムでの新たな試みだ。 「Snapshots sessions」は、企業や団体が特定のテーマについて短いプレゼンを行い、参加者らの質疑を受けるもの。リスクやツールなどのテーマについて短時間の自由なプレゼンと質疑応答が標準的な構成だ。実務者が特定テーマについてピンポイントで現状の課題を伝える印象的なプレゼンも多く、企業や団体による取り組みの紹介や参加者との議論など、各回ごとに特色のある内容が目立った。

一方、「Networking hubs」では、金融業や市民団体、業界団体や弁護士といったセクターごとにプログラムを用意。それぞれの実務者がファシリテーターとなり、会議室に集まった同業者らと意見を交換する。同業実務者同士が集まることで、より具体的な知見や悩みの共有ができ、短時間ではあるが密度の濃い情報交換が印象的だった。

3. 今回フォーラムの注目トピックス

今回のフォーラム全体のテーマは「事業活動における人権擁護のための『スマート・ミックス』の実現(原題Realizing the “Smart Mix of Measures” to protect human rights in the context of business activities)」。そのため、「スマート・ミックス」が、会期中の様々なセッションの意見交換でキーワードに挙がった。それを含めた、筆者が注目したトピックスを紹介する・・・

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