コラム/トピックス

2026年4月施行 改正労働安全衛生法で何が変わる?高年齢労働者をめぐる背景をわかりやすく解説

[このコラムを書いたコンサルタント]

水上 敬太
専門領域
労働災害、火災・爆発、自然災害・防災他
役職名
リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ マネジャー上席コンサルタント
執筆者名
水上 敬太 Keita Mizukami

2026.3.17

2026年4月1日に施行が予定されている改正労働安全衛生法で、すべての事業者に対して高年齢労働者の特性に配慮して必要な措置を講じることが努力義務となります。これによって、高年齢労働者の安全確保を目的とした職場環境の改善や作業管理が求められることになります。

今回は、なぜ企業に高年齢者の安全管理が求められるようになっているのか、その背景について、MS&ADインターリスク総研で労働安全のコンサルタントを務める水上敬太が、歴史を紐解きながらわかりやすく解説します。

この記事の
流れ
  • そもそも「高年齢労働者」とは何歳以上の人を指している?
  • なぜ、労働安全衛生法の改正が行われたのか?
  • 高年齢労働者の安全衛生対策の歴史的な流れは?
  • 努力義務化で企業に求められる対応とは?
  • 企業がまずすべきこととは?
  • 高年齢労働者の労働災害防止 重点チェックリスト【2026年版】無料ダウンロード

そもそも「高年齢労働者」とは何歳以上の人を指している?

今回の改正労働安全衛生法では、「高年齢労働者」について、年齢基準は定められていません。

労働災害(以下、労災)に関する資料を見てみると、50歳~55歳あたりから労働災害の発生率が男女ともにすべての年齢の平均を上回りはじめ、その後、年齢が上がるにつれて発生率も上昇しています。

ちなみに、高年齢労働者の労災防止のための設備の改善や専門家による指導を受けるための経費の一部を補助する、厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」では、60歳以上を高年齢労働者としているので、55歳~60歳ごろが一つの目安となると考えられます。

ただ、身体機能の低下には大きな個人差がありますので、年齢で区切った対応を行うのではなく、それぞれの労働者の身体機能や作業実態などに合わせた対応を実施していくことが重要です。

なぜ、労働安全衛生法の改正が行われたのか?

背景にあるのは、急速に進む労働者の高年齢化です。厚生労働省の令和5年度「高年齢労働者の労働災害発生状況」によりますと、雇用者全体に占める60歳以上の割合は、年々増加して、令和5年は18.7%でした。

雇用者:全年齢に占める60歳以上の割合

雇用者:全年齢に占める60歳以上の割合
雇用者:全年齢に占める60歳以上の割合

出典:厚生労働省の令和5年度「高年齢労働者の労働災害発生状況」

またこれに伴い、高年齢労働者の労災の発生件数も増加しています。労災による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上が占める割合も年々増加し、令和5年は29.3%となりました。

労災による死傷者数:全年齢に占める60歳以上の割合

労災による死傷者数:全年齢に占める60歳以上の割合
労災による死傷者数:全年齢に占める60歳以上の割合

出典:厚生労働省の令和5年度「高年齢労働者の労働災害発生状況」

高年齢者の労災が増加している要因として、加齢に伴って筋力・バランスが低下したり、認知機能が変化したりすることで、転倒・熱中症・腰痛などのリスクが高まると考えられます。

高年齢労働者の安全衛生対策の歴史的な流れは?

高年齢労働者向けの主な法令・制度・指針などの変遷を追っていくと、日本における高年齢労働者の労働安全衛生対策は、主に3つのフェーズに分けられると考えられます。

フェーズ1:1970年代~1990年代

この時期は、60歳定年延長の義務化など、高年齢労働者の雇用維持が優先されていました。一方で、安全衛生面では「シルバーヘルスプラン(SHP)」や「トータルヘルスプロモーション(THP)」など、労働者個人の健康保持や体力維持といった、いわゆる健康づくりを促進するアプローチが中心でした。

フェーズ2:2000年代~2010年代前半

2004年と2013年の高年齢者雇用安定法の改正で、65歳までの希望者全員の雇用が義務化されて、高年齢労働者が急増しました。これに伴って、フェーズ1で中心だった健康づくりだけでは対応しきれない労災リスクが顕在化しました。

厚生労働省は2009年に「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル」でハード面・ソフト面の改善事項などを公表し、2012年には「高年齢者に配慮した交通労働災害防止の手引き」を公表するなど、実務的な安全衛生対策を具体的に示しました。

高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル・チェックリスト
高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル・チェックリスト
出典:厚生労働省
高年齢者に配慮した交通労働災害防止の手引き
高年齢者に配慮した交通労働災害防止の手引き
出典:厚生労働省

フェーズ3:2010年代後半~現在

厚生労働省は、2018年に「エイジアクション100」で職場改善に向けた実務的なガイドラインを示しました。そして、高年齢労働者の安全衛生対策で転換点となったのは、2020年に策定された「エイジフレンドリーガイドライン」で、事業者に対して、加齢による特性を認識して、職場環境や作業方法の改善、そして健康管理の徹底など、具体的な対策を体系的に講じることを求めるもので、国の総合的な指針となりました。

続けて2023年の「第14次労働災害防止計画」では転倒や腰痛防止が重点事項となり、そして今回の改正労働安全衛生法によって、高年齢労働者の労災防止措置がすべての事業者の努力義務として法律に明記されることになりました。

このような歴史的な変遷を踏まえると、企業にとっても、従業員が自身の能力を十分に発揮できる環境を整備するために、高年齢労働者に対する安全衛生に取り組むことがいっそう重要になってきていると言えると思います。

努力義務化で企業に求められる対応とは?

今回の改正労働安全衛生法によって、努力義務違反のみをもって、ただちに行政処分や罰則の対象となるわけではないと考えられます。一方で、民事上の損害賠償請求では、会社の過失を問う重要な判断材料となりえます。

労災が発生した場合「その時点での社会通念上、会社が当然に行うべきだった対策」の基準として今回の改正労働安全衛生法や国のガイドラインなどが参照されて、対策を怠っていたと判断されれば、安全配慮義務違反として認定されて損害賠償を命じられる可能性があります。

このため企業のリスクマネジメントの観点からも、「努力義務」である高年齢労働者の労災防止に関する措置を講じることは、経営上のリスク低減のために必要になると考えられます。

企業がまずすべきこととは?

今回の改正で、高年齢労働者の安全衛生対策で求められる取り組みのレベルはこれまでよりも一段高いものになりました。特に、高年齢労働者の在籍割合が高い職場や、現場作業・身体的負荷のある職場、再雇用制度を導入している事業者では、安全衛生体制や現場運用の見直しを早めに検討することが重要です。

MS&ADインターリスク総研では、厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」と「高年齢労働者の労災防止対策に関する検討会報告書」に基づいて、事業者が実施・検討すべき主な事項に関するチェックリストを作成しました。

以下のフォームに入力することで、無料でダウンロードいただけます。努力義務化される事項について、現状の取り組み状況を確認し、必要な対策を進めるためのツールとして、ぜひご活用ください。

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