【実務ガイド】高年齢労働者の労災防止措置の義務化 企業が今すぐ始める対応のポイントとは?専門家がわかりやすく解説
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- 労働災害、火災・爆発、自然災害・防災他
- 役職名
- リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ マネジャー上席コンサルタント
- 執筆者名
- 水上 敬太 Keita Mizukami
2026.3.17
2026年4月1日に施行が予定されている改正労働安全衛生法で、すべての事業者に対して高年齢労働者の特性に配慮して必要な措置を講じることが努力義務となります。これによって、高年齢労働者の安全確保を目的とした職場環境の改善や作業管理が求められることになります。
今回は、事業者が取り組むべき具体的な安全衛生管理体制について、MS&ADインターリスク総研で労働安全のコンサルタントを務める水上敬太が、わかりやすく解説します。
流れ
- 努力義務化で企業に求められる必要な措置とは?
- 対応事項① 安全衛生管理体制の確立等
- 対応事項② 職場環境の改善
- 対応事項③ 高年齢者の健康・体力の把握
- 対応事項④ 高年齢者の健康・体力に応じた対応
- 対応事項⑤ 安全衛生教育
- まとめ
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努力義務化で企業に求められる必要な措置とは?
今回の改正労働安全衛生法では、すべての事業者に対して高年齢労働者の特性に配慮した必要な措置を講じることが努力義務化されます。
これに合わせて、2025年12月8日に厚生労働省は「高年齢労働者の労災防止対策に関する検討会報告書」を公表し、2026年2月10日には「高年齢者の労働災害防止のための指針」が公示されました。
この指針と報告書をもとに、MS&ADインターリスク総研では事業者の対応事項を次のようにまとめました。報告書では今後の通達に盛り込む事項も検討していることから、その点も含めてまとめています。
対応事項① 安全衛生管理体制の確立等
安全衛生管理体制の確立に向けては、次のような流れで進めていくことになります。
- 経営トップによる方針表明と体制の整備
- 労使コミュニケーション・意見聴取
- リスクアセスメントの実施
- 優先すべきリスク低減措置の検討
具体的な対応事項を、次の表にまとめました。
| 経営トップによる方針表明と体制の整備 | |
|---|---|
| ✓ | 高年齢者労働災害防止を含む安全衛生方針を明文化し、社内に周知する |
| ✓ | 高年齢者対策の担当組織・責任者を明確にする(安全衛生部門/人事労務部門等) |
| ✓ | 産業医・保健師・衛生管理者等の産業保健体制を活用し、健康面の対応を統合する |
| ✓ | 小規模事業場では、地域産業保健センター等の外部資源を積極的に活用する |
| 労使コミュニケーション・意見聴取 | |
| ✓ | 安全衛生委員会等で、高年齢者対策を調査審議する。委員会のない小規模事業場でも高年齢者の意見・不安・不調の声を拾い上げる仕組みを構築する |
| ✓ | 高年齢者が孤立せず、チームの一員として相談しやすい職場風土づくりを推進する |
| リスクアセスメントの実施 | |
| ✓ | 高年齢者の身体機能低下等に伴うリスクを対象に、リスクアセスメントを実施する |
| ✓ | 「危険性又は有害性等の調査等に関する指針(リスクアセスメント指針)」に沿った手法を活用する |
| ✓ | 「エイジアクション100」チェックリストや厚労省「職場のあんぜんサイト」の事例集・ヒヤリハット集を活用する |
| ✓ | 年間推進計画を策定し、PDCA で運用する(計画→実施→評価→改善) |
| 優先すべきリスク低減措置の検討 ※以下の順番で検討 | |
| ① | 危険な作業の廃止・変更(設計・計画段階でのリスク除去) |
| ② | 手すり設置・段差解消等の工学的対策 |
| ③ | 作業手順書・マニュアル整備等の管理的対策 |
| ④ | アシストスーツ等の身体負荷を軽減する個人用装備の活用 |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
対応事項② 職場環境の改善
次に、職場環境の改善に取り組みます。以下の観点で改善を進めていきましょう。
- 共通するハード面の対策
- 視覚・聴覚に関する配慮
- 熱中症のリスクが高い環境の対策
- 重量物取り扱い・介護作業への対策
- 情報機器作業への対応
具体的な対応事項を、次の表にまとめました。
| 共通するハード面の対策 | |
|---|---|
| ✓ | 通路・作業場所の照度を確保し、明暗差の大きい場所や作業を解消する |
| ✓ | 段差・階段については、通路の段差を可能な限り解消する。階段には手すりを設置する |
| ✓ | 滑り対策として、床材・階段用シート等の防滑素材を採用する。水分・油分のこまめな清掃を徹底する。必要に応じ、防滑靴の支給・使用徹底とする |
| ✓ | 墜落・転落防止として、墜落制止用器具・保護具の着用を徹底する |
| ✓ | 危険箇所の表示として、解消できない段差・滑りやすい箇所等には安全標識・掲示で注意喚起する |
| 視覚・聴覚に関する配慮 | |
| ✓ | 警報音は、高齢者にも聞き取りやすい中低音域を採用し、音源方向・指向性スピーカー等を工夫する。背景騒音の低減に努め、警報音が埋もれないように配慮する |
| ✓ | 有効視野を考慮した警告・注意機器(パトライト等)を採用する |
| 熱中症のリスクが高い環境の対策 | |
| ✓ | 高年齢者は暑さ・脱水への感受性が低下していることを前提にして、涼しい休憩場所を整備し、利用を勧奨する |
| ✓ | 保熱しやすい服装は避け、通気性の良い服装を準備する |
| ✓ | 熱中症の初期症状を把握するのに有効なウェアラブルデバイス等のIoT機器を利用する |
| 重量物取り扱い・介護作業への対策 | |
| ✓ | 重量物:補助機器導入により人力取扱重量を抑制する。作業台高さ・配置改善により不自然な姿勢を解消する。必要に応じてアシストスーツ等を活用する |
| ✓ | 介護作業:リフト、スライディングシート等の導入により抱え上げ作業を抑制する。あわせて、移乗支援機器等で腰部負担を軽減する |
| 情報機器作業への対応 | |
| ✓ | 情報機器作業では、文字サイズ・コントラスト・照明を調整し、適切な視環境を確保する |
| ✓ | 長時間連続作業を避け、適切な作業休止時間を設定する |
| ✓ | 個々の特性に応じた無理のない業務量に調整する |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
対応事項③ 高年齢者の健康・体力の把握
労働人口が減る中で、健康で元気に働ける高年齢労働者を確保し続けることは円滑に事業を継続する上でも重要です。加齢にともない、視力・筋力・バランス能力などは本人が気づかないうちに低下しますので、健康・体力の把握も重要な取り組みとなります。
以下の表にまとめた点を踏まえて対応を進めましょう。
| 健康状態の把握 | |
|---|---|
| ✓ | 雇入時・定期健康診断を確実に実施する。結果通知時に産業医・保健師等が項目ごとの意味を丁寧に説明し、本人の理解を促進する。 |
| ✓ | 定期健康診断の対象とならない高年齢者については、以下を検討する。 ① 地域の特定健診等の受診を支援する (勤務時間調整・休暇付与等) ② 事業場独自の健診を実施する |
| ✓ | 健診結果について相談できる体制(産業医面談・保健師相談窓口等)を整備する |
| 体力の把握(体力チェック) | |
| ✓ | 事業者・本人双方が体力状況を客観的に把握し、体力に見合った業務配置・職場環境改善、本人による体力維持向上の取組につなげる。主に高年齢者を対象とするが、身体機能低下は若年から始まるため、青年・壮年期からの実施が望ましい |
| 健康・体力情報の取扱上の注意点 | |
| ✓ | 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」に沿って運用する |
| ✓ | 体力情報の把握にあたっては、次の事項等を安全衛生委員会や労働者の意見を聴く機会等の場を活用して明確化する ① 本人同意の取得方法 ② 体力の状況に関する情報の取扱方法等 |
| ✓ | 安全衛生委員会等へ報告する際は、個人が特定されない形で集約・加工する |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
対応事項④ 高年齢者の健康・体力に応じた対応
高年齢になると、例えば同じ65歳であっても、健康状態や体力の個人差が非常に大きくなります。年齢だけで判断せずに、個々人の状態に応じた対応も必要になります。
その際、次の3つの点を踏まえて取り組みを進めることになります。
- 個々人の健康・体力に基づく就業上の措置
- 業務のマッチング・配置転換
- 健康保持増進・体力向上支援
具体的な対応事項を、次の表にまとめました。
| 個々人の健康・体力に基づく就業上の措置 | |
|---|---|
| ✓ | 健診・体力チェック結果や労働時間・作業内容を踏まえ、産業医等の意見を聞き、労働時間短縮、深夜業回数の減少、作業転換・業務軽減などの配慮をする |
| ✓ | 高年齢者本人と十分に話し合い、納得感のある措置にする |
| ✓ | 健康管理部門と人事労務部門の連携を確保する |
| 業務のマッチング・配置転換 | |
| ✓ | 高年齢者の健康・体力状況に応じ、危険有害業務(製造・建設・運輸等)や第三次産業(小売・飲食・福祉等)で必要とされる身体機能の違いを踏まえた配置を検討する |
| ✓ | 運輸業では特に運転適性の確認を重視する |
| ✓ | 疾病を抱えながら働く高年齢者については、「治療と就業の両立支援指針」に基づき対応する |
| ✓ | ワークシェアリング(業務分担)により、高年齢者の負荷を調整する |
| 健康保持増進・体力向上支援 | |
| ✓ | 「「事業場における健康保持増進のための指針」、「心の健康の保持増進のための指針」に基づき、組織的な健康づくり体制を整備する |
| ✓ | 健診・体力チェック結果に基づき、必要に応じて運動指導・栄養指導・保健指導・メンタルヘルスケアを提供する |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
対応事項⑤ 安全衛生教育
最後に、高年齢労働者本人が気づきにくい「身体の変化」と長年の「慣れ」による事故を防ぐため、安全衛生教育を行うことも重要な点となります。高年齢労働者向けだけでなく、管理監督者・一緒に働く労働者向けの教育も忘れてはいけない観点です。
具体的な対応事項を次の表にまとめました。
| 高年齢労働者向け教育 | |
|---|---|
| ✓ | 雇い入れ時教育、危険有害業務の技能講習・特別教育を確実に実施する |
| ✓ | 高年齢者には、以下を参考に理解しやすい工夫をする ① 十分な時間をかける ② 写真・図・映像等の活用 |
| ✓ | 再雇用・再就職等で未経験業務に就く場合は、特に丁寧な教育訓練を実施する。教育内容の例は以下の通り ① 加齢に伴う身体機能低下と労災リスクの関係 ② 体力維持・生活習慣改善の重要性 ③ 転倒・骨折リスク ④ 軽作業等でも災害が起こりえること ⑤ わずかな段差・環境変化への注意喚起 |
| ✓ | 集合研修が難しい場合は、動画教材等も活用する |
| ✓ | KYT(危険予知訓練)を通じた危険感受性向上やVR機器を活用した危険体感教育も活用する |
| 管理監督者・高年齢労働者と一緒に働く労働者向け教育 | |
| ✓ | 管理監督者等に対して、以下項目等を教育 ① 加齢に伴うリスク増大への理解 ② 管理監督者の責任、労働者の健康問題が経営に及ぼすリスク ③ 高年齢者支援機器・装具の理解 ④ 緊急時対応(救命講習など) |
「高年齢者の労働災害防止のための指針」をもとにMS&ADインターリスク総研が作成
まとめ
今回は、厚生労働省が公示した「高年齢者の労働災害防止のための指針」に基づいて、事業者に求められる対応事項を整理しました。
この指針も、今後の研究成果や取組状況を踏まえて、改定される可能性があります。改正労働安全衛生法では、すべての事業者に対して、高年齢労働者の特性に配慮して必要な措置を講じることが努力義務となりますので、「最低限の法令対応」にとどまらず、安全衛生管理体制の中で、高年齢者対策をアップデートしていきましょう。
MS&ADインターリスク総研では、この記事で紹介した事業者が実施・検討すべき主な事項に関して、チェックリストを作成しました。
以下のフォームに入力することで、無料でダウンロードいただけます。努力義務化される事項について、現状の取り組み状況を確認し、必要な対策を進めるためのツールとして、ぜひご活用ください。