企業における高年齢労働者安全衛生対策の歴史的変遷 ―2026年4月施行の改正労働安全衛生法の対応に向けて― 【労災リスク・インフォメーション(2026年3月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属名
- リスクコンサルティング本部 リスクマネジメント第一部 リスクエンジニアリング第三グループ
- 執筆者名
- マネジャー上席コンサルタント 水上 敬太
2026.3.2
- 我が国における高年齢労働者への安全衛生対策は、初期の「健康づくり」から現在の「身体特性を考慮した安全な職場環境の構築」へと至っている。
- 2026年4月施行の改正労働安全衛生法では、事業者に対して高年齢労働者の労働災害防止に必要な措置の実施が努力義務化される。
- 本改正では、企業としては、「最低限の法令対応」にとどまらず、安全衛生管理体制の中で高年齢者対策をアップデートしていくことが求められることに注目したい。
1.改正労働安全衛生法2026年4月施行に向けて
2026年4月1日施行予定の改正労働安全衛生法においては、事業者に対して高年齢労働者の特性に配慮した必要な措置を講ずることが努力義務とされた。つまり、すべての企業に対し、高年齢労働者の安全確保を目的とした職場環境改善や作業管理が求められることになったのである。では、企業はこの改正にどのように取り組めばよいのだろうか。
本稿では、我が国の高年齢労働者向けの安全衛生対策の歴史的変遷を考察し、2026年4月施行の改正労働安全衛生法の対応に向けて、企業のなすべき取り組みについて示すことを目的とする。
2.高年齢労働者と労働安全衛生法改正の背景
(1)「高齢者」と「高年齢労働者」
「高齢者」の定義には統一基準がなく、法令や行政分野ごとに年齢区分が異なっている。例えば、高年齢者雇用安定法では高年齢者を55歳以上、中高年齢者を45歳以上としている。また、医療制度では65歳以上75歳未満を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と区分している。雇用保険や道路交通法でも基準が異なり、高齢社会白書では65歳以上を高齢者としている。
今回の改正労働安全衛生法においては、「高年齢労働者」に関する年齢基準は定められていない。労働災害に関する資料によれば50歳~55歳あたりから労働災害の発生率が男女ともに全年齢平均を上回りはじめ、加齢に応じて発生率も上昇している。厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」では60歳以上を高年齢労働者としていることから、本稿では55歳~60歳頃を「高年齢労働者」の目安とする。
なお、身体機能の低下には大きな個人差がある。そのため、年齢で区切った対応を行うのではなく、個々の身体機能や作業実態などの労働者の状況に合わせた対応を実施していくことが重要である。
(2)労働安全衛生法改正の背景
我が国は、急速に高齢社会に移行しつつあり、労働者の高年齢化が急速にすすんでいる。例えば、雇用労働者全体のうち50歳以上の労働者の占める割合は約3割となっている。
今回の労働安全衛生法改正の背景には、高年齢労働者による労働災害の発生件数が増加していることが挙げられる。厚生労働省の令和5年度「高年齢労働者の労働災害発生状況」によると、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高年齢者の割合は29.3%と高く、さらに重症化や長期休業の傾向が顕著であることが示されている。
この要因として、労働者の加齢に伴う筋力・バランス低下、認知機能の変化が事故の一因となっており、転倒・墜落・熱中症・腰痛などのリスクが高まっていることがあげられている。高年齢労働者の労働災害のリスクについては、当社労災リスク・インフォメーション(高年齢労働者における労働災害防止対策【労災リスク・インフォメーション(2018年9月)】」)に詳しいため、参考にされたい。
3.高年齢労働者に対する安全衛生対策の歴史的変遷
(1)高年齢労働者に対する安全衛生対策の歴史的変遷
では、我が国において、高年齢労働者に対する安全衛生対策についてはどのように取り扱われてきたのであろうか。下表にて、高年齢労働者向けの主要な法令・制度・指針等の変遷についてまとめたので参考いただきたい(図表1)。このように法令や制度の変遷を考察することは、今後の企業の責務を理解する上で不可欠であると考える。
図表1:高年齢労働者向けの主要な法令・制度・指針等の変遷...
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