首都直下地震の被害想定見直しと企業の対策
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- BCP/BCM(事業継続マネジメント)
- 役職名
- リスクマネジメント第四部
BCM第三グループ
アシスタントマネジャー - 執筆者名
- 江口 祥彦 Akihiko Eguchi
2026.4.2
令和7年12月19日、中央防災会議は首都直下地震の被害想定を約12年ぶりに見直した。本稿では、当該想定の3つのポイントと企業が取るべき対策を解説する。
なお、「首都直下地震の被害想定見直しと企業の対策【BCMニュース(2026年3月)】」において、本稿の内容を詳述しているため、あわせてご参照いただきたい。
(1)従業員を含む「人」を起点とした課題への対応
被害想定では、従業員を含む「人」を起点とした内容の記載が目立つ。大前提となるのは平時からの防災意識の向上(自分ごと化)だ。国民・企業・地域・行政がともに取り組む意識醸成が急務である。企業はBCPの文書化のみならず、BCM体制構築による実効性担保のため、災害対策要員への訓練に加え、全従業員向けの防災・BCM教育に取り組まれたい。
また、避難所負荷軽減のため在宅避難が推奨され、住居の耐震化や備蓄等の自助強化への言及も目立ち、家庭の防災(耐震化・備蓄・安否手段・支援制度)の啓発も大切だ。
次に、共働き世帯や高齢従業員・障害を持つ従業員・外国人労働者の増加など、従業員環境の多様化への対応が指摘された。災害時のケアが課題となるため、個別支援計画の事前策定、メンタルヘルスや休職・段階的復職支援の用意等が必要だ。多言語対応による情報伝達への配慮も有効だろう。
鉄道の長期停止等で出社できないリスクへの対応も言及されている。人手不足が叫ばれる中、災害時のさらなる人的リソース欠損を防ぐため、短時間勤務やフレックスタイム等の柔軟な働き方の推進、職務の優先順位化、代替要員の事前割り当て、業務標準化を進め、機能が止まらない体制構築を推奨する。さらに、出社せず働くための環境整備(通信機器やモバイルバッテリーの貸与等)も考えるべきである。
そして、従業員の一斉帰宅抑制も引き続き指摘されている。特に、発災後72時間経過後も分散帰宅の徹底が求められて、会社内での長期滞留も発生する。安全配慮義務を意識し、帰宅/待機判断基準(帰宅希望理由・日没時間・交通事情・自治体の帰宅抑制要請の有無等)のルール化と対応記録の保存、備蓄品等の追加確保が必要であることを改めて強調する。
(2)企業の本社系機能(コーポレート機能)の継続性確保
首都圏に集中する本社系機能の停滞は、全国の供給網や経済活動に波及する。首都圏外への一時移転等、具体的手法が提言されており、代替戦略の設計が必要だ。
代替パターンは場所のみの代替(さらなる分岐として、近隣の代替拠点、近隣でない代替拠点、外部施設の借用がある)と、場所と人員の双方を代替するパターンに分かれる。パターン選定時は、業務重要度と停止許容時間、投資可能額を勘案して検討し、場合によっては複数パターンの組み合わせも一考である。
代替戦略を運用する際は、代替拠点の役割明確化、同時被災を避けた立地選定、通信・システム・資機材の確保、人材育成と運用訓練実施が肝要である。
(3)過酷事象等への備え
今回の被害想定では、大規模停電(ブラックアウト)や複合災害、津波の可能性など過酷事象の記載が増加した。
過酷事象等が起きても早期復旧し事業継続するためには、経営資源の喪失や復旧遅延等の事態発生に備えるオールハザード型BCPの構築が求められるが、実際に策定している企業は未だ少数であり、継続して必要性を啓発していきたい。
(2026年3月19日三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)