レポート/資料

タイにおける地震リスクアセスメント ―事業継続の観点から―【InterRisk Thailand Report(2026年4月)】

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[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
InterRisk Asia (Thailand) Co., Ltd.
執筆者名
Managing Director 江﨑 隼輝 Hayaki Ezaki

2026.4.3

要旨
  • 約1年前の2025年3月28日に隣国ミャンマーでM7.7の地震が発生し、バンコクなどタイの多くエリアで建物被害が生じたことで、のタイでは地震リスクも踏まえたBCP(事業継続計画)、BCMS(事業継続マネジメントシステム)の構築や見直しを行う企業が増えている。
  • タイには、活断層による地震と、周辺国で発生する地震のリスクが潜在している。特にタイ北部および西部地域はタイ国内の中では比較的地震リスクが高い状況。
  • タイには耐震建築基準や限定的な警報システムが存在するものの、不十分な施行状況、老朽化したインフラ、および不十分な地震防災啓蒙といった要因により、全体的な防災体制に重大な課題が生じている。
  • 本稿では、リスクマネジメント国際規格であるISO 31000フレームワークを用いて地震リスク要因と影響の分析の例を示し、体系的な方法での地震リスクアセスメントの考え方を示す。

タイの地震リスクを理解する

タイは通常、地震リスクの高い地域には分類されないが、2025年3月に発生したミャンマー地震は近隣諸国での地震活動はタイの脆弱性を浮き彫りにした。タイ国外で発生した地震であってもタイ国内のインフラや事業運営に影響を及ぼし得ることが明らかになり、タイの企業においては地震リスクに関するアセスメント、およびBCPやBCMSの構築・見直しの重要性は増している。

地球の大陸および海洋のプレート構造においてタイは地理的には主要なプレート境界線上に位置しているわけではないが、隣国のミャンマーなどには活動的な断層やプレート境界が存在するため、タイの一部地域は元々地震活動の影響を受けやすい状態にある。タイ国外の地震活動に起因する揺れは、タイの北部や西部にたびたび影響を及ぼしている。

また、地質学的にタイ国内にもいくつかの活断層が存在していることが分かっており、特に北部や西部に集中している。これらの国内の断層は、強弱さまざまな地震を引き起こす可能性があり、継続的な監視と防災体制の整備がタイの自然災害対応として一つの重要な課題となっている。

図 タイの法令に基づく地震リスク区分
図 タイの法令に基づく地震リスク区分(当社にて作成)

ISO 31000:2018 リスクマネジメントフレームワークを用いたリスク評価の実施手順

1. リスクの特定

リスク特定のステップでは、リスクを見つけ出し、認識し、記述することが目的とされる。リスクを特定するには、関連性があり、適切で最新の情報が重要。

2. リスク分析

リスク分析の目的は、各リスクの性質や特性を理解することであり、必要に応じてそのレベルを評価することも含まれる。リスク特定プロセスで収集した情報に基づき、特定されたリスクを分析を行う。

(1) 事象と原因

リスク分析は、常に「なぜ起こるのか(原因)」と「何が起こるのか(事象)」を理解することから始める。これら2つの要素は、リスク評価の中核をなす発生確率と影響度を直接決定づけるもの。

(2) リスクの発生源

タイ国外で発生した大規模な地震であっても、国境を越えて地震波が伝播することで、タイに影響を及ぼす可能性がある。こうした地震は、中国南部、ミャンマー、ラオス人民民主共和国、アンダマン海、およびスマトラ島北部などの近隣地域を震源とする場合が多くある。そのため、タイの地震リスクを評価する際にはこうした外部要因を考慮する必要があり、常に警戒することが重要。

タイ国内で発生する地震の大部分は活断層によって引き起こされる。活断層は、主にタイの北部および西部に集中しており、Chiang Saen断層、Mae Tha 断層、Phrae 断層、Thoen 断層、Moei–Uthai Thani 断層、Si Sawat 断層、Three Pagodas 断層、およびKhlong Marui 断層などが挙げられる。これらの地域における地震活動は現実的な脅威となるため、組織や地域社会はリスクを効果的に管理し、適切な備えを行うために断層の位置を把握しておくことが望まれる。

(3) 結果と影響

i. 物的損失

地震災害は、直接的および間接的な影響をもたらす可能性がある。直接的な影響には、地表の亀裂、火山噴火、地震動による建物や構造物の倒壊などが含まれる。間接的な影響としては、火災、ガス漏れ、津波、地滑り、交通路の損傷などが挙げられる。したがって、効果的な防災および対応計画を立てるためには、起こりうる影響の全容を理解することが不可欠である。

ii. 健康と福祉への損失

地震を経験した市民は、災害が再発する可能性に対してパニックに陥ったり、不安を感じたりすることがよくある。被災者には、ストレス、トラウマ、情緒不安定などのメンタルヘルスの問題が生じる可能性がある。

iii. 経済的損失

地震は通信やインターネットの信号を妨害し、通信の途絶や完全な断絶を引き起こす可能性がある。コンピュータシステムやネットワークの機能停止、および技術的障害が発生するおそれがある。陸上および航空輸送も混乱に見舞われる可能性があり、その結果として緊急対応、物流、日常業務に遅延が生じるおそれがある。

図 タイにおいて過去に地震の影響を受けた主な地域
図 タイにおいて過去に地震の影響を受けた主な地域(赤丸は震源地ではなく揺れの被害が大きかったエリアを示していることに注意)

(4) 脆弱性

i. 地域

タイ国内で地震リスクが高い地域は、一般的に活断層の近くに位置しており、その多くはタイ北部および西部地域に位置している。これらの地域は、国内および国境を越えた地震発生源に近いだけでなく、過去の地震の記録も残っており、同様の事象が再び発生するリスクが潜在している。さらに、低地や河口付近など粘土層が厚い場所など、軟弱地盤が特徴的な地域は、地震活動時に地盤の揺れが増幅されやすいため、全体的な脆弱性がさらに高まる。

2025年3月に発生したミャンマー地震は、バンコクから約1000km離れたミャンマーのマンダレーを震源とした地震であったが、地震規模がM7.7ととても大きくチェンマイなどタイ北部に大きな揺れをもたらしたほか、長周期地震動の発生により軟弱地盤が広がるバンコク周辺ではゆっくりとした揺れが高層ビルを大きく揺らすこととなった。

ii. 建物および構造物

タイでは2007年に初めて耐震安全に関する省令が導入され、建物および支持地盤の耐荷重能力、構造的抵抗力、耐久性に関する要件が定められた。この規則は2021年に改定され、基準の強化と現代化が図られた。これらの経緯から、2007年以前に建設された建物は当初の耐震基準に基づいて設計されていないため、地震の影響を受けやすい可能性がある。また、当初の基本的な耐震対策が講じられている高層ビルであっても、2021年の改定で導入されたより厳格な要件を満たしていない可能性がある。

(5) 発生可能性(起こりやすさ)

タイ国内における地震の発生頻度はアジアの中では相対的には低いと認識されており、これまで地震発生履歴から、今後のタイ国内における地震発生の可能性はさほど高く評価されていない。タイ気象局および鉱物資源局のデータによると、過去40年間にマグニチュード5.0から5.9の中規模地震は8回発生しており、平均して約5年に1回の頻度となっている。これらの地震のほとんどは、活断層に近い北部および西部地域で発生している。全体として、タイで発生する地震は通常マグニチュード6.0を超えること頻度は少なく、大規模な地震活動は稀であるものの、依然として注意を要する現実的なリスクであるといえる。

一方でミャンマー、ラオス、インドネシアなど地震活動が活発な周辺国で発生する地震の発生頻度は比較的高く、2025年3月ミャンマー地震のような大きな規模(マグニチュード7以上のクラス)の周辺国で発生する地震は数十年に1度程度の頻度で発生している。

(6) 既存の対策と有効性

タイでは、公共事業・都市農村計画局のDPT 1301/1302などの耐震建築設計基準や、特定の沿岸地域に設置された警報システムなど、いくつかの地震対策が実施されている。Department of Disaster Prevention and Mitigation(DDPM)やDepartment of Public Works and Town & Country Planning(DPT)を含む政府機関は、国の防災体制の強化に向けて引き続き取り組んでいる。しかし、規制の一貫した施行や、大規模な市民意識の向上といった課題が残っている。

(7) 時間的要因と変動性

地震の発生時期を事前に予測することは困難です。地震が発生したすると被害は瞬時に生じ、甚大なものとなる可能性がある。このような性質をもつ地震による影響を軽減するために、組織には事前の防災対策が求められる。

地震リスクマトリックスの例

地震のリスクと影響の評価は、各組織の具体的な状況によって異なる。地震リスク評価を行う際の予備的な検討材料として、地震発生頻度および影響度のマトリックスを以下に示す。

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