タイにおける2025年雨量状況のまとめと2026年の雨季の見通し【InterRisk Thailand Flood Report(2026年4月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- InterRisk Asia (Thailand) Co., Ltd.
- 執筆者名
- Managing Director 江﨑 隼輝 Hayaki Ezaki
2026.4.3
- 2025年はタイ全土の多くの地域で平年以上の年降雨量となり、2024年に引き続きタイ各地で洪水リスクが顕在化した年であった。
- 2011年の大洪水経験を踏まえたタイ政府・水系管理者の放流量コントロールが奏功し、チャオプラヤ水系エリアの主な工業地域おいて大きな経済被害が出るような洪水発生には至らなかったが、一方で、11月にタイ南部ハートヤイ市街地などで顕著な豪雨による洪水が発生し観光・商業などの経済被害が発生した。
- タイの洪水リスク要因は広域の気象現象(エルニーニョ/ラニーニャ、モンスーン、台風)、タイ国内各地・各時期における降雨分布状況、ダム貯留状況などが複雑に絡むため、時空間的な降雨状況や降雨量への影響要因を理解することが今後の洪水リスクを見通す上で重要。
- 2025年3月時点でラニーニャ現象が発生しているとみられるが、2026年半ば過ぎからエルニーニョ傾向に移行していくと予測されており、2026年後半から2027年にかけてタイにおける気象リスクトレンドは大雨・洪水から少雨・渇水傾向に向かう可能性がある。
※本稿はJCC(バンコク日本商工会議所)所報3月号に掲載の同内容の寄稿記事を最新データに更新して再編集した内容となっています
1. 2025年の降雨状況
2025年の月別・年間合計およびエリア別の降雨量を図表1に示す。2025の年降雨量はタイ気象局(Thai Meteorological Department:以下TMDと省略)の国内全観測点の平均値で1,816mm、1991-2020年の30年間平均値(平年値)と比較して+12%となり、年間降雨量が大変多い年となった。地域別では、北部が平年比+22%、北東部で+10%、バンコク含む中央部で+9%、東部で+6%、南東部で+12%、南西部で+9%となり、タイの各地において総じて平年値を大きく超える降雨量となったことが分かる。
月別でみると、雨季(5月下旬~10月末)のうち6月以降の期間は全体としては平年値に近い雨量となった。一方で、雨季開始前の2月、4月、雨季開始直後の5月、および雨季終了後の11月に全国平均で平年値を50%以上超過する異常な雨量が観測された。特に11月は全国平均で+129%の異常な雨量となっており、同月にはタイ南部ハートヤイ市街地などで顕著な豪雨による洪水が発生した。この時期の主要ダム貯留量の満水状態近くまでの増加や雨量状況(雨季終了後の異常な雨の多さ)も相まって、一時的に更なる洪水リスクへの社会的な危機感が強まったが、タイ南部以外では顕著な洪水被害はその後発生しなかった。
2025年のタイ全土の年降雨量が大きくなった要因は、ラニーニャ現象の傾向を示す太平洋海面水温の変動(本稿の後半参照)、7月から12月にかけての例年以上の数の台風・熱帯低気圧がインドシナ半島に上陸したこと、および季節風(モンスーン)の変動など、大きな規模の気象現象が複合的に影響したものとみられている。
なお、図表1の降雨量は、TMDがタイにおける気象情報の地域区分別(図表2)で全観測点の月間降雨量の平均値を算出し(各エリア上段)、その数値の平年差を平年値からの増減比(下段)として表示しているものである。それぞれの地域区分は広いため、TMDがタイ国内の2025年の年間累積降雨量を地図上にマッピングしたデータ(図表3)も見てみると、特にタイ北部、北東部のラオス側北端部、バンコク周辺~タイ東部(ラヨーン方面)、およびタイ南部の西側(プーケット方面)および東側(マレーシア方面)などで平年値を大きく超過する累計降雨量となっている。平年値以下の累積降雨量となった地域は中部、北東部、南部の一部と限られている。
2. 2011年以降の年降雨量と2025年降雨量の比較
直近のTMDの統計で使用されている1991-2020年の平年値をベースに、大洪水のあった2011年以降の各年の全国平均の年間降雨量を比較する(図表4)。2011年以降の15年間で、平年値(1,623mm/年)を上回ったのが10回、下回ったのが5回となっており、2025年は直近15年間で上から4番目に降雨量が多い年であることが分かる。
つまり、2020年までの30年間の平年値に対しての年間降雨量は直近15年間では比較的多くなっているといえる。また、近年は年間降雨量の平年差が波のように変化しており、雨の多い年と少ない年がそれぞれ5年前後程度の周期で繰り返されている。今後もタイにおいて極端に降雨量が多い年(=洪水リスク)、少ない年(=渇水リスク)が繰り返し発生していく可能性は十分に高いと考えられ、洪水、渇水の両方のリスクに定期的に直面し得ることが示唆される。タイの降雨量は地球規模の海面水温分布(エルニーニョ/ラニーニャ現象など)や季節風の状況、台風(熱帯低気圧)の接近状況に大きく影響を受けるとみられており、タイ国内ならず広域での気象現象の状況も踏まえてタイの洪水・渇水リスクと向き合っていく必要がある。