AI活用のビジネス最前線で何が起きているのか?グローバルAIカンファレンスHumanX 2026参加レポート②
[この記事の執筆者]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 役職名
- アシスタントマネジャー
- 執筆者名
- 小島 健太郎 Kentaro Kojima
2026.6.4
シリコンバレーに派遣されているMS&ADインターリスク総研の駐在員2人が現地の最新動向を紹介する連載企画「シリコンバレーコラム」。
今回は、前回に続いて2026年4月にアメリカ・サンフランシスコで開催されたグローバルAIカンファレンス「HumanX 2026」についてです。
駐在員・小島健太郎が、カンファレンスで行われていた数々の講演のうち、特に興味深いと感じた3つについて、概要をご紹介します。キーワードは「コンステレーションアプローチ」「真の企業価値創出」「空間知能」です。
流れ
- HumanXで議論されていた「AIによって何が起きているのか」
- 圧倒的な精度のAIとハルシネーション排除の実現
- AIは人間の代替ではなく人間が価値創出を主導する
- 「AIゴッドマザー」が語った未来とは
- まとめ:AIをどう使うかではなくAIで何を実現したいのか
HumanXで議論されていた「AIによって何が起きているのか」
MS&ADインターリスク総研でシリコンバレーに駐在する小島健太郎です。
HumanXはアメリカ・サンフランシスコで開催される、AIをメインテーマとする世界最大級のカンファレンスで、2026年は4月7日から9日までの3日間にわたって開催され、78カ国から6,500人以上が参加しました。


会場には、大企業からスタートアップ、政府関係者、投資家など幅広い顔ぶれが一堂に会し、“今AIは何ができるのか?”“どのように活用されているのか?”を話し合うとともに、AIによって“何が起きているのか”について議論が行われました。
圧倒的な精度のAIとハルシネーション排除の実現
はじめに紹介するのは「Decisions Humans Can't Make(人間には不可能な決断)」と題された講演で、ノーコードプラットフォームを開発・提供するWebflow社CEOのLinda Tong氏と、膨大な公開データをAIでリアルタイムに解析してリスクなどを検知・通知するサービスを展開するDataminr社CEOのTed Bailey氏が登壇しました。
テーマは、圧倒的な精度とハルシネーション排除を実現するAIについてです。この中でまず2人は、現在主流となっている、特定の用途に限定せず幅広いタスクをこなせる汎用性を持つ生成AIは「あらゆる質問に答え、どんなこともできる専門家」として振る舞おうとする一方で、ハルシネーション(もっともらしい誤回答)を完全に排除できない可能性を感じていると指摘しました。
その上で、限界を乗り越える手法として「コンステレーション(星座)アプローチ」を説明しました。このアプローチは、特定のタスクに特化した小規模なAIモデルを星座のように複数つなぎ合わせて、それらをプロセスごとに連携させて処理を行う手法だということです。
Dataminr社では、自社の独自データを使って追加学習を行ったモデルなど約50個の小規模なAIでコンステレーションアプローチを行っているということで、Dataminr社CEOのTed Bailey氏は、そのメリットについて次のように強調しました。
「『50の専門家』モデルが連携してタスクを処理することで、汎用性を持つ1つのAIでは到底到達できないレベルの高い精度を実現し、ハルシネーションを効果的に防ぐことが可能になる」
AIは人間の代替ではなく人間が価値創出を主導する
続いて紹介するのは「What It Takes to Win the Fortune 100 in the AI Era(AI時代にフォーチュン100クラスの企業が勝ち抜くために)」と題された講演です。
この講演に登壇したのは次の人たちで、企業経営者、コンサルタント、投資家の視点から議論が交わされました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| Jeffrey Katzenberg氏 | WndrCo, The Walt Disney Studiosの元会長 |
| Justin Wexler氏 | WndrCo |
| Ndidi Oteh氏 | Accenture |
| Adi Ignatius氏 | Harvard Business School Publishing |
議論の中心となったのは、AIを試験的な活用に終わらせずどのように真の企業価値創出につなげるのかという点です。そのために重要な観点として登壇者が共通して指摘したのが、いかに次の三つを変革できるかどうかについてでした。
- 仕事のやり方
- 人材・リーダーシップ
- 組織・プロセス
その理由として、まず、多くの企業では既存の業務プロセスを前提にAIを活用することで部分的な業務の効率化や改善に成功しているものの、業務や価値提供のあり方そのものを変えるには至っておらず、AIが企業の成長に直結しないという課題に直面していることを挙げました。
次に、AI活用を阻む最大の障壁は組織文化や意思決定構造にあるとして、部門横断で組織を調整してAIの活用を主導するリーダーの存在が不可欠だとしました。
その上で、AI時代における持続的な競争力を獲得するために必要なこととして、AIを人間の代替として考えるのではなく、人間が主体的に価値創出を主導する「Human in the lead」の考え方で、試行錯誤や一定の失敗を許容する企業文化をつくることだと強調しました。
「AIゴッドマザー」が語った未来とは
最後は、AIの生みの親とも称されるAI研究の第一人者であるとともに、起業家としてもAIビジネスの最前線に立つFei-Fei Li博士(World Labs CEO/Stanford HAI※)の講演です。
※スタンフォード大学人間中心AI研究所
Li博士によると、AIが現実世界で本質的な価値を発揮するには、今の大規模言語モデル(LLM)が急速に能力を向上させてきた「言語」を扱う能力だけでは不十分だといいます。
その理由についてLi博士は、人間の知能は会話や文章理解だけでなく、空間を認識し物体の位置関係を把握し、変化を予測しながら行動する能力に支えられているからだと指摘しました。
このため今後のAIは、人間と同様に3次元空間や物理世界を理解し「何が起きているか」「次に何が起きるのか」を扱える必要があるということです。この能力について講演の中でLi博士は「空間知能」と呼びました。
この空間知能の中核となる技術が「ワールドモデル」と呼ばれ、世界の状態を把握し、時間とともに変化する「次の状態」を予測・生成できるモデルなのだといいます。言語モデルが「次の単語」を予測するのに対して、ワールドモデルが予測するのは「次の状態」だということです。
その上でLi博士は、ワールドモデルによってAIは、ロボティクス、自動運転、製造、医療、教育など物理世界と直接関わる領域へと本格的に拡張していく可能性を持つと強調しました。


Li博士が創業したWorld Labsでは、3D 世界の一貫性を保ったまま生成する「Marble」というモデルを開発し、ゲームや映像制作の分野からロボットの訓練環境・合成データ生成基盤としての活用が期待されているということです。
特に、現実の世界でのデータが不足しがちなロボティクス分野では、空間知能が学習データの不足という課題を解消するカギになると、Li博士は説明しました。
まとめ:AIをどう使うかではなくAIで何を実現したいのか
HumanX 2026に参加して強く感じたのは、加速するAIの進歩がある一方で、価値創出の根源は変わらないという点です。
AI研究・開発の最前線では、特化モデルを束ねるコンステレーションアプローチや空間知能などによって、汎用性のあるAIが直面する限界を突破しようとする取り組みが日進月歩で続いています。
一方で、AIでビジネスの価値を創出するには「新技術の導入」で終わるのではなく、仕事のやり方、人材、組織・プロセスの変革が不可欠だと再確認しました。
今後ますます、AIをどう使うかではなく、AIで何を実現するかが問われるようになるのではないでしょうか。
MS&ADインターリスク総研では、
AIをはじめとする最先端技術にいち早く触れて
新たなビジネスの創出につなげるため、
2名の駐在員をシリコンバレーに派遣しています。
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