AIがもたらす新たなリスクとは?アメリカ最大規模のリスクマネジメントイベントRISKWORLD2026参加報告
[この記事の執筆者]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 役職名
- マネジャー
- 執筆者名
- 野中 聡 Satoshi Nonaka
2026.7.13
シリコンバレーに派遣されているMS&ADインターリスク総研の駐在員2人が現地の最新動向を紹介する連載企画「シリコンバレーコラム」。
今回は2026年5月にアメリカ・フィラデルフィアで開催されたリスクマネジメントの年次イベント「RISKWORLD 2026」について紹介します。
- 過去のシリコンバレーコラムはこちら
世界中のリスクマネジメントや保険のプロフェッショナルが集まるこのイベントで、関心が集まったのはやはりAIでした。駐在員・野中聡がその概要をお伝えします。
流れ
- RISKWORLD 2026とは?
- 限界を迎える人間の目と耳による真偽の判断
- AIがもたらす“新たなリスク”
- アメリカで生じるAI規制のねじれ構造
- まとめ:AIリスクは経営レベルで対応すべきフェーズに
RISKWORLD 2026とは?
RISKWORLDはアメリカのリスクマネジメント協会(英語名:the risk management society)が開催する世界最大規模のリスク専門家の年次イベントで、1963年に第1回が開催され、60年以上の歴史があります。
RISKWORLD 2026は、アメリカ・ペンシルベニア州のフィラデルフィアで、2026年5月3日から6日までの4日間にわたって開催されました。リスクマネジメントの最新情報などに関する100以上のセッションが行われるとともに、大規模な出展エリアで保険会社や保険ブローカーなどが自社のサービスを紹介していました。

急速に進化を続けるAIに関して、RISKWORLD 2026でも注目のテーマとして取り上げられており、特に興味深いと感じた3つの講演についてご紹介します。
限界を迎える人間の目と耳による真偽の判断
最初に紹介するのは「Cyber Crime in the Era of AI: Claims, Coverage and the Deepfake Frontier(AI時代のサイバー犯罪 ー クレーム、補償、そしてディープフェイクの最前線)」と題された講演です。
講師はアメリカの大手損害保険会社The Hartfordの賠償責任・サイバー・技術責任者を務めるAnthony Dolce氏で、はじめにサイバー攻撃の潮流について、ランサムウェア※から取引先や役員になりすまして直接金銭を振り込ませる詐欺が急増していると説明しました。
※ランサムウェア:ウイルスに感染したパソコンのデータを暗号化するなど使用不能にし、その解除と引き換えに金銭を要求する攻撃
Dolce氏曰く、背景にあると指摘したのがAIで、「本物そっくりの偽メール」や「偽造音声」を誰でも低コストで大量に作れるようになってしまっているということです。
さらに最新のAI技術・ディープフェイクで作られた上司の声や顔は、電話やWeb会議越しで見分けがつかないレベルとなっているため、「人間の目と耳」では偽物を見抜けなくなっていると指摘しました。
このディープフェイクへの有効な対策としてDolce氏が挙げたのが、コンテンツ自体にデジタルの印を刻む「電子透かし」という技術です。

これは人間にはわからない微細な波形の中に圧縮しても消えない強固な識別情報を埋め込む技術で、企業独自の電子署名を併用すれば、第三者による改ざんやAIによる音声の差し替えを検知できるようになるということです。
AIがもたらす“新たなリスク”
続いて紹介するのは「AI, Deepfakes and Beyond: Navigating Emerging Risks and Coverage Gaps(AI・ディープフェイクがもたらす新たなリスクと保険の空白)」という講演です。
登壇したのは、以下の3名です。
| 登壇者 | 所属企業・組織 | 企業・組織の業種 |
|---|---|---|
| Joseph Saka | Nossaman LLP | 法律事務所 |
| Garrett Droege | WTW | 保険ブローカー |
| Timothy King | GID Investments Advisers LLC | 投資顧問会社 |
この中では、AIがもたらす新たなリスクについて主に次の3点が指摘されました。
- Claude・Mythosの流出可能性
- AIによる命の選別
- AIウォッシングに伴う経営リスクの顕在化
Claude・Mythosの流出可能性
ここ最近注目を集めているアメリカの新興企業Anthropic(アンソロピック)が開発したAI「Claude・Mythos(クロード・ミュトス)」。専門知識がなくても未知のプログラムの脆弱性を数秒で見つけられるほどの圧倒的な性能を持つとされています。
このClaude・Mythosは悪用の危険性から利用できるユーザーは一部企業に限定されているのですが、講演の中で、すでに第三者(ハッカー集団)の手にわたった可能性があるという情報が明らかにされました。これについて登壇者は「世の中に、あらゆる防御を無効化する無敵のサイバー兵器が放たれたようなものだ」と表現して危機感をあらわにしました。
AIによる命の選別
自動運転車が「誰かに衝突するのは避けられない」という状況に直面した際、AIが周囲のナンバープレートを瞬時に照合して、職業や納税額などの“社会的価値”に基づいて犠牲にする対象を選別する可能性が議論されているということです。
その場合、企業の責任は“単なるシステムの故障・不具合”としてではなく「どのような価値観や倫理基準をAIに持たせたのか」という設計上の責任を問われることになり、「従来の損害賠償の枠組みを根底から覆す極めて重大な法的論点」だと指摘しました。
AIウォッシングに伴う経営リスクの顕在化
高度なAI活用を過剰にうたいながら、裏では安価な海外労働者による手作業などを使っている「AIウォッシング」という手口で資金を調達する事案の摘発が後を絶たないということです。
こうしたサービスを真に受けて導入してしまった企業は期待した効果が得られないだけでなく、導入を決定した経営陣が監視義務違反として投資家から訴えられる可能性があり、重大な経営リスクとなりうると強調しました。
アメリカで生じるAI規制のねじれ構造
最後に紹介するのは「Time to Pay Attention: Artificial Intelligence Regulatory Update (注視すべき時:AI規制の最新情報)」と題された講演です。
登壇したのは世界保険ブローカー大手4社の一角である、イギリスのAonのWard Ching氏とDaniel Serota氏の2人で、アメリカにおけるAI規制に関する現状を報告しました。
この中では、トランプ政権はAIによるイノベーションを阻害しないよう、AI活用の促進に軸足を置いた規制を維持している一方で、州政府は政権と異なり、厳しく規制する法律が乱立しているとしました。2人が説明した各州の規制内容について、次の表にまとめました。
| 州 | 規制内容 |
|---|---|
| カリフォルニア | 大規模言語モデルの開発者に安全性の事前検証と内部告発者の保護を義務付ける。 |
| テキサス | 政府機関が住民とAIシステムを介してやり取りする場合、AIとの対話であることを事前または同時に通知することが必要。医療などの重要分野では、AIが出力した内容を人間が確認・監督し、最終的な責任を人間が負う。 |
| イリノイ | 採用時のAI選考における差別の禁止と、生体情報の取得・利用について厳しい規制を設け、個人のプライバシー保護を重視する。 |
まとめ:AIリスクは経営レベルで対応すべきフェーズに
RISKWORLD 2026に参加してみて強く感じたのは、AIが不正・事故・法規制・レピュテーションを横断して影響するリスクの起点になりつつあるという点です。これはAIがもたらすリスクが単なる「技術の問題」にとどまらず、経営レベルで対応すべきフェーズになりつつあることを表していると感じました。
このフェーズで企業に求められるのは「AIを使うかどうか」ではなく、「AIをどう管理し、どこまで人が責任を持つのか」を明確にすることです。その意味で今注目すべきなのは技術の進化ではなく、その技術を前提にした人・組織・ルールの再設計です。
MS&ADインターリスク総研では、
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新たなビジネスの創出につなげるため、
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