HumanX 2026参加レポート① グローバルAIカンファレンスで語られたこととは?
[この記事の執筆者]

- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 役職名
- マネジャー
- 執筆者名
- 野中 聡 Satoshi Nonaka
2026.5.18
2026年4月にアメリカ・サンフランシスコで開催されたグローバルAIカンファレンス「HumanX 2026」。
MS&ADインターリスク総研では、AIをはじめとする最先端の技術にいち早く触れて新しいビジネス創出につなげるため駐在員2人がシリコンバレーに常駐していて、今回カンファレンスに参加しました。
会場には、大企業からスタートアップ・政府関係者・投資家など幅広い顔ぶれが一堂に会し、“今AIは何ができるのか?”“どのように活用されているのか?”を話し合うとともにAIによって“何が起きているのか”について議論が行われました。
このカンファレンスについて、2回にわたって詳しくご紹介します。1回目の今回は、駐在員・野中聡がカンファレンスで行われた講演の内容を紹介します。
流れ
- グローバルAIカンファレンスHumanXとは?
- 講演で語られたAI領域における最新動向とは?
- AIリスクにはAIで対策する
- AIガバナンス導入を促すのは、巨大な訴訟リスク
- まとめ:活用と統制の両立が企業の競争力を左右するカギに
グローバルAIカンファレンスHumanXとは?
MS&ADインターリスク総研でシリコンバレーに駐在する野中聡です。まず、HumanXとはどのようなカンファレンスなのか簡単に説明します。
HumanXは、アメリカ・サンフランシスコで開催されるAIをメインテーマとする世界最大級のカンファレンスです。2026年は4月7日から9日までの3日間にわたって開催され、78カ国から6,500人以上が参加しました。
会場は、講演やパネルディスカッションが行われる「セッションエリア」、AIプロダクトを持つ企業が多数出展する「EXPOエリア」、数多くの参加者が面談を実施する「ネットワーキングエリア」の主に3つのエリアに分かれていました。
そうしたエリアでは、AI領域をリードする著名人による講演、大小さまざまな企業によるAIプロダクトの紹介、参加者同士の交流が行われ、会場は熱気に包まれていました。
講演で語られたAI領域における最新動向とは?
会場では数々の講演が行われていましたが、その中から特に多くの学びが得られたと感じた講演の内容をご紹介します。
はじめにご紹介するのは、ドイツのメルセデス・ベンツでCIO(最高情報責任者)を務めるKatrin Lehmann氏の講演です。
「The Human Edge of AI: How Mercedes‑Benz Drives Innovation and Adoption(AIの時代に“人間らしさ”で勝つ:メルセデス・ベンツの革新と実装)」と題した講演の中でLehmann氏が強調したのは、AI活用の本質はテクノロジーそのものではなくAIを使う“人”と“組織”にあるということでした。
同社では、先進的なAIツールを全社規模で導入したものの、そのツールを社員が利用しないという現実に直面したといいます。そのとき、同社が重要な課題として認識したのが「社員の行動変容」だそうです。
そこで同社は、AIの活用を社員に押し付けるのではなく、リーダー自身の行動によって方向性を示す姿勢を重視したということです。具体的には、経営層が実際にAIを使い、学び、失敗する姿を見せたそうです。これによって組織内に心理的安全性が広がったといいます。
また、社員は“信頼できないもの”は使わないと考え、全社的にAIを学ぶ時間を設けることでAIに対する不安をやわらげ、活用の広がりにつながったのだそうです。
こうした環境整備の効果もあり、同社ではソフトウェア開発において従来8カ月かかっていたプロセスを8日に短縮したケースもあったといいます。
最後にLehmann氏は次のように話し、講演を締めくくりました。
「AIは目的ではなく手段であり、真に価値を生むのはAIによってエンパワーされた人材が、よりよい製品・サービス・顧客体験を生み出すことです」


HumanX 2026講演会場の1つ。多くの人が集まっていた。
AIリスクにはAIで対策する
次にご紹介するのは、アメリカ・アトランタに本社を置きデータ・AI・プライバシーの管理を支援するソフトウェア会社のOneTrust社でCIO(最高イノベーション責任者)を務めるBlake Brannon氏の講演です。
「Agents Governing Agents(AIエージェントによるAIエージェント管理)」と題した講演の中でBrannon氏は、次のような事例を紹介しました。
「ある企業で、AIエージェントに『売り上げを30%増加させよ』と指示を与えたところ、AIは顧客を分析して“経済的に困窮しているが、どうしても購入する必要がある顧客”を特定し、高い価格を提示。この事実が明るみになって顧客が反発し、数千人が契約を解除する事態になった」
その上でBrannon氏は、AIエージェントの数が2028年までに人間の従業員数の約4倍に達すると予測されていることから、人間のコンプライアンスチームがすべてをチェックするのは不可能となり、先ほどのような事態を防ぐことができなくなると指摘しました。
こうしたことを受けて、AIを使ってほかのAIエージェントを監視・制御する仕組み「エージェント・コントロール・プレーン(Agent Control Plane)」が近年注目されていると話しました。
Brannon氏によると、エージェント・コントロール・プレーンの具体的な動作は次の表のような仕組みになっているということです。
| 1 | 監視 | 単なるアクセス履歴ではなく、データの使用目的までAIが常時監視。 |
|---|---|---|
| 2 | 評価 | 人間のコンプライアンス基準をシステム化し、行動の妥当性を即時判定。 |
| 3 | 介入 | ポリシー違反を検知するとプロセスを停止。違反理由と正しいルールをAIエージェントに直接入力。 |
| 4 | 再実行 | 入力されたルールに基づき、AIエージェント自らロジックを修正。 |
Brannon氏の話を聞いて、紹介されたようなAIによるブランドき損が日本でも起きれば、企業は存続を危ぶまれるくらいのダメージを受けるリスクがあると感じました。深刻な人手不足に直面する日本では、AIエージェントの活用は避けては通れない道だと考えられるので、こうしたリスクにどう対応していくのか真剣に考える必要があると思いました。


HumanX 2026の会場には巨大なスクリーンも設置されていた。
AIガバナンス導入を促すのは、巨大な訴訟リスク
今回、最後に紹介するのは、AIに関するスタートアップ企業などの創設者ら3人が登壇した「Building for Security, Compliance, and Real-World Risk(セキュリティ・コンプライアンス・実務リスクを見据えた設計)」と題した講演です。
この中で紹介されたのは採用活動にAIを導入したニューヨーク市の事例で、同市は、透明性を担保するためにAI導入にあたっては外部監査を義務付けていましたが、監査を合格しても運用してみるとAIによる差別や偏見などが発覚するケースが相次いだということです。
要因としては、AIは常に学習することから導入時点から(AIからの)回答内容が徐々に変化してしまうことが考えられ、導入時点だけの監査には意味がないことを示しているといいます。
こうしたAIの傾向を把握せずにAIを導入して誤った判断を下したことで訴訟になった場合、企業はAIを正しく管理していたことを法廷で証明できなければ、巨額の賠償リスクに加えてブランドき損の恐れもあるということです。
特にアメリカでは、こうした訴訟のリスクは非常に大きく、このリスクに対する“恐怖”が企業に実効性のあるAIガバナンスの導入を促す最大の原動力になると指摘しました。講演の内容を聞いて、AI規制のあり方について日本でも参考になる点があると感じました。
AIの活用が進めばAIの規制も強化する必要がありますが、実効性のあるAIガバナンスを実現するためには一過性のチェックに終わることなく、AIの挙動を継続的にモニタリングする体制の構築が不可欠と言えます。
まとめ:活用と統制の両立が企業の競争力を左右するカギに
HumanX 2026では、AIの最新活用事例だけでなくAIをどう安全に使いこなすかという論点が強く印象に残りました。


HumanX2026には、非常に多くの企業が協賛していた。
重要なのは、AIは単に導入するだけでなく人・組織・ガバナンスと一体で設計すべき経営課題だという点です。
AI活用を広げるには、社員が安心して使える環境づくりやリーダー自らが実践する姿勢が欠かせません。 一方で、AIエージェントの活用が進むほど、誤った判断・差別・ブランドき損・訴訟といったリスクも高まります。
そのため導入時の1回限りのチェックではなく、継続的なモニタリングと改善を前提としたAIガバナンスが必要になります。
AIを「活用する力」と「統制する力」を両立できるかどうかが、今後の企業の競争力を左右するカギになるかもしれません。
MS&ADインターリスク総研では、
AIをはじめとする最先端技術にいち早く触れて
新たなビジネスの創出につなげるため、
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