コラム/トピックス

保険データ活用とAI技術が拓く降雹予測技術 被害軽減へ前日から備え可能に

[このコラムを書いた研究員]

中西 亮太
専門領域
自然災害、気象学
所属
データアナリティクス部 リスク計量評価グループ
執筆者名
研究員(気象予報士) 中西 亮太 Ryouta Nakanishi

2026.6.30

近年、気候変動の進行などの影響によって、自動車や建物へ甚大な被害をもたらす雹災害が頻発している。特に6月から7月にかけての梅雨期は、過去に雹災害が数多く発生しており、2022年6月には北関東を中心に大規模な雹災害が発生し、保険金支払いの総額が1,100億円を超えた(出典:損害保険料率算出機構)。こうした雹による被害を事前の備えにより抑制したいというニーズが高まる中、MS&ADインターリスク総研(以下、当社)は、雹による被害を事前に軽減するための新たな手段として、保険データと人工知能(AI)技術を活用した降雹予測モデルを開発し、2026年4月より本格運用を開始した。

降雹は局地的かつ短期的な現象であり、事前の予測が難しい。従来は気象レーダーなどの観測結果をもとに30分から1時間後の発生を予測する技術が中心であり、対策に使える時間が限られていた。こうした課題に対し、当社の降雹予測モデル(以下、本モデル)では、翌日の降雹有無を市町村ごとに予測することを実現した。前日段階で雹のリスクを把握できれば、被害軽減に向けた準備を早めに進めることが可能になる。

本モデルは、気象ビッグデータ解析と雹災害による保険金支払実績データを用い、過去の大規模な雹災害事例における気象予測データと降雹有無の関係性を、当社独自のAI技術を用いて学習したモデルである。日々の予測では、AIの学習結果を用いて気象予測データをもとに翌日の降雹有無を市町村ごとに予測している。従来の直前予測と比較して、予測できる範囲の細かさや予測精度では及ばないものの、前日時点での予測を実現した点に大きな意義がある。本モデルによる前日予測と、従来技術による直前予測と組み合わせることにより、降雹前日から発災直前までの行動をタイムラインとして検討することが可能になる。また前日時点で雹のリスクを把握できれば、実際に雹が降るまでに十分な時間を得られる。これにより自動車に防護用のカバーをかけるなどの対策行動を実施できる人が増え、雹災害による被害の低減に貢献すると考える。

本モデルの開発過程では、保険データの活用が重要な役割を果たした。降雹は局地的かつ短期的な現象であることから、体系的かつ詳細な地理情報を伴う観測結果を得ることは容易ではない。気象予測技術の開発には観測結果が不可欠であるが、公的機関の提供する観測情報には、都道府県ごとの集計に留まるものや、集計を終了しているものも多く、利用が難しい状況であった。そこで本モデルでは、個人を特定できない形まで加工・集計した雹災害による保険金支払実績データを、どの市町村で降雹が発生したかを示す記録として活用した。これにより、過去の大規模な雹災害の発生地を詳細に捉えつつ、気象予測データと降雹有無との関係を分析することが可能となり、本モデルの開発につながったのである。

当社は今回開発した降雹予測技術により、保険関連業界で初めて、気象庁より気象予報業務の許可を取得した。これにより予報業務許可事業者として降雹予測をお客さまへ提供することができるようになった。当社は損害保険会社のグループ会社であるという強みを生かし、保険データのさらなる活用を通じて降雹予測モデルの予測精度向上を図っていく。また気象予報業務許可の取得や保険データ活用のノウハウを生かし、今回開発したAI技術を他の自然災害に応用することも検討することで、お客さまや地域社会の自然災害への備えを支援し、被害の低減に貢献していきたい。

(2026年6月18日三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)

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