レポート/資料

「第10回 事業継続マネジメント(BCM)に関する日本企業の実態調査」報告書の解説【RMFOCUS 第98号】

[このレポートを書いたコンサルタント]

石川 美有
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
リスクマネジメント第四部 
BCM第一グループ
執筆者名
上席コンサルタント 石川 美有

2026.7.1

要旨
  • MS&ADインターリスク総研は、2026年3月に「第10回 事業継続マネジメント(BCM)に関する日本企業の実態調査」の結果を公表した。
  • 今回の調査では、サプライチェーンリスクへの関心が高まる一方で、サプライチェーンの可視化やリスク評価、強靱化施策の実行にはなお課題があることが明らかになった。また、海外事業所/海外現地法人においても事業継続計画(BCP)の必要性は高まっているものの、本社と現地の役割分担や事業継続対応の具体化には改善の余地が見られた。
  • 本稿では、「サプライチェーン」「海外拠点」に関する調査結果を踏まえ、今後のBCM活動に向けた実務上のポイントを解説する。

MS&ADインターリスク総研は、2003年に日本で初めて事業継続マネジメント(BCM)に関するコンサルティングサービスを開始して以来、活動の一環として、2005年から20年以上にわたり独自に日本企業のBCMに関する実態調査を行っており、2026年3月に10回目となる調査の結果を発表した。

同じく2026年3月には、内閣府から「令和7年度企業の事業継続及び防災に関する実態調査」の調査結果が発表された。調査結果の詳細についてはこの場では触れないが、内閣府の調査では、事業継続の課題としてサプライチェーン強靱化に関する設問が新たに加えられている。

両調査を比較すると、MS&ADインターリスク総研の調査は従前より「サプライチェーン」や「海外拠点」に関してより深く掘り下げている点に特徴がある。本稿では、これら2点のテーマに関する設問への回答内容に着目し、BCM活動に取り組む皆さまが次の一手を描くためのヒントとなるよう解説する。

1.調査概要

調査内容

  • 調査方法:インターネット調査
  • 調査対象企業:日本国内全上場企業(調査当時3,890社)
  • 回答数:211社(5.4%)
  • 調査期間:2025年11月~12月

2.サプライチェーンリスクへの関心の高まりと企業の取組状況

(1)サプライチェーンリスクへの関心の高まり

図1は、「事業継続上、関心のある危機事象」という設問に対する、2021年と2025年の回答結果を比較したものである。

この結果から「サプライチェーンのトラブル」への関心が、26.6%から34.6%へと高まっていることが分かる。

また、「サイバーリスク」や「地政学リスク」を選択した割合も伸びている。これらはサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があり、決して無関係ではない。企業が事業継続を考えるうえで、サプライチェーンリスクを強く意識する傾向が広がっていると言えるだろう。

【図1】「事業継続上、関心のある危機事象」に対する回答

「事業継続上、関心のある危機事象」に対する回答
「事業継続上、関心のある危機事象」に対する回答

(2)サプライチェーンに関する質問項目一覧(参考)

問15.貴社のサプライヤー(貴社に直接、部品やサービスを提供している会社)の数はどれくらいですか。
問16.貴社は、上記のサプライヤーの他、二次サプライヤー(貴社と取引のあるサプライヤーに商品やサービスを提供している会社)や三次サプライヤー(二次サプライヤーに商品やサービスを提供している会社)、海外のサプライヤーの社名と所在地を把握されていますか。各サプライヤーに関して1つずつお選びください。
問17.貴社は、大災害発生時にサプライヤーからの部品やサービスの提供を確保するために、どのような事前対策を講じていますか。
問17-1.問17でご回答いただいた「事前対策」を実施するサプライヤーはどのように絞り込んでいますか。絞り込みの条件としてあてはまるものをお選びください。
問18.貴社はサプライヤーがBCPを持つことは必要だと思いますか。
問19.貴社は顧客(貴社が製品やサービスを提供している会社)から防災対策・BCP整備に関連して何か要請されていますか。あてはまるものをお選びください。

(3)サプライチェーンリスクに対する企業の取組状況と課題

以下では、図2のサプライチェーンBCP構築の各ステップと併せて、アンケート結果から企業における取り組みの現状と課題を見ていく。

【図2】サプライチェーンBCP構築の基本ステップ

サプライチェーンBCP構築の基本ステップ
サプライチェーンBCP構築の基本ステップ

① STEP1:サプライチェーンの可視化

まず、自社のサプライヤーについて、一次だけでなく二次・三次・四次以降まで社名と所在地を把握できているか(可視化できるか)を見ていく。図3のとおり、二次サプライヤーについて「自社重要事業に関わるものはすべて把握している」「すべて把握している」と回答した企業は全体の約41%であった。しかし、三次サプライヤーでは約21%、四次以降のサプライヤーでは約14%まで下がっており、階層が深くなるほど把握状況は大きく低下する。一方で、図5に示されているとおり、「サプライチェーンの可視化」に取り組む企業は約52%と比較的多い。

これらのことから、「サプライチェーンの可視化に取り組む企業は比較的多いものの、サプライチェーン全体を十分に可視化できている企業はまだ限られている」という課題が見えてくる。

【図3】「サプライヤーの社名と所在地を把握」に対する回答(問16)

「サプライヤーの社名と所在地を把握」に対する回答(問16)
「サプライヤーの社名と所在地を把握」に対する回答(問16)

② STEP2:優先事業に紐づくサプライヤーの洗い出し

図4のとおり、事前対策を実施するサプライヤーを絞り込んでいる企業は76.4%に上る。また、絞り込みの観点としては、「優先事業に紐づくサプライヤー」としている企業が最も多い。

【図4】「事前対策を実施するサプライヤーの絞り込み」の対応率(問17)

「事前対策を実施するサプライヤーの絞り込み」の対応率(問17)
「事前対策を実施するサプライヤーの絞り込み」の対応率(問17)

③ STEP3:サプライチェーンのボトルネック分析(ボトルネックサプライヤーの洗い出し)

MS&ADインターリスク総研では、ボトルネックとなりうるサプライヤーの脆弱性を把握する手法の「はじめの一歩」として、「サプライヤーの立地リスク」と「サプライヤーの災害対策/BCP構築レベル」の観点から評価を行うことを推奨している。図5のとおり、前者に該当する「ハザードマップ等でサプライヤーの立地リスク評価」を行っている企業は18.1%にとどまり、取り組みはあまり進んでいないことが分かった(前回2021年調査では20.8%)。

また、後者に該当する「サプライヤーに対する防災対策・BCP整備の有効性の確認(アンケート、ヒアリング等の実施)」を行っている企業の割合はさらに低く、前回と同じ16.1%にとどまった。このことから、ボトルネックサプライヤーの洗い出しまで十分に手が回っている企業は少ないことがうかがえる。

【図5】大災害発生時の事業継続に関する事前対策事項の回答(問17)

大災害発生時の事業継続に関する事前対策事項の回答(問17)
大災害発生時の事業継続に関する事前対策事項の回答(問17)

④ STEP4:サプライチェーン強靱化施策の検討と実行

ボトルネックサプライヤーの洗い出し結果を踏まえ、各種の強靱化施策を打っていく必要があるが、図5のとおり、重要な事前対策の一つである「部品等の在庫の確保」を行っている企業の割合は低下している(前回調査29.7%→今回調査 21.9%)。在庫を持つことはコスト増加やキャッシュフロー圧迫などにつながるため、財務的な負担が課題となり、対策が進んでいない可能性がある。

また、「サプライヤーの多重化(二社購買)の推進」は、代替・切替戦略として有効な対策であるが、50.5%から45.2%へと低下している。多重化は特定サプライヤーへの依存度を下げるうえで有効だが、新規サプライヤー開拓の手間や調達コストの増加などもあり、実務上の負担が大きいと考えられる。

さらに、その他「サプライヤーに対する防災対策・BCP整備の有効性の確認(アンケート、ヒアリング等の実施)」「サプライヤーに対する防災対策・BCP整備の要請」「サプライヤーに対する防災・BCP関連情報の提供」「防災対策・BCP整備を取引条件とする」取り組みにおいても、いずれも20%に満たず、前回調査から横ばいまたは減少している。加えて、「大災害発生時にサプライヤーから被災情報を素早く収集できる仕組みの構築」についても対応が進んでいない(前回調査28.6%→今回調査27.1%)。

(4)サプライチェーンBCP構築の取組ポイント

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