コラム/トピックス

サプライチェーンの起点“調達”もネイチャーポジティブ対応|環境省が実践ガイドラインを公表

2026.7.30

環境省は2026年7月14日、「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」を公表した。本ガイドラインは企業の調達において生じる自然関連の経営リスクに備え、対応するためのもの。自然資本の損失が、原材料の調達難や価格上昇、規制対応、レピュテーション低下、操業停止といった経営リスクにつながる恐れがあることを踏まえ、調達の場面で押さえるべき基本事項を整理した。原案は2026年6月に公表され、パブリックコメントの募集を経て確定版となった。企業での活用は任意とされている。

ガイドラインでは、法令遵守を前提に、企業に求められる対応を下表のとおり「A:事業者の責務として対応が必要」と「B:先行対応を推奨」の2つの水準に区分し、段階的に取り組みを進めることを提示している。それぞれの水準区分は図1のとおりで、A区分の事項は早期の対応が必要であり、財務マテリアリティや自然へのインパクト評価に基づいて優先順位の高いコモディティから取り組みながらも、最終的には全コモディティを対象とすべきとしている。B区分では、自社とバリューチェーンのリスク回避・軽減や機会獲得のために先行して取り組むことが推奨される事項が挙げられている。自然関連課題として重要度が高く、かつ取引量の多いコモディティについては優先的に取り組むことが推奨されており、そうした重要度の高いコモディティの一例として、Science Based Targets Network(SBTN)が挙げるHigh Impact Commodity List※1に含まれるものを示している。

<表 企業に求められるネイチャーポジティブ実践の基本事項の概要>
A:事業者の責務として対応が必要 B:先行対応を推奨
  • 調達方針の策定
  • 目標・KPI設定およびコミットメントの提示
  • サプライチェーン上のリスクの抽出・評価
  • 透明性・トレーサビリティの確保
  • 損失回避・軽減に向けた計画を策定済みのサプライヤーからの調達
  • 自然資本の損失に寄与しないサプライヤーからの調達
  • 取り組みの実施状況の把握
  • サプライヤーエンゲージメント方針・戦略の策定
  • 先住民の社会および地域社会(IPLC)等に関する人権方針やエンゲージメント活動の説明
  • 自然資本の損失回避・軽減
  • 自然資本の保全・回復・創出に積極的に取り組むサプライヤーからの調達
  • 取り組みの実施状況や自然の状態の定量測定
  • 情報開示
  • 消費者等への周知

<図1 基本事項の対応水準の区分>

基本事項の対応水準の区分
基本事項の対応水準の区分

出典:環境省「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」

ガイドライン内では、調達において企業が求められる基本事項を「責任ある企業行動のためのOECDデューデリジェンス・ガイダンス」で挙げられる「企業行動として求められるプロセス」に基づいて整理している(図2)。基本事項は、先行企業事例をもとに方針・経営システムへの組み込みから、影響への対応方法等の情報開示までの各プロセスでの取り組みをまとめたものだ。あわせて、トレーサビリティ確保の考え方として、サプライチェーンにおける自然資本関連情報を、どのような流れで、どの水準まで把握するかについても示している。また、別紙には各基本事項に関連する指標一覧が用意されており、サプライチェーン管理に適したTNFDやGRI 101の開示指標が紐づけされている。

<図2 調達におけるネイチャーポジティブ実践の基本事項の概要>

調達におけるネイチャーポジティブ実践の基本事項の概要
調達におけるネイチャーポジティブ実践の基本事項の概要

出典:環境省「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン(概要)」

これらの内容を踏まえると、本ガイドラインは、サプライチェーンにおける環境デューデリジェンスおよびマネジメントの基本水準を示すものといえる。今後、サプライチェーン上の取り組みを進める企業にとって、どの水準まで対応すべきかを示す道標となるだろう。さらに、企業に求められる基準を共有する資料として、今後サプライヤーとの対話を進める際のコミュニケーション・ツールとしての活用も期待される。

また、2026年6月に環境省は「バリューチェーンにおける環境デュー・デリジェンスの実践※2」を公表しており、その一環としてサプライチェーンにおける取り組みをまとめている。本書においても図2に示すプロセスに沿って取り組みを進めることを解説している一方で、このプロセスは必ずしも実務上の着手順序を規定するものではないことを指摘しており、着手しやすい次の段階から取り組む選択肢も挙げている。初期段階の「①企業方針および経営システムへの組み込み」の検討において、方針に反映すべき具体情報が不足している場合が多くの企業でみられ、停滞しやすいことを挙げ、「②負の影響・リスクの特定・評価」から進めていくことも有効と説明している。

これらの文書間で一貫しているポイントは優先順位をつけたうえで、着手可能な内容から取り組みを進めていくことであろう。企業としては、まずは最初から完璧を目指さず、サプライチェーンにおける重要領域から段階的に進めることが求められる。

※1)High Impact Commodity List
環境・社会面での影響が大きいコモディティを整理した一覧。企業にとっては、サプライチェーンにおける森林減少、生物多様性、人権、水資源等のリスクを把握し、優先的に対応すべき調達対象を特定するための参考情報となる。

※2)環境省「バリューチェーンにおける環境デュー・デリジェンスの実践」2026年6月30日掲載、2026年7月16日最終アクセス
https://www.env.go.jp/press/press_05213.html

【参考情報】
2026年7月14日付、環境省Webサイト
https://www.env.go.jp/press/press_05290.html

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