コラム/トピックス

経済安全保障とサステナビリティの交接点 ―G7エビアン・サミット「重要鉱物のサプライチェーン確保に関するG7首脳宣言」を手がかりに

[このコラムを書いた研究員]

専門領域
気候変動、サステナビリティ、国際政治、
グローバル・ガバナンス
役職名
マネジャー上席研究員
執筆者名
逸見 勉 Tsutomu Itsumi

2026.7.30

米国の第2期トランプ政権の誕生やウクライナ、イラン等の地政学的情勢を受け、E(環境)・S(社会)・G(コーポレートガバナンス)にわたるサステナビリティ推進の取組みが以前ほど注目を集めなくなったのは衆目の一致するところだろう。国際政治の「司令塔」的な役割を担うG7において、2025年以降、気候変動対策が合意文書に盛り込まれなかった※1ことは象徴的な出来事であった。

そのG7では、代わりに経済安全保障が注目を集めており、とりわけクローズアップされているのが重要鉱物サプライチェーンの問題である。しかし、イシュー全体の注目度には逆転が見られる一方、例えば本年のG7エビアン・サミットで発出された「重要鉱物のサプライチェーン確保に関するG7首脳宣言(以下、宣言)」を読むと、サステナビリティ推進の取組みの一端が経済安全保障の文脈に位置付けられる様相が見て取れる※2

そもそも重要鉱物サプライチェーンの問題は、エネルギーやデジタル等の分野で用いられる重要鉱物の供給を特定国※3に依存する状況が、特定国による経済的威圧への脆弱性になるとの懸念を踏まえ、G7が同志国を巻き込んで独自のサプライチェーンを構築し、サプライチェーンを多角化しようという取組みである。この方針は、2023年に日本が議長国を務めたG7※4で示されて以降G7の取組みの基調となっており、本年の宣言にもこの方針が貫かれている。こうしたG7における重要鉱物サプライチェーン多角化の取組みにおいて、サステナビリティはどう位置づけられているのだろうか。2つの側面から検討してみたい。

第1に、基準に基づく市場※5の確立が目指される点である。この方針は「重要鉱物市場は、労働基準、地域住民との協議、贈賄・腐敗防止措置を確保し、汚染や土地の劣化を含む負の外部性に対処しつつ重要鉱物の責任ある採掘、加工、貿易の実際のコストを反映すべき」という、昨年のG7カナナスキス・サミットの「G7重要鉱物行動計画」の文言に端的に表れている。この文言からは、中国が、不透明な補助金による過剰生産※6や、緩やかな環境規制等※7によってコストをカットすることで安価な重要鉱物を流通させ、市場シェアを独占することでサプライチェーンを集中させているとの認識が窺える。その是正策として、G7では様々な措置が検討されているが※8、基準に基づく市場の確立もその一つであり、ここでの「基準」には労働基準や環境基準等のサステナビリティ関連項目も含まれると考えられる。例えば本年の宣言には、持続可能な採掘慣行等、世界の鉱業基準を引き上げる戦略の策定・実施、国際的な労働基準と整合した強制労働のリスクへの対処等に言及がある。こうした供給側の基準設定とトレーサビリティや透明性の確保を通じて、取引される重要鉱物が製品面のみならず生産プロセスの面でも信頼できることを保証し、さらに基準を満たした製品を優先的に調達する基準を設ける等、需要側の措置と組み合わせることで、基準に基づく市場の確立を図る意向が示されている。

第2に、循環経済が、重要鉱物サプライチェーン多角化の課題に位置づけられる点である。従来G7では、循環経済は環境対策上のイシューとして扱われてきたが※9、消費・使用後の重要鉱物がG7・同志国の市場から漏出するのを防ぎ、自給率を高めることは、経済安全保障上も重要性を持つ。その鍵としてリサイクルや再生材利用がクローズアップされるが、ここにも基準に基づく市場をG7と同志国の間で形成し、リサイクルされた重要鉱物の利用を普及させようという方向性が見て取れる。この点、本年の宣言は「リサイクル」の項目を設け、リサイクルされた材料の最低含有率を定めてリサイクル材の利用を促す措置(再生材含有率要件)や、生産者が製品のライフサイクル(原材料選択、製造、使用・廃棄)で生じる環境負荷に責任を負う拡大生産者責任制度※10を通じたリサイクル目標の推進に言及するなど、G7の首脳文書としては過去になく踏み込んだ内容となっている。

重要鉱物サプライチェーンの多角化はG7が喫緊と認識する課題であり、基本的な方針は米国の政権交代にかかわらず引き継がれていることから、G7では今後も堅持されると考えらえる。その文脈に位置付けられたサステナビリティ関連の取組みは、今後迅速かつ持続的に進展していくと考えられることから、重要鉱物サプライチェーンに関係する企業は、サプライチェーン断絶のリスクのみならず、レピュテーションリスクや取引継続リスクの観点からも備えておく必要があるのではないだろうか。

※1)2025年のG7カナナスキス・サミットでは、各国首脳から気候変動への言及があったものの、気候変動対策は合意文書には盛り込まれず、あくまで議長サマリー(議長国による総括文書であり合意文書ではない)に言及があるのみ(外務省(2025c))。首脳の合意文書には「カナナスキス山火事憲章」が含まれたが、気候変動対策に関する内容は盛り込まれていない(外務省(2025b))。また同年のG7エネルギー・環境大臣会合(前年までは気候・エネルギー・環境大臣会合)でも、議長サマリーが公表されたのみだった(環境省(2025))。

※2)重要鉱物サプライチェーン多角化の取組みにサステナビリティの要素を位置付ける方向性は、例えば2023年のG7広島首脳コミュニケにESG基準が明示されているように、すでにG7の方針として打ち出されていた(外務省(2023))。現今の情勢下では、サステナビリティやESGといった直截な文言は用いられないが、個別の取組みを見ると、実質的な内容面で堅持されている点は見逃すべきではないだろう。

※3)本年G7エビアン・サミットの宣言(外務省(2026))を含め、G7では基本的に中国を名指しすることは避けられているが、2024年のG7プーリア・サミットの首脳コミュニケ(外務省(2024))では中国を名指しする書きぶりが見られる。

※4)2023年G7気候・エネルギー・環境大臣コミュニケ附属書「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン(仮訳)」(環境省(2023))。同プランは、首脳会合の成果文書(G7広島首脳コミュニケ)のパラ29に「我々は、G7気候・エネルギー・環境大臣が採択した「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」を歓迎」するとの形で言及されている(外務省(2023))。

※5)英語原文ではstandards-based markets。「standard」は「標準」と訳される場合もあるが、本稿では外務省仮訳の「基準」を用いた。

※6)外務省(2024)参照。

※7)例えば、令和7年版通商白書では、重要鉱物の精錬工程について「コストの安い国や環境規制の緩い国に集中する傾向があり、特に中国への集中度が高い」とされる(経済産業省(2025)、137頁)。

※8)例えば、ロイター(2025)参照。

※9)2024年以前のG7では、気候・エネルギー・環境大臣会合の成果文書に盛り込まれ、首脳文書でも環境の取組みに位置付けられていた。

※10)参考として、吉田綾(2017)参照。

【参考文献】

  • 外務省(2023)「G7広島首脳コミュニケ(仮訳)」
  • 外務省(2024)「G7プーリア・サミット首脳コミュニケ(仮訳)」
  • 外務省(2025a)「G7重要鉱物行動計画(仮訳)」
  • 外務省(2025b)「G7カナナスキス・サミット議長サマリー(仮訳)」
  • 外務省(2025c)「G7カナナスキス山火事憲章(仮訳)」
  • 外務省(2026)「重要鉱物のサプライチェーン確保に関するG7首脳宣言(仮訳)」
  • 環境省(2023)「2023年G7気候・エネルギー・環境大臣コミュニケ附属書『重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン(仮訳)』」
  • 環境省(2025)「G7エネルギー・環境大臣会合議長サマリー(仮訳)」
  • 経済産業省(2025)『令和7年版通商白書』
  • 吉田綾(2017)「拡大生産者責任(EPR)とリサイクル」『資源環境領域オンラインマガジン 循環・廃棄物の基礎講座』(2017年2月号、国立環境研究所ウェブサイト)。
  • ロイター(2025)「G7とEU、レアアース最低価格制度など検討 中国リスクに対応」(2025年9月25日)

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