コラム/トピックス

「とにかく暑い」欧州の今 ロンドンで見えた気候変動への適応対策

[このコラムを書いた研究員]

山根 未來
専門領域
気候変動、自然資本、サステナブルファイナンス
役職名
主任研究員
執筆者名
山根 未來 Miki Yamane

2026.8.21

日本でも猛暑日や酷暑日が全国各地で発生し、熱中症への対策が欠かせなくなってきています。こうした暑さは、気候変動がもたらす身近なリスクとして、暮らしや企業活動にじわじわと影響を及ぼしています。

世界ではこうしたリスクに備える動きもみられ始めています。2026年6月に英国・ロンドンで開催された「London Climate Action Week 2026(ロンドンクライメートアクションウィーク 2026。以下、LCAW)」では、脱炭素に加え、「適応」と「レジリエンス」が重要なテーマとして注目されました。

本稿では、現地で見えた議論をもとに、将来の気温上昇の見通しや、それに伴う事業活動への影響を整理し、今後の備えを考えます。

この記事の
流れ
  • 欧州最大級の気候変動イベント「LCAW」とは?
  • 世界を襲う記録的な暑さ
  • 将来の気温上昇はどうなるのかー科学者の視点から
  • 異常気象の激甚化と損害保険への影響
  • 求められる気候変動への適応対策

1.欧州最大級の気候変動イベント「LCAW」とは?

LCAWは、ロンドンで毎年6月に開かれる欧州最大級の気候変動に関するイベントです。政府、企業、金融機関、研究者、NGOなどが集まり、ロンドン中心部のさまざまな会場で多くのセッションが開かれます。第8回目となる2026年のLCAWは、対面・オンラインで計10万人以上が参加し、1,300を超えるセッションが行われました。

LCAWの特徴は、政策の議論だけでなく、企業の新しいサービスの紹介や連携の動きも多く見られる点です。また、11月にはCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)※1と呼ばれる、気候変動に関する世界最大級の国際会議が開催されるため、次のCOPに向けた論点をつかみやすいのも強みとなっています。気候変動をめぐる世界の関心が、いまどこに向かっているかを知るうえで、示唆の多い場といえます。

【図表1】LCAWで開催されたイベント「UNEP FI Global Roundtable 2026」の様子

LCAWで開催されたイベント「UNEP FI Global Roundtable 2026」の様子
LCAWで開催されたイベント「UNEP FI Global Roundtable 2026」の様子

UNEP FI Global Roundtable 2026では、金融、政策、科学、サステナビリティの各分野のリーダーが集い、「リスクからレジリエンスへ:未来へのファイナンス(From Risk to Resilience: Financing the Future)」というテーマのもと、議論を交わしました。

(撮影)Mariana Castaño Cano / 10 Billion Solutions for UNEP FI

※1)締約国会議(Conference of the Parties)の略。毎年、気候変動に関する国際連合枠組条約の全ての締約国が参加し、条約の実施に関するレビューや各種決定を行う。2026年は11月9日から20日にかけて、トルコ南部の地中海沿岸都市アンタルヤで開催される予定。

2.世界を襲う記録的な暑さ

2026年のLCAWは、記録的な熱波の中で開催されました。英国では気象庁による猛暑警報が出され、ニュースでも熱波報道が連日続きました。さらに同期間中は熱波の影響により、電車の一部遅延や運休、学校の閉鎖、病院のひっ迫など、深刻な問題となりました。欧州では、これまで日本ほど長く厳しい暑さに見舞われることが少なかったため、住宅や公共施設のエアコン普及率が低く、極端な暑さへの備えが十分ではありません。暑さは、個人の体調だけでなく、都市機能そのものにも影響することがあらためて意識された週となりました。

【図表2】LCAW期間中のロンドンの様子

LCAW期間中のロンドンの様子
LCAW期間中のロンドンの様子

LCAW期間中、ロンドンでは体感温度42度という報道もあり、連日記録的な暑さに見舞われました。それにより、電車といった交通機関や、学校・病院などの社会インフラに悪影響を及ぼしました。

(出所)筆者

3.将来の気温上昇はどうなるのかー科学者の視点から

LCAWのあるイベントでは、IPCC議長のジム・スキー氏が登壇し、将来の気温上昇の見通しについて紹介しました。IPCCとは、各国政府の気候変動に関する政策に対し、科学的な知見を評価・提供する国際的な組織です。同氏は、2100年までの過程で、産業革命以前と比べ1.5℃を超える気温上昇が一時的に発生する可能性が高いとの見方を示しました。ここでいう1.5℃とは、気候変動の国際的な目標の中で「気温上昇を1.5℃以下に抑える」という基準値を意識した発言であり、重要な意味を持っています。

将来一時的に1.5℃を超えてしまうという現状分析は、これまで実施してきた脱炭素対策が無意味という指摘ではなく、一層の取組みが必要だという趣旨です。

具体的には、スキー氏は「現行の脱炭素政策のままで進む場合、今世紀末に2.8℃程度、NDC(各国が決定した温室効果ガス削減目標)達成で2.3~2.5℃、全てのネットゼロ目標が達成されれば1.8~1.9℃程度の上昇が想定される」と説明しました。そのうえで、長期的に1.5℃以下に抑えるためには、排出削減に加えて、炭素除去※2の活用も重要だと述べました。将来を見通しつつ、いま何を準備するかが問われています。

※2)大気中から直接二酸化炭素を除去・回収する技術のこと。

【図表3】産業革命前水準と比較した際の、21世紀末における温度上昇(℃)
シナリオ 気温上昇
(温暖化水準)
シナリオの概要・備考
現行対策 2.8℃ 2024年11月時点で採択・実施されている政策、および2025年9月時点での米国における政策の撤回のみに基づき、世界のGHG排出量と気温上昇を予測したもの。
NDCの達成※3 2.3~2.5℃ 最新のNDC(各国が決定した削減目標)および(明示的な外部支援を前提としない)2035年までの公約が完全に実施されると仮定した際の、GHG排出量と気温上昇を予測したもの。
NDCの達成+
すべてのネットゼロ目標達成
1.8~1.9℃ 2035年までに「条件付きNDCシナリオ※4」が達成され、それ以降は、ネットゼロやその他の長期低排出型発展戦略に関するすべての公約が達成されると仮定した際のGHG排出量と気温上昇を予測したもの。
NDCの達成+
すべてのネットゼロ目標達成+
炭素除去
1.5℃ 1.5℃シナリオ実現に向けては、「NDCの達成+すべてのネットゼロ目標達成」に加えて、CO2除去技術によるネット・ネガティブ・エミッション(正味の負の排出)をより大規模に実施する必要が生じる。

図表内※3)UNEP資料では「NDCの達成」シナリオには「無条件NDCシナリオ」と「条件付きNDCシナリオ」の2つが示されている。図表の「NDCの達成」のシナリオの概要は「無条件NDCシナリオ」の内容。

図表内※4)「条件付きNDCシナリオ」とは、無条件NDCシナリオに加え、資金、技術移転、能力構築などの国際的な支援(を受けること)を実施の条件とするNDC目標も含まれる。

(出所)ジム・スキー氏の講演内容及び United Nations Environment Programme (2025)「Emissions Gap Report 2025」をもとに、筆者作成

4.異常気象の激甚化と損害保険への影響

気候変動による気温上昇は、異常気象の増加にもつながります。近年は、世界各地で自然災害の激甚化や頻発化が指摘されています。その影響は、工場や物流、店舗、サプライチェーンなど、企業活動のさまざまな場面に及びます。また、人々の暮らしや医療といった生活基盤にも関わってきます。

こうした中で、損害保険の分野では「プロテクションギャップ」が課題となっています。プロテクションギャップとは、自然災害などで起きた損失のうち、実際の被害額と保険で補償される額の差のことです。つまり、被害に対して保険でまかないきれない部分を指します。

プロテクションギャップはLCAWでも議論となりました。ある損害保険会社のスピーカーは、「自然災害の厳しさと頻度の両方に変化が起き、結果としてプロテクションギャップが広がっている」と指摘しました。異常気象による自然災害が増えることで、保険金支払額や頻度が高まり、保険会社が保険料を上げたり、補償内容を見直したりすることがあります。
また、危険の高い地域では、そもそも保険を引き受けにくくなる可能性もあります。そのため、世界では個人や企業、自治体が十分な補償を受けられないケースが増えているのです。

一見すると、保険は企業活動や私たちの生活から少し離れた話に見えるかもしれません。
しかし、保険でカバーしきれない部分が大きくなると、災害後の復旧が遅れたり、企業の活動が止まったり、国や自治体の負担が増えたりします。保険の問題は、実は社会全体の安定に関わる大切な論点なのです。

こうした問題に対して、損害保険会社には、被害を減らし、早く立ち直るための備えを社会に広げる役割もあります。防災減災の支援や、災害前後の補償・復旧を支える仕組みは、企業や自治体、そして暮らしを守るうえで欠かせません。

5.求められる気候変動への適応対策

LCAWに参加して、気候変動への対応は、これまでのように温室効果ガスを減らすことだけではなく、被害を受けにくくし、被害から早く立ち直るための対策も含めて考える段階に入っていると感じました。特に、暑さ、洪水、水不足といった実際のリスクは、すでに世界各地で深刻な課題になっています。

こうした適応対策は、必要性が高い一方で、資金や実装が十分とはいえないことも課題です。企業や自治体にとっても、事業の安定性を確保するためには、平時からの備えに投資しておくことが重要です。その意味で、適応対策は単なる災害対策にとどまりません。これからは、こうした対策を単なる災害対策として見るだけでなく、社会のレジリエンスを高める取組みであり、同時に新しいビジネスの機会として捉えることが、より重要になると考えられます。

あわせて読みたい

「適応」「レジリエンス」への注目さらに高まる―London Climate Action Week 2026から見えた、気候変動のトレンド—【リサーチレター(2026年8月)】
https://rm-navi.com/search/item/2628

※関連するサービスメニュー 
「脱炭素/カーボンニュートラル支援」

【参考文献】

  • London Climate Action Week. https://londonclimateactionweek.org/(2026年7月22日アクセス)
  • United Nations Environment Programme (2025). Emissions Gap Report 2025: Off target – Continued collective inaction puts global temperature goal at risk [Olhoff, A., chief editor; Lamb, W.; Kuramochi, T.; Rogelj, J.; den Elzen, M.; Christensen, J.; Fransen, T.; Pathak, M.; Tong, D. (eds)]. Nairobi. https://doi.org/10.59117/20.500.11822/48854.
  • United Nations Environment Programme Finance Initiative. UNEP FI Global Roundtable 2026 23-25 June 2026 | London, United Kingdom and Online. https://www.unepfi.org/GRT2026/(2026年7月22日アクセス)
  • WWFジャパン(2026年7月)「ホワイトペーパー 保険プロテクションギャップへの対応 気候変動の緩和と自然の活用によるレジリエンスの向上 日本語版抄訳」https://www.wwf.or.jp/activities/data/20260706_sustainable01.pdf(2026年8月7日アクセス)

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