サッカーワールドカップ、開催都市の熱中症リスクが過去30年で2倍に?
[このコラムを書いた研究員]

- 専門領域
- 気候変動、自然資本、
サステナブル経営、
情報開示、ビジネスと人権 - 役職名
- 上席研究員
- 執筆者名
- 衣笠 功次郎 Kojiro Kinugasa
2026.6.15
サッカーワールドカップが開幕しましたね。2022年カタール大会では、世界35億人が視聴しました。ただ、ワールドカップの裏側で、今、深刻な環境リスクが浮き彫りになっているんです。
こうした中で、日本サッカー協会や欧州サッカー連盟は「リスクを価値へと変える」挑戦を進めています。その取組みは、企業の皆さまにとっても参考になるものです。
そこで今回のコラムでは、2026年のワールドカップが直面する現実を紐解きながら、サステナビリティへの対応がどのような変革と機会をもたらすのかを解説します。サステナビリティを経営の核に据え、多くの人から支持されるアクションをどのように起こしていくべきか、そのヒントを一緒に探りたいと思います。


流れ
- ワールドカップ開催都市の熱中症リスクは過去30年で2倍に
- 暑さにとどまらない、連鎖する「その他のリスク」
- リスクへの対応策と機会
- 企業が学ぶべきリスク管理と成長の視点
- まとめ-サステナブル経営を核にしたアクションと挑戦を-
1. ワールドカップ開催都市の熱中症リスクは過去30年で2倍に
今回のワールドカップはアメリカ、カナダ、メキシコの3か国16都市に分散して行われます。気候に関する国際研究機関World Weather Attributionの報告によると、全104試合の内26試合が熱中症リスクの高い「WBGT(暑さ指数)26℃」を超える過酷な条件下で行われると分析しています。
特に、空調設備を備えていないために熱中症リスクが高いとして、次のスタジアムを挙げています。
- ニューヨークのメットライフ・スタジアム
- カンザスシティのアローヘッド・スタジアム
- フィラデルフィアのリンカーン・スタジアム
- マイアミのハードロック・スタジアム
- ボストンのジレット・スタジアム
- メキシコのエスタディオ・モンテレイ
今日、日本が戦ったダラス・スタジアムには空調設備がありましたが、第2戦(6月21日)が開かれるエスタディオ・モンテレイにはありません。次戦に出場する選手にとっては対応が難しい試合になりそうです。
また、同報告によると、こうした高温事象によって、選手や観客が熱中症にさらされるリスクは、1994年のアメリカワールドカップ当時の2倍にまで増大したことを明らかにしています。
この熱中症リスクへの対策は、一筋縄ではいかない課題です。
試合が行われるすべてのスタジアムに空調設備を設置すれば良いという訳にはいきません。スタジアムのような大空間を冷やすには膨大な電力を消費することになるからです。その際、自然エネルギーだけで賄えずに化石燃料を使用した場合、二酸化炭素の排出量を増やすため、気候変動を助長する可能性があります。対策には新技術の導入も必要です。
(関連するコラムとして、2025年10月20日記事もご覧ください)
空調設備が設置されたスタジアムのイメージ


2. 暑さにとどまらない、連鎖する「その他のリスク」
リスクは暑さだけにとどまりません。スポーツは、生態系が提供する「自然のインフラ」の上に成り立っています。例えば、豊かな植生はスタジアム周辺の温度調節を助け、土壌は豪雨時の排水機能を担ってきました。生物多様性が失われることは、こうした「天然の防波堤」を失うことを意味し、屋外競技の運営が脆弱化されてしまいます。
次に、激甚化する気象による「活動停止リスク」の増大です。猛暑によって大会開催を中断、短縮する判断をしなければならなくなっています。豪雨によっても試合中止が増えており、Jリーグの調査によれば2018年以降で4.7倍以上(2017年以前と比較)に増加していると伝えています。気候変動に伴う複数のショックが同時に発生することで、興行そのものが停止し、多大な経済的損失を招く「スポーツ経営の不安定化」が現実味を帯びています。


さらに、スタジアムの利便性を支えてきた人工芝がもたらす「汚染リスク」も無視できません。人工芝からは有害な化学物質(PFAS)やマイクロプラスチックが発生し、環境中へ流出する懸念が指摘されています。EU(欧州連合)では既に、スポーツ用人工芝の販売や使用に制限を設ける規則が発効しており、イベント運営における法的なリスク管理も急務となっています。
3. リスクへの対応策と機会
こうしたリスクに対して、スポーツ界はリスクを価値へと転換する取組みを始めています。
日本サッカー協会(JFA)は「JFA成長戦略2026-2031」において、初めて「サステナビリティ戦略」を策定しました。宮本恒靖会長は「サッカーを社会課題解決のインフラ」として活用する必要があると表明し、サッカーを起点とした行動変容の創出目標を数値で掲げるなど、野心的な姿勢を示しています。同戦略では、「環境」「人権」「健康」「教育」「地域」の5分野で取り組むとしています。
図表1 日本サッカー協会サステナビリティ戦略


出所:日本サッカー協会, “「JFA成長戦略2026-2031~サッカーで未来をつくる~」”
この戦略を具現化する国際的な枠組みとして注目されるのが、Jリーグも参画を決定している「Sport Positive Leagues(SPL)」です。SPLは、2018年に欧州サッカー連盟(UEFA)によって創設されたイニシアティブで、最大の特徴はクラブ単位でサステナビリティ活動データをスコアリングし、「順位表形式」で公表する点にあります。つまり、ピッチ上の勝敗だけでなく、環境への貢献度でもクラブ同士が競い合うのです。
具体的には、次にあげる12のサステナビリティ項目を評価指標として各クラブの気候アクションを数値化します。
- ポリシーとコミットメント、レポーティング
- 再生可能エネルギー
- エネルギー効率
- 環境負荷の少ない移動手段
- 使い捨てプラスチック削減・廃止
- ごみの削減管理
- 水の効率的な利用
- プラントベース・低炭素食品
- 生物多様性
- 教育
- コミュニケーション
- 持続可能な調達
この枠組みによって、サッカーを通じた行動変容が進むことを期待できます。
なお、海外のスポーツ団体は既に取組みを始めています。ラグビーの国際競技連盟World Rugbyは、2022年に「World Rugby Environmental Sustainability 2030」を公表し、優先テーマとして「気候変動へのアクション、循環型経済の促進、生物多様性の保全」を掲げています。循環経済と生物多様性の取組みも「環境」の一面で取り組むことが期待されます。
(詳しくは2026年2月2日発信のリサーチレターをご覧ください)
4. 企業が学ぶべきリスク管理と成長の視点
こうしたスポーツ界の動向から、企業は以下の3点を学ぶことができます。
第一に「マテリアリティ(重要課題)の特定と仕組み化」です。スポーツ組織がサステナビリティ課題(気候変動など)を経営戦略に組み込んだように、企業も自社の事業が環境に与える影響を特定し、既存の業務フローに統合することが自社の持続可能性を高める鍵となります。
第二に「ブランド価値の再定義」です。環境対策をコストではなく、自社の価値観を体現する「投資」として発信することで、自社を応援してくれるステークホルダー(投資家や顧客、取引先など)から選ばれることにつながります。
第三に「コミュニティを活用した行動変容」です。SPLのように、ステークホルダーが楽しみながら参加できる「仕組み」を構築することで、単独では解決困難な環境リスクを、協働で解決するビジネスモデルへと昇華させることが可能になります。


5. まとめ-サステナブル経営を核にしたアクションと挑戦を-
スポーツには、数億人のファンの行動や価値観を変えることができる、大きな影響力があります。当コラムではFIFAワールドカップ2026が直面する熱中症リスクから話題を拡げ、生物多様性の損失に伴う被害の激甚化、活動停止、汚染リスクについても取り上げてきました。これは、私たちが当たり前だと思っていた「安定した環境基盤、事業基盤」が、もはや当然ではないという現実を突きつけています。
しかし、これは同時に大きな希望でもあります。気候変動や生物多様性の損失という課題に正面から向き合い、解決のためのパートナーシップを築くことは、企業にとって未踏の成長市場を切り拓く絶好のチャンスです。サステナビリティを経営の核に据え、多くの人から支持されるアクション・挑戦をここから始めましょう。
【参考文献】
World Weather Attribution. 「Climate Change Big Player at FIFA World Cup 2026」(2026年5月14日)
日本サッカー協会、「「JFA成長戦略2026-2031」を策定 「サッカーで未来をつくる」をコンセプトに、全8領域の重点戦略で社会価値創出へ」(2026年5月8日)
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