グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026熊本 参加レポート|2030年に向けた最新議論を振り返る
2026.9.2
自然(生物多様性)の損失を止め、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」を目指す国際会議「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)」が、2026年7月14日から2日間にわたり、熊本市で開かれました。
ネイチャーポジティブの活動を支援しているMS&ADインターリスク総研もサミットに参加しましたので、その概要を報告します。
そもそもネイチャーポジティブとは?サミットではどのようなことが語られ、どんなことに注目が集まったのか?最前線の議論をお届けします。
流れ
- そもそもネイチャーポジティブとは?
- 熊本で開催されたグローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026
- ネイチャーポジティブの社会・経済的な意義とは?
- 多様なステークホルダーとの連携がネイチャーポジティブ実現の鍵
- データ共有と共通指標の整備がネイチャーポジティブを加速させる
- まとめ:ネイチャーポジティブは企業経営における重要課題に
そもそもネイチャーポジティブとは?
「ネイチャーポジティブ」とは、単に自然環境の破壊を防ぐだけでなく、失われた自然や生物多様性を積極的に回復し、より豊かな状態へと導くという新しい考え方です。これまでの環境保護は「これ以上悪くしない(ネイチャーネガティブ)」ことが主な目標でしたが、ネイチャーポジティブは「元に戻す」「さらに良くする」ことを目指しています。
この言葉が世界的に注目されるようになった背景には、地球規模で進む生物多様性の危機があります。国連の報告によると、現在、100万種もの動植物が絶滅の危機に瀕しており、その原因は、森林伐採や環境汚染といった人間活動が影響しているとされています。従来の“守るだけ”の対策ではこの流れを止めることができず、より積極的な「回復」や「再生」への転換が求められているのです。
熊本で開催されたグローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026
このネイチャーポジティブに向けて、27の国と地域から企業、金融機関、自治体、研究者、市民社会のリーダーが集まり、2026年7月14日と15日の2日間にわたって開かれた国際会議が「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026」です。


サミットは、2030年までに自然の損失を止め、回復へと転じるという目標を掲げ、2022年に196か国が合意した生物多様性枠組み(GBF)の実施を加速することに焦点を当てて開催されました。
今年2026年10月には、アルメニア・エレバンで国連生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)が開催されることもあり、ネイチャーポジティブの使命に貢献する民間の取り組みや成果を世界に向けて発信・共有することを目指しています。
ネイチャーポジティブの社会・経済的な意義とは?
サミットでは数々のパネルディスカッション、分科会、サイドイベントなどが行われましたが、その中から日本の企業の皆さまの参考になると感じた一部のパネルディスカッションの内容を紹介します。
はじめに紹介するのは、「ネイチャーポジティブの社会・経済的意義」と題されたパネルディスカッションで、以下の方々が登壇しました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| マーク・ゴフ 氏 ※モデレーター |
資本連合CEO |
| 大西 一史 氏 | 熊本市長 |
| 笠原 慶久 氏 | 肥後銀行 代表取締役頭取 |
| 舩曵 真一郎 氏 | MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス 取締役社長 グループCEO |
| 浅木 純 氏 | サントリーホールディングス 常務執行役員 サステナビリティ経営推進本部長 |
| グレーテル・アギラー 氏 | 国際自然保護連合(IUCN) 事務局長 |
IUCNのアギラー事務局長は、生物多様性の損失は人々のウェルビーイングや企業活動にも直結する課題であり、企業・行政・金融機関・研究機関など多様な主体が連携して取り組む必要があると強調しました。また、日本はTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応や里山の取り組みなど、世界をリードする存在として期待されていると言及しました。
また、熊本市の大西市長や、サントリーホールディングスの浅木氏、肥後銀行の笠原氏らからは大学、企業、金融機関の6組織が連携した「熊本ウォーターポジティブ・アクション」※1などの取り組みが紹介され、自然への投資はコストではなく、事業基盤の強化やブランド価値の向上につながる投資であるという考え方などが共有されました。
その上で登壇者からは、ネイチャーポジティブを社会に広げるためには、ルールづくりだけでなく、自然への投資を後押しするインセンティブや、多様な主体による連携を加速させることが重要であるとの認識が強調されました。
※1 熊本ウォーターポジティブ・アクションは、公立大学法人 熊本県立大学、 国立大学法人 熊本大学、 株式会社肥後銀行、サントリーホールディングス株式会社、 株式会社日本政策投資銀行、MS&ADインシュアランス グループホールディングス株式会社が協働して、2025年に始動。
多様なステークホルダーとの連携がネイチャーポジティブ実現の鍵
続いて紹介するのは「ネイチャーポジティブにおける企業の役割」と題したパネルディスカッションで、以下の方々が登壇しました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| パラヴィ・カリタ 氏 ※モデレーター |
ビジネス・フォー・ネイチャー アジア・リード |
| 北林 太郎 氏 | 農林中央金庫 代表理事 理事長 |
| 光吉 敏郎 氏 | 住友林業 代表取締役 社長 |
| 伊藤 順朗 氏 | セブン&アイ・ホールディングス 代表取締役 会長 |
| エスター・アン 氏 | シティ・デベロップメンツCSO |
| デイブ・ハリス 氏 | オーストラリア・アグリカルチャーカンパニー マネージングディレクター兼CEO |
ディスカッションの中で共通認識として示されたのは、ネイチャーポジティブは一部の環境部門だけが取り組むテーマではなく、企業経営やバリューチェーン全体で取り組むべき課題であるという点です。
この中で住友林業の光吉社長は、森林の保全に加えて木造建築を建てる際に出る廃材を木質バイオマスとして活用した発電やSAF(持続可能な航空燃料)の生産まで行う「ウッドサイクル」を紹介し、経済価値と自然資本を両立させるビジネスモデルを紹介しました。
また農林中央金庫の北林理事長も、農林水産業の加工・流通・販売から金融までを一つのエコシステムとして捉えることでバリューチェーンでの移行をサポートしていることや、森林由来のクレジット創出などを通じて自然の価値を経済価値へ転換する取り組みなどを紹介しました。
このほか、セブン&アイ・ホールディングスの伊藤会長は、小売業として消費者との接点を生かし社会の変化を目指していることや、持続可能な調達や地産地消などの取り組みを展開していることに触れ、生産者や取引先との協業の重要性を強調しました。
企業単独ではなく、多様なステークホルダーとの連携によってバリューチェーン全体を変えていくことが、ネイチャーポジティブ実現の鍵であることが示されたセッションでした。
データ共有と共通指標の整備がネイチャーポジティブを加速させる
最後に紹介するのは、「ネイチャーポジティブをどう測るか?」をテーマとしたパネルディスカッションで、以下の方々が登壇しました。
| 登壇者 | 所属・役職 |
|---|---|
| ギャビン・エドワーズ 氏 ※モデレーター |
ネイチャーポジティブ・イニシアティブ エグゼクティブディレクター |
| 大島 健太 氏 | キリンホールディングス CSV戦略部 部長 |
| 井阪 由紀 氏 | 積水ハウス 業務役員/環境推進部長 |
| ヤナ・ゲヴォルギャン 氏 | 地球観測に関する政府間会合(GEO)事務局 コンビーナー兼ディレクター |
| ジョー・ミラー 氏 | 地球規模生物多様性情報機構(GBIF) 事務局長 |
| グラジエレ・パレンチ 氏 | ヴァーレ サステナビリティ担当エグゼクティブヴァイスプレジデント |
この中では、ネイチャーポジティブを企業経営に組み込むために、いかに共通指標やデータ基盤を整備していくかが議論されました。
冒頭で、ネイチャーポジティブ・イニシアティブ(NPI)※2の取り組みについて、現在、世界共通の自然の状態フレームワークとして「自然の状態(State of Nature)」の指標(以下、SoN指標)開発が進められており、「生態系の範囲」「生態系の状態」「種の絶滅リスク」「種の個体総数」の4つの指標が盛り込まれる予定であること、世界の企業がパイロットプログラム に参加※3したことなどが紹介されました。
※2 自然保護団体、研究機関、企業、金融連合など27団体が参画しており、ネイチャーポジティブの定義を含め、ネイチャーポジティブの実現に向けて必要なツールとガイダンスを提供することを目的とした団体。
※3 日本企業ではキリンホールディングス、王子ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングスが参加。
企業側からは、キリンホールディングスの大島氏が、TNFDなどの枠組みを活用し、原料調達まで含めたバリューチェーン全体で自然関連のリスクと機会の把握を進めていることや、NPIのパイロットプログラムへの参加事例を紹介。
積水ハウスの井阪氏も、サプライチェーンでの影響評価に加え、「5本の樹」計画※4を通じて、自然へのポジティブな成果を定量的に評価する取り組みを紹介しました。
※4 「5本の樹」計画は、 “3本は鳥のため、2本は蝶のために、地域の在来樹種を” という思いを込め、 その地域の気候風土・鳥や蝶などと相性の良い在来樹種を中心とした植栽にこだわった庭づくり・まちづくりの提案(引用元:積水ハウスの「5本の樹」計画Webサイトより)
セッションの中では、ネイチャーポジティブの測定指標は、科学的な正確性だけでなく、企業のガバナンスやリスク管理、経営判断に活用できるシンプルさや比較可能性も重要であるとの考えが強調され、データ共有と共通指標の整備がネイチャーポジティブを加速させる鍵になるとの認識が共有されました。
まとめ:ネイチャーポジティブは企業経営における重要課題に
今回のサミットでは、ネイチャーポジティブの考え方を社会全体で実現するための具体的な議論が交わされました。
サミットを通じて、ネイチャーポジティブは単なる理念ではなく、企業の事業の継続性や、競争力を左右する経営アジェンダであることを体感しました。ネイチャーポジティブの実現に向けては、バリューチェーンや地域の各主体との連携による取り組みの実装や、共通の指標や手法による自然の状態やインパクトの可視化・定量化が特に重要です。
今後はTNFDやSoN指標などの国際的な枠組みの活用がいっそう進むとともに、企業においては、自然への依存・インパクト、リスク・機会を把握したうえで、それらを経営や事業戦略へ組み込むことが、これまで以上に求められていくことになると考えられます。
2030年のネイチャーポジティブ実現まで残された時間は多くありません。今回のサミットで示されたように、多様なステークホルダーによる連携と、科学的根拠に基づく取り組みを着実に積み重ねていくことが、その実現に向けた大きな一歩になると感じました。
MS&ADインターリスク総研では今回のグローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS)2026の会場でブースを出展し、企業の皆さまの自然関連課題への対応に資する、様々なサービスを紹介しました。
当社では、TNFDフレームワークなどを踏まえ、以下のような自然関連の支援メニューをご提供しています。
- TNFD対応全般の支援
- 優先地域の評価
- 事業特性に応じた依存・インパクトの評価
- シナリオ分析を含むリスク・機会評価
- 今後の取り組みや指標・目標設定方向性の検討、情報開示
- 拠点のリスクマネジメントに資する水リスクの詳細評価
- サステナビリティ推進による「価値創出プロセス」の可視化
- 製品を通じた地域水資源へのポジティブインパクトの定量的評価
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