大規模災害に備える運輸事業者の防災マネジメント -令和8年熊本地震への対応状況を踏まえて- 【交通リスク情報(2026年9月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- MS&ADインターリスク総研株式会社
- 所属部署
- リスクマネジメント第二部 運輸総合リスクマネジメントグループ
- 執筆者名
- 主任 石川 翔大
2026.9.3
- 2026年7月28日に、熊本県を中心としたマグニチュード7.1の地震が発生し、震度7を観測した。近年、地震・風水害・雪害、火山噴火等、全国的に自然災害が頻発化・激甚化しており、大規模災害発生時において運輸事業者が考慮すべき事項は多岐にわたっている。
- 国土交通省は、2020年7月に「運輸防災マネジメント指針」を策定し、2023年6月に改訂を行っている。同指針の解説には、大規模災害に備えて、運輸事業者が推進することが望まれる自然災害対応の取組事例が掲載されている。
- 本稿では、令和8年熊本地震の被害状況やこれまでの自然災害に対する運輸事業者・関係機関の取組状況を踏まえ、運輸事業者が進めるべき防災マネジメントの方向性を整理する。
1. 頻発化・激甚化する自然災害の発生状況について
(1)我が国における自然災害の発生状況
近年、我が国では、地震、台風、線状降水帯による豪雨、河川氾濫、土砂災害、豪雪、猛暑など、多様な自然災害が各地で発生している。直近5年間では、2021年10月に発生した千葉県北西部を震源とする地震や、2022年7月の桜島の火山活動(噴火)、同年9月に西日本で記録的な暴風雨を観測した台風第14号、2024年1月に発生した能登半島地震等が挙げられる。さらに、2026年7月には熊本県を中心としたエリアで地震が発生しており、これらの災害における発生頻度・種別を踏まえると、今後は単一の災害だけでなく、災害の連続発生などを見据えた複合的な災害への備えについても考慮していく必要がある。
内閣府が公表している防災白書によれば、我が国の年平均気温は、世界の平均気温よりも更に上昇の幅が大きくなっており、図1-1に示すように100年当たりで1.30℃上昇しており、国内で発生する災害に影響を与えていることがうかがえる。
【図1-1】 日本の年平均気温偏差の経年変化


(内閣府「令和5年版 防災白書特集1第2章第1節自然災害の激甚化・頻発化等」より抜粋)
豪雨等の水害においては、1970年代後半から多くの地点で観測を開始したアメダスによると、おおよそ50年間で、1時間降水量80mm以上の短時間強雨の年間発生回数が、増加していることが明らかとなっている(図1-2)。
【図1-2】 1時間降水量80mm以上の年間発生回数(日数)の経年変化(1976~2022年)


(内閣府「令和5年版 防災白書特集1第2章第1節自然災害の激甚化・頻発化等」より抜粋)
また、国土交通省が公表する水害統計調査によると2020年から2024年までの水害被害額※1は、単年別にみると増加傾向であり、今後も頻発化・激甚化する豪雨災害等の影響により被害額が増加する可能性がある(図1-3)。
【図1-3】2020年~2024年における全国の水害被害額※1


(国土交通省「1年間の水害被害額」を基にMS&ADインターリスク総研作成)
※1 水害被害額には、風害による被害、人的損失、交通機関の運休などによる波及被害、被災した企業の部品・製品供給機能、本社機能等が損なわれることによる他地域の企業への影響等に係るものは含まれていない。また、一般資産については被害額そのものを聞き取った結果ではない。なお、四捨五入の関係で、内訳の合計と水害被害額が一致しない場合がある。
また、地震においては、東京都が2022年5月に公表した「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」によると、都心南部(南関東地域)でマグニチュード7クラスの地震が、今後30年以内に70%の確率で発生すると予測されており、南海トラフ巨大地震については、マグニチュード8~9クラスの地震が、今後30年以内に70~80%の確率で発生すると予測されている。
国土交通省が公表する国土交通白書からは、2025年3月末に公表された南海トラフ巨大地震の被害想定では、人的被害(死者)が最大約29.8万人、資産等の直接被害が約224.9兆円、生産・サービス低下による被害を含めた場合の被害額が約270.3兆円と推計されている(表1-1)。
【表1-1】大規模地震による被害想定


(国土交通省「令和8年度国土交通白書」より抜粋)
ただし、今後、上述の自然災害のみならず、想定外の大規模災害が発生する可能性も考えられ、不断の準備が必要となる。特に、運輸事業者にとっては、自社施設や車両、船舶、鉄道車両等への物理的な損害をはじめとして、以下のような多様な影響を考慮する必要がある。
【大規模災害発生時において運輸事業者が主に考慮すべき事項】
- 機材(車両、船舶含む)の水没
- 車庫敷地の冠水
- 営業所施設の電源喪失
- 乗務員などの出勤困難、安否確認の遅れ
- 荷主・取引先・協力会社の被災による物流網の寸断
- 避難所・医療機関・小売店舗などへの緊急物資輸送ニーズの急増
- 配送遅延、輸送ルートの変更
さらには、今後自然災害は、一種だけでなく複数の種類の災害が重なって発生する可能性もあり、様々な状況に対応できるよう必要な準備を進めていくことが求められる。したがって、国内の旅客・物資の輸送を担う運輸事業者においては、「災害が発生してから対応する」ことだけでなく、平時からの防災マネジメントに取り組んでいかなければならない。
(2)令和8年熊本地震の被害状況
ここで、令和8年熊本地震についての地震概要・被害状況について国土交通省の「令和8年熊本地震による被害状況等について(第46報)」をもとに整理する。
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令和8年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生した。震源の深さは16km(暫定値)、地震の規模はマグニチュード7.1(暫定値)で、熊本県宇城市、氷川町で震度7を観測したほか、熊本市、八代市、宇土市、美里町、益城町、嘉島町で震度6強を観測した。津波注意報は有明・八代海に発表され、7月28日18時10分に解除された。なお、令和8年8月25日時点で最大震度7の地震以降も震度3以上の地震が99回発生しており、余震活動が継続している。
貨物輸送では、倉庫や物流施設を中心に被害が生じた。熊本県内の倉庫事業者では51社で被害が確認され、壁の剥落や貨物の落下、シャッターの損傷などが見られた。また、トラック事業者でも事務所や車庫の損壊が広がり、宅配便でも一部地域で集配遅延が発生するなど、物流網全体に影響が及んだ。これに対し、国土交通省は支援物資輸送や災害対応に必要な特例措置を講じた。鉄道では、九州新幹線や在来線で構造物・軌道の変状が多数確認され、運転見合わせや運休が発生しているが、バスによる代替輸送を実施している。バスでは、高速バス路線3路線、路線バス11路線で運休となり、現在も運休が継続している。海運では、フェリー事業者の船舶の船体損傷といった被害が発生し、航空では熊本空港が一時閉鎖され、発災当日は29便、翌29日も14便が欠航したが、現在は地震を起因とする欠航はない。また、自動車交通網では、高速道路や国道、県道などで通行止めが生じ、橋梁損傷や落石などにより広域的な交通規制が実施された。
なお、同地域では、約10年前の2016年にも大規模な地震が発生している。今回と前回の地震における規模や被害、再開・復旧状況などを比較するため、それぞれ発災から約1カ月後に公表された速報資料から影響を整理した(表1-2)。地震規模や人的被害、建物被害については、前回の方が大きく、特に建物被害のうち半壊棟数は、今回よりも前回の方が約2倍多い。一方で、高速道路や新幹線、高速バスの再開・復旧状況においては、今回の方がやや遅れており、特に、鉄道のうち新幹線では、前回は発災から13日目に再開しているが、今回は発災から約1カ月たった現在も一部運行見合わせが継続している状況であるため、今後も再開・復旧に向けた対応を継続する必要がある。もちろん、震源地は完全に同一ではなく、その他当時の環境・条件と異なる点は数多くあるが、同一地域において大規模災害が繰り返す可能性があることが改めて示唆された結果であり、過去を教訓にした「適切な備え」が重要となる。
【表1-2】熊本県で発生した二度の大規模地震における地震被害等比較


※発災から約1カ月後(前回:2016年5月15日、今回:2026年8月25日)時点で公表された速報的な資料を参照
(内閣府 「令和8年熊本地震に係る被害状況等について」等を基にMS&ADインターリスク総研作成)
2. 運輸防災マネジメント指針の概説
(1)運輸防災マネジメント指針の位置付けと目的
国土交通省は、激甚災害が頻発している昨今の状況に鑑み、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト ~いのちとくらしをまもる防災減災~」における「5.交通・物流の機能確保のための事前対策」の中の「交通運輸事業者の防災マネジメントの推進」を実施するため、2020年7月に「運輸防災マネジメント指針(以下、防災指針)」を策定・公表した。その後、運輸事業者の取組状況等を踏まえ、2023年6月に同指針を改訂している。なお、同指針の目的は、運輸事業者の自然災害への状況に応じた的確で柔軟な対応力の向上を図り、自然災害への対応について輸送の安全確保を図るものであり、防災の取組強化を促進する位置づけにある。
また、防災指針の上位概念にあたる「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン(以下、ガイドライン)」では、『経営トップ』が主体的かつ積極的に関与し、強いリーダーシップを発揮することが極めて重要とされており、最初の項番にあたる「(1)経営トップの責務」の中に、2017年の改訂から『自然災害への対応』が明記されている。
さらに、近年の自然災害の頻発化・激甚化を受けて、2023年3月に「安全管理規程に係る報告徴収又は立入検査の実施(運輸安全マネジメント評価)に係る基本的な方針」が改正され、自然災害も輸送の安全を脅かす要因として捉え、防災・減災に向けた取組についても、継続的改善(PDCAサイクル)に繋げることの重要性が明記されており、『安全輸送』に加え『安定輸送』についても適切に対応することが求められている(図2-1)。
【図2-1】 ガイドラインの「改訂にあたって(2023年6月)」


(国土交通省「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン」より抜粋)
なお、運輸防災マネジメント指針を詳細に分かりやすく解説することで、更なる理解を促し、運輸事業者における運輸防災マネジメントの構築の一助となることを目的として「運輸防災マネジメント指針の解説(以下、解説)」を策定している。
(2)防災指針が示す運輸防災マネジメントの要点
①自然災害対応の体制
まず、基本的な方針として運輸事業者に求められる自然災害対応では、「防災」と「事業継続」の2つが取組の柱になる。「防災」は、防災指針に記載の通り、利用者・荷主、運輸企業の社員、地方公営企業 や関係団体の職員の安全確保(人的被害の軽減)並びに建築物・設備・車両等の物的被 害の軽減が目的になり、「事業継続」は、災害発生時の安全の確認を行った上での業務活動の維持や早期回復を目指すことが目的となる。
【図2-2】運輸防災マネジメントの基本的な方針の概念図


この方針に則り、運輸事業者では非常時には、経営トップを本部長とする災害対策本部を設置する必要がある。また、平時には、経営トップおよび安全統括管理者の下、関係部署が連携し、事前の「備え」を分担して取り組む体制が求められる。
また、上記の体制構築に加えて、自然災害への事前の「備え」として主に以下の二つの取組が重要である。一つ目は、自然災害リスク評価である。防災、事業継続の目的のためには、被災・事業の継続が困難となる可能性がある自然災害の種類・規模の被害想定を行い、想定に応じた備えを図る必要がある。二つ目は、自然災害に対応するための事前準備である。特に重要な取組として「計画的装備」、「緊急連絡網の整備」、「防災マニュアルの整備」、「事業継続計画の策定」、「タイムラインの作成」が挙げられる。また、図2-3に例示するように「タイムラインの作成」は、時間軸に沿った行動を整理する際に有用である。
【図2-3】道事業者における防災行動計画(タイムライン)の例示


(運輸安全マネジメント普及・啓発推進協議会「防災マネジメントセミナー」より抜粋)
②防災力を高める連携と情報発信
ガイドラインでは、事業者内部および取引先や旅客、荷主等との情報伝達およびコミュニケーションを重視している。なお、自然災害対応においては、上記に加え、地方自治体、国の行政機関、他の運輸事業者との連携関係を構築することが重要とされており、平時よりこれら関係機関と「顔の見える関係」を築くことを意識しなければならない(図2-4)。すなわち、平時の会議、訓練、協定、地域防災活動等を通じて、相互理解を深めておくことが望まれる。
【図2-4】防災マネジメントにおける「顔の見える関係」のイメージ


(国土交通省「運輸防災セミナー(上期)「運輸防災マネジメントについて」」より抜粋)
③教育と訓練
自然災害対応の実効性向上には、「本社中心の企画立案要員」と「現業実施部門要員」を分けて教育・訓練計画を構築することが重要である。企画立案要員は、「防災マニュアル・手順書の確認」、「訓練」、「防災マニュアル・手順書の見直し」等を実施する必要がある。他方、現業実施部門では、簡潔で実践的なマニュアル整備に加え、人命最優先の行動原則を徹底し、日常業務と親和性の高い役割分担を行うことが有効である。加えて、経営トップ参加型訓練の実施、自治体・行政・他事業者との合同演習の企画、訓練直後のレビューを通じた改善が求められる。また、他社事例や過去災害の教訓を継続的に取り込むことが、運輸事業者の防災対応力強化の鍵となる。
④災害予防から応急・復旧までの留意点
災害予防としては、予測困難な地震や火山噴火から、一定程度予測可能な台風・集中豪雨等の風水害など自然災害の種別によって、実施すべき対応も異なる。近年、特に運輸事業に影響した災害としては、「地震」、「風水害」、「雪害」、「火山噴火」が挙げられ、それらの災害に対して被害を想定し対策を検討する必要がある。その際は、ハード、ソフトの両面での代替性の確保を意識することが重要である。ハード面では、多様なリスクに対して、組織の機能を維持できる業務拠点をあらかじめ設定・準備することが望まれる。一方、ソフト面では、従業員の移動手段の確保や代替輸送に関する協定の締結等が検討し得る。
防災指針の解説には、以上の4つのポイントをはじめとして運輸事業者が行うべき取組事例が、数多く公開されている。これらの取組は、「平時の準備」、「直前の準備(台風・豪雨等の予測可能な場合)」、「直後の応急(初動)」、「復旧(事業継続)」と段階別に整理することができる(表2-1)。運輸防災マネジメントにおいては、対応手順を定めるだけでなく、平時から災害発生後の復旧までの各段階に対し、組織全体で自然災害対応力を強化することが求められている。
【表2-1】防災指針における取り組み事例(自然災害への対応段階別)


※複数の段階にわたって実施する取組有り
(国土交通省「運輸防災マネジメント指針の解説」を基に代表的な取組をMS&ADインターリスク総研作成)
3. 令和8年熊本地震で生じた物流に関する課題と運輸防災マネジメント
第1章(2)「令和8年熊本地震の被害状況」で示したとおり、令和8年熊本地震では、物流・流通・交通の広範な領域で被害および機能低下が発生した。以下では、各分野の被害状況を踏まえ、対応すべき課題とその対策の方向性について論じる。
(1)令和8年熊本地震による物流に関する被害状況
貨物輸送では、宅配便や郵便物の引き受け停止、配達遅延、営業所での荷受け制限が発生した。被災県内向け、あるいは被災地を発着する貨物の受付が止まり、幹線輸送からラストワンマイルまで広く支障が生じた。平時に前提とされる定時配送が困難となったことに加えて、物資に関する需要と物流による供給の乖離が生じた。ここから、「安全な配送ルートの確保」と「荷主との調整」の重要性が改めて浮き彫りになった。
旅客輸送では、鉄道、路面電車、バス、航空機関連の運行(運航)見合わせが相次いだ。また、機材の安全点検を行うことにより、移動手段が一時的に制約された。旅客輸送は、災害時には地域内外を往来するための重要なインフラとなるため、「運行(運航)を継続できる体制の確保」と「早期に運行再開ができる体制構築」が課題となる。
自動車交通網では、高速道路を中心に複数区間で通行止めが発生し、一般道路でも安全確認や損傷点検に伴う交通障害が生じた。道路のネットワーク機能の低下は、救援物資輸送をはじめとして、貨物輸送、旅客輸送に関する全ての運輸事業の障害に直結する。そのため、「通行可否やう回路情報の発信」と「道路復旧と交通需要の調整計画の検討」が課題となる。
その他災害に関連する被害では、熱中症が疑われる災害関連死が確認された。夏季の発災では、被災者だけでなく、配送・荷役・復旧作業に従事する運輸事業者の乗務員、倉庫作業員、営業所従業員等も同様のリスクに直面している。そのため、水分・塩分補給、休憩場所の確保、空調設備の確保、作業継続時間の見直しなど、熱中症対策を防災計画に組み込む必要がある。
(2)近年の自然災害から見えた課題と運輸事業者による運輸防災マネジメントへの取組状況
令和8年熊本地震で顕在化した課題の中には、今回の事例に固有のものではなく、近年の地震、豪雨、台風、大雪等の自然災害においても繰り返し確認されてきた課題がある。国土交通省が公表している「自然災害対応への取組事例一覧」や運輸防災マネジメントの関連資料等では、運輸事業者が災害対応力を高めるための具体的な事例が掲載されている。
貨物輸送で顕在化した「安全な配送ルートの確保」という課題に対しては、セールスドライバーからの報告事項や自治体の対策に基づき、災害発生箇所の運行経路の継続若しくは中止の判断や別の運行経路の選定等を行い、安全な配達ルートを確保する取組事例が掲載されている。また、「荷主との調整」という課題に対しては、過去の台風接近時、運行中のトラックが強風に煽られ転覆(横転)した事故事例の振り返りに基づき、平時から荷主と打ち合わせを行い、荷主の理解も得ながら、異常気象の際には運行の中止等を検討することにより、安全を最優先した運行計画を策定する取組事例が掲載されている。
次に、旅客輸送で顕在化した「運行(運航)を継続できる体制の確保」という課題に対しては、燃料不足による欠便の発生防止を目的とした自然災害発生時における燃料補充ルートの見直し事例が掲載されている。また、「早期に運行再開ができる体制構築」という課題に対しては、事務所が倒壊等により運行管理ができなくなった際に、バスの運行を継続するために必要な機能を装備している災害対応車両の導入事例が掲載されている(図3-1)。
【図3-1】災害対応車両の導入事例


(国土交通省「運輸防災セミナー(上期)「運輸防災マネジメントについて」」より抜粋)
自動車交通網から顕在化した「通行可否やう回路情報の発信」という課題に対しては、車両のプローブデータを活用した通行実績情報地図が公的機関や大手自動車会社から公開されている(図3-2)。なお、損害保険会社も「通行可能な道路」等を可視化したマップを公開しており、様々なチャネルを通じて最新情報を収集・活用することが望まれる。
【図3-2】国土交通省 通れるマップの作成事例


(国土交通省「災害時の通行可能な道路の確保と情報の取扱」より抜粋)
また、「道路復旧と交通需要の調整計画の検討」という課題に対しては、国土交通省が主導して、地元を中心とした各建設協会や日本建設業連合会の応援を受け、発災直後から道路の緊急復旧に着手している。また、大学教授等の有識者による災害時交通マネジメント検討会を設置し、う回路情報の発信や交通状況の把握・渋滞に関するボトルネック箇所の分析が行われている。
(3)新たに見えた課題と今後発生しうるリスク
令和8年熊本地震では、地震そのものによる被害に加え、季節要因を踏まえた災害対応の重要性が改めて示された。特に夏季の災害では、猛暑下での避難生活や屋外作業、車両待機に伴い、熱中症リスクの高まりが懸念される。
一方、2024年1月に発生した能登半島地震では、冬季の発災により、低体温症をはじめとする寒冷期特有の健康被害リスクが顕在化した。また、同年9月には、同地域において河川の計画規模を上回る観測史上1位の降雨が発生し、国土交通省が公表した「能登半島での地震・大雨を踏まえた水害・土砂災害対策のあり方について(提言)」によると「地震の発生後に大雨が降るなど、先発の自然災害の影響が残っている状態で、後発の自然災害が発生することで、単発の災害に比べて被害が拡大する複合災害は、能登半島特有なものではなく、全国で同様に発生する可能性がある。」と今後全国的に発生しうるリスクに言及している。
また、直近の自然災害でも、2026年(令和8年)8月には千葉県や石川県・富山県を中心とした豪雨が発生し、道路の排水能力を超える冠水や河川の氾濫などにより、人的被害および建物被害が生じている。これは、令和8年熊本地震の発災から1か月以内に発生した事象になるが、発生地域が近い場合、複合災害となる可能性があった。
以上のように、猛暑期や寒冷期の自然災害については、種別の異なる他の災害が連続して発生する「複合災害リスク」による影響も視野に入れて、防災計画を検討しておく必要があると考えられる。運輸事業者においては、乗務員、倉庫作業員、営業所従業員等の業務種別に応じたリスクを踏まえ、物資の確保、施設の整備等を考慮していかなければならない。
4. 大規模災害時に求められる運輸事業者の役割と取組
前章までに、我が国における自然災害の頻発・激甚化の状況や、防災指針の考え方、さらに令和8年熊本地震において顕在化した物流・交通面の課題について整理した。これらを踏まえ、以下では、大規模災害時に運輸事業者に求められる役割と、今後の防災対策の方向性について改めて検討する。
(1)大規模災害時に求められる役割
大規模な自然災害への対応として、運輸事業者は、「防災」と「事業継続」の2つの柱をもとに防災マネジメントを実施し、発災時においての被害軽減・拡大防止を図るとともに、業務活動の維持や早期回復を図ることが期待されている。
また、運輸事業者のみならず、国、地方自治体、道路管理者、業界団体、荷主、地域住民等が、相互に連携することが重要である。発災時には、この相互連携が大きな力を発揮するが、それぞれの役割・連携を実効性あるものとするためには、平時からの「顔の見える関係」の構築が求められる。さらに、2026年度には、徹底した事前防災、発災時から復旧・復興までの一貫した災害対応の司令塔となる組織として防災庁が設置予定であることから、今後、運輸事業者としては、同庁から提供される最新情報を逐次取得・確認していく必要がある。
(2)各自然災害および複合災害によるリスクと対策の方向性
能登半島地震や令和8年熊本地震の事例からは、災害対応においては災害種別のみならず、発災した季節や気象条件を踏まえた備えが不可欠であることが示された。とりわけ、猛暑期・寒冷期における避難環境の確保や、地震と豪雨等の複合災害を想定した体制の整備など、発災時期を考慮できる柔軟性のある防災計画の検討が求められる。さらに、運輸安全マネジメントで重視される継続的改善の考え方を適用し、PDCAサイクルに基づく不断の見直しと改善を進めることが肝要となる。
また、熊本県では2016年と2026年に大規模地震が発生しており、現地の運輸事業者においては、過去の被災経験や防災指針を踏まえた自然災害への対応が進められている。今後も、全国において、防災指針や各種解説、取組事例、過去の教訓を活用しつつ、運輸事業者に求められる取組をできるところから計画的に推進していくことが重要である。
【参考文献】
- 1) 内閣府「令和5年版 防災白書 特集1 第2章 第1節 自然災害の激甚化・頻発化等」
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r05/honbun/t1_2s_01_00.html - 2) 国土交通省「1年間の水害被害額」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001972760.pdf - 3) 東京都「首都直下地震等による東京の被害想定 報告書」
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/021/571/20220525/n/001.pdf - 4) 国土交通省「令和8年度国土交通白書」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r07/hakusho/r08/pdf/kokudo.pdf - 5)国土交通省「令和8年熊本地震による被害状況等について(第49報)」
https://www.mlit.go.jp/common/002018187.pdf - 6) 内閣府「平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震に係る被害状況等について」
https://www.bousai.go.jp/updates/h280414jishin/pdf/h280414jishin_24.pdf - 7) 内閣府「令和8年熊本地震に係る被害状況等について」
https://www.bousai.go.jp/updates/r8kumamoto_jishin/status/pdf/r8kumamoto_jishin_20260825.pdf - 8) 国土交通省「熊本県熊本地方を震源とする地震について(第36報)」
https://www.mlit.go.jp/common/001131532.pdf - 9) 国土交通省「令和8年熊本地震による被災状況(道路)」
https://www.mlit.go.jp/road/content/002014480.pdf - 10) 国土交通省「平成28年(2016年)熊本地震による被災及び復旧状況について」
https://www.mlit.go.jp/common/001129766.pdf - 11) 国土交通省「運輸防災マネジメント指針」
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/content/001625852.pdf - 12) 国土交通省「運輸防災マネジメント指針の解説」
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/content/001625854.pdf - 13) 国土交通省「運輸防災マネジメントについて(運輸防災セミナー)」
https://wwwtb.mlit.go.jp/chugoku/content/000375291.pdf - 14) 国土交通省「自然災害対応の取組事例一覧(自動車モード:国交省HP 取り組み事例No.138)
https://www.mlit.go.jp/common/001202587.pdf - 15) 国土交通省「自然災害対応の取組事例一覧(自動車モード:国交省HP 取り組み事例No.185)「台風接近時の強風によるトラック横転事故を教訓に、荷主の理解を得た安全運行を」」
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/content/torikumi_jirei185.pdf - 16) 国土交通省「自然災害対応の取組事例一覧(自動車モード:国交省HP 取り組み事例No.210)「燃料備蓄のための供給ルートの見直し・強化」」
https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/content/torikumi_jirei210.pdf - 17) 国土交通省「災害時の通行可能な道路の確保と情報の取り扱い」
https://www.mlit.go.jp/common/001152388.pdf - 18) ITmedia NEWS「熊本「通れた道」マップ、トヨタが公開 ホンダも「通行実績情報マップ」」
https://www.itmedia.co.jp/news/article/2607/29/2000000258/ - 19) 国土交通省「令和6年能登半島地震 緊急復旧(道路啓開)の状況」
https://www.mlit.go.jp/road/road_fr4_000151.html - 20) 第3回熊本県災害時交通マネジメント検討会(令和8年熊本地震)の開催結果について
https://www.qsr.mlit.go.jp/content/000002674.pdf - 21) 日本経済新聞「厳しさ増す寒冷地避難、低体温症リスクも 能登半島地震」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE046O20U4A100C2000000/?msockid=04ba26db882f60832dae3164891e611c - 22) 石川県「令和6年能登半島地震・奥能登豪雨災害からの復旧・復興に向けた取組」
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/wajimanourin/documents/okunotonourin.pdf - 23) 内閣府「令和8年8月千葉豪雨による被害状況等について」
https://www.bousai.go.jp/updates/r8chiba_ooame/pdf/260823_1000.pdf - 24) 国土交通省「能登半島での地震・大雨を踏まえた水害・土砂災害対策のあり方について」
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/kentoukai/noto_kentoukai/teigen/honbun.pdf
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