レポート/資料

大規模災害に備える運輸事業者の防災マネジメント -令和8年熊本地震への対応状況を踏まえて- 【交通リスク情報(2026年9月)】

[このレポートを書いたコンサルタント]

会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
所属部署
リスクマネジメント第二部 運輸総合リスクマネジメントグループ
執筆者名
主任 石川 翔大

2026.9.3

要旨
  • 2026年7月28日に、熊本県を中心としたマグニチュード7.1の地震が発生し、震度7を観測した。近年、地震・風水害・雪害、火山噴火等、全国的に自然災害が頻発化・激甚化しており、大規模災害発生時において運輸事業者が考慮すべき事項は多岐にわたっている。
  • 国土交通省は、2020年7月に「運輸防災マネジメント指針」を策定し、2023年6月に改訂を行っている。同指針の解説には、大規模災害に備えて、運輸事業者が推進することが望まれる自然災害対応の取組事例が掲載されている。
  • 本稿では、令和8年熊本地震の被害状況やこれまでの自然災害に対する運輸事業者・関係機関の取組状況を踏まえ、運輸事業者が進めるべき防災マネジメントの方向性を整理する。

1. 頻発化・激甚化する自然災害の発生状況について

(1)我が国における自然災害の発生状況

近年、我が国では、地震、台風、線状降水帯による豪雨、河川氾濫、土砂災害、豪雪、猛暑など、多様な自然災害が各地で発生している。直近5年間では、2021年10月に発生した千葉県北西部を震源とする地震や、2022年7月の桜島の火山活動(噴火)、同年9月に西日本で記録的な暴風雨を観測した台風第14号、2024年1月に発生した能登半島地震等が挙げられる。さらに、2026年7月には熊本県を中心としたエリアで地震が発生しており、これらの災害における発生頻度・種別を踏まえると、今後は単一の災害だけでなく、災害の連続発生などを見据えた複合的な災害への備えについても考慮していく必要がある。

内閣府が公表している防災白書によれば、我が国の年平均気温は、世界の平均気温よりも更に上昇の幅が大きくなっており、図1-1に示すように100年当たりで1.30℃上昇しており、国内で発生する災害に影響を与えていることがうかがえる。

【図1-1】 日本の年平均気温偏差の経年変化

(内閣府「令和5年版 防災白書特集1第2章第1節自然災害の激甚化・頻発化等」より抜粋)

豪雨等の水害においては、1970年代後半から多くの地点で観測を開始したアメダスによると、おおよそ50年間で、1時間降水量80mm以上の短時間強雨の年間発生回数が、増加していることが明らかとなっている(図1-2)。

【図1-2】 1時間降水量80mm以上の年間発生回数(日数)の経年変化(1976~2022年)

(内閣府「令和5年版 防災白書特集1第2章第1節自然災害の激甚化・頻発化等」より抜粋)

また、国土交通省が公表する水害統計調査によると2020年から2024年までの水害被害額※1は、単年別にみると増加傾向であり、今後も頻発化・激甚化する豪雨災害等の影響により被害額が増加する可能性がある(図1-3)。

【図1-3】2020年~2024年における全国の水害被害額※1

(国土交通省「1年間の水害被害額」を基にMS&ADインターリスク総研作成)

※1 水害被害額には、風害による被害、人的損失、交通機関の運休などによる波及被害、被災した企業の部品・製品供給機能、本社機能等が損なわれることによる他地域の企業への影響等に係るものは含まれていない。また、一般資産については被害額そのものを聞き取った結果ではない。なお、四捨五入の関係で、内訳の合計と水害被害額が一致しない場合がある。

また、地震においては、東京都が2022年5月に公表した「首都直下地震等による東京の被害想定報告書」によると、都心南部(南関東地域)でマグニチュード7クラスの地震が、今後30年以内に70%の確率で発生すると予測されており、南海トラフ巨大地震については、マグニチュード8~9クラスの地震が、今後30年以内に70~80%の確率で発生すると予測されている。

国土交通省が公表する国土交通白書からは、2025年3月末に公表された南海トラフ巨大地震の被害想定では、人的被害(死者)が最大約29.8万人、資産等の直接被害が約224.9兆円、生産・サービス低下による被害を含めた場合の被害額が約270.3兆円と推計されている(表1-1)。

【表1-1】大規模地震による被害想定

(国土交通省「令和8年度国土交通白書」より抜粋)

ただし、今後、上述の自然災害のみならず、想定外の大規模災害が発生する可能性も考えられ、不断の準備が必要となる。特に、運輸事業者にとっては、自社施設や車両、船舶、鉄道車両等への物理的な損害をはじめとして、以下のような多様な影響を考慮する必要がある。

【大規模災害発生時において運輸事業者が主に考慮すべき事項】

  • 機材(車両、船舶含む)の水没
  • 車庫敷地の冠水
  • 営業所施設の電源喪失
  • 乗務員などの出勤困難、安否確認の遅れ
  • 荷主・取引先・協力会社の被災による物流網の寸断
  • 避難所・医療機関・小売店舗などへの緊急物資輸送ニーズの急増
  • 配送遅延、輸送ルートの変更

さらには、今後自然災害は、一種だけでなく複数の種類の災害が重なって発生する可能性もあり、様々な状況に対応できるよう必要な準備を進めていくことが求められる。したがって、国内の旅客・物資の輸送を担う運輸事業者においては、「災害が発生してから対応する」ことだけでなく、平時からの防災マネジメントに取り組んでいかなければならない。

(2)令和8年熊本地震の被害状況

ここで、令和8年熊本地震についての地震概要・被害状況について国土交通省の「令和8年熊本地震による被害状況等について(第46報)」をもとに整理する。

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