緊急遮断弁による地震時の爆発リスク低減について
[このコラムを書いたコンサルタント]

- 専門領域
- 火災工学、リスクサーベイ、
火災安全コンサルティング - 所属
- リスクマネジメント第一部
リスクエンジニアリング第一グループ - 執筆者名
- グループ長 田中 大貴 Hiroki Tanaka
2026.9.14
2026年7月に発生した令和8年熊本地震では、多くの報道機関で取り上げられているとおり、大型商業施設で地震後に爆発事故が発生した。過去に日本で地震後に発生した火災・爆発災害において、これほど大規模な爆発事故の事例はなく、また商業施設で発生したという点も特異な事例であった。2026年8月5日時点で、爆発の原因については、地震によりLPガス配管が損傷してガス漏えいが起こり、滞留したLPガスに着火した可能性があると経済産業省から報告されているが、詳細は判明していない。今後、詳細は徐々に明らかになると考えられるが、損害保険会社のリスク改善に関わるアドバイス業務の一環として、多種多様な業種の企業を訪問し、建物や設備の火災・爆発リスクを評価している立場から、今回の地震での事故がガス爆発であったことを前提に、今回のようなガス爆発を防止するために、また事故の規模を小さくするには何が必要であったか、という点で考察する。
まず、ガス爆発を防ぐには、ガスの漏えいを防ぐことが最重要である。今回の漏えいについては、ガスの供給配管が地震の揺れ、もしくは何らかの理由により直接損傷した可能性が指摘されている。おそらく配管が損傷した理由として、ガス配管に十分な可撓性(かとうせい)がなく地震動に耐えられなかったこと、天井から吊られたガス配管が脱落したこと、地震の揺れによってガス配管がコンクリートの壁やほかの金属機器などと接触して損傷したことなどが想定される。しかし、これらの事象に対して建物管理者や利用者が防護対策を施すことは、技術的な知見を要するため非常に難しいと考えられる。
したがって、次の被害低減策として、一定量の配管からの漏えいを許容したうえで、爆発を発生させない、または爆発が発生しても小規模にとどめる対策を施すことが現実的であろう。具体的には、漏えい量をできる限り制限し、漏えいしたガスを滞留させないようにする方法が現実的ではないかと考える。その点において最も重要な役割を果たすのが、ガスの緊急遮断弁(緊急時にガス供給を停止する弁)であり、複数の遮断弁を閉止することでガス漏えい量を最小限にすることが重要と考える。しかし、現在の国内法令において、すべてのガス供給設備に対してガスの緊急遮断弁を設置する義務があるわけではなく、また緊急遮断弁が必ずしも地震と連動してガス供給を停止させる機能を有しているわけでもない。また、緊急遮断弁が設置されている場合でも、ガスの供給源付近(都市ガスガバナやLPタンク付近など)にのみ設置されていることが多く、建物間や建物内の配管途中に緊急遮断弁が設置されている例は非常に少ない。今回罹災した商業施設のように広範囲でガスを使用している建物であれば、複数の緊急遮断弁により区画を分けて運用することが望ましいといえる。
本稿の読者には、ガスを大量に使用する工場や商業施設を運営している企業も含まれる。該当する建物を管理している場合、ガスの緊急遮断弁の有無に加えて、地震時に感震器などと連動して緊急遮断弁を閉止する機構になっているか、緊急遮断弁が構内または建物内で複数設置されているか、そして緊急遮断弁の動作確認を定期的に実施しているかを確認することが重要である。これらに対応していない場合には計画的に改善することによって、今回のような爆発事故を回避するよう努めていただきたい。
(2026年9月3日三友新聞掲載弊社コラム記事を転載)