レポート/資料

運輸安全マネジメント制度 導入20年の成果と課題【RMFOCUS 第99号】

[このレポートを書いたコンサルタント]

川瀬 翠
会社名
MS&ADインターリスク総研株式会社
部署名
リスクマネジメント第二部
運輸総合リスクマネジメントグループ
執筆者名
主任コンサルタント 川瀬 翠

2026.10.2

要旨
  • 2006年に「運輸安全マネジメント制度」が導入されてから、2026年10月で20年となる。様々な変遷を経て、対象範囲や取組範囲が拡大されている。
  • 運輸安全マネジメント制度によって、運輸事業者における安全意識の向上や、浸透・定着に進展がみられる一方、ガイドラインの一部の項目では実行に一定の難度が確認されており、組織のリソース不足への対処が今後の課題となる。
  • 今日的課題を踏まえ、運輸安全マネジメントにおいては、今後も社会情勢の変化や事業者の実態に即した見直しが求められる。
  • 課題の克服や輸送の安全性の更なる向上のために、運輸事業者や国土交通省だけではなく、他業種の機関も巻き込んだ包括的なネットワークの構築・強化をこれまで以上に進めていくことが重要である。

1.運輸安全マネジメント制度の変遷

(1)制度創設の背景と制度概要

2006年10月に輸送の安全性の更なる向上を目的として「運輸安全マネジメント制度」が導入されてから2026年で20年となる。

「運輸安全マネジメント制度」とは、保安監査と合わせ、いわば車の両輪として実施することにより、輸送の安全確保に係る取り組みを活性化させ、より一層の安全性の向上を図ることを目指す制度である※1。同制度では、事業者は、経営トップのリーダーシップの下、現場を含む組織が一丸となって安全管理体制を構築・改善していくことが求められている。一方、国土交通省は事業者に対して、インタビュー等を通じて輸送の安全に関する取組状況を確認し、評価や助言を行うこととされている。

なお、同制度は、2005年に発生した西日本旅客鉄道株式会社福知山線における列車脱線事故(死亡者107名、負傷者562名)をはじめ、ヒューマンエラーに起因した事故やトラブルが各交通モードで相次いで発生したことを契機として導入された。そして現在、運輸事業者は「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」)」を通じて、安全管理体制の構築・改善に取り組むことが求められている※2。同ガイドラインでは、安全管理体制にPDCAサイクルを組み込むことが重要とされており、運輸事業者に期待される安全管理の取組として図1の14項目で構成されている。

【図1】運輸事業者に期待される安全管理の取組14項目
運輸事業者に期待される安全管理の取組14項目
(国土交通省「運輸事業者における安全管理の進め方に関するガイドライン」を基にMS&ADインターリスク総研作成)

(2)20年間における制度運用の拡大と深化

2006年に制度が導入されて以降、国土交通省は自然災害発生リスクや社会情勢の変化、重大事故の発生などを契機として、制度の見直しを実施している。

① 対象事業者の範囲拡大

行政による評価対象となる事業者(安全管理規程の作成や安全統括管理者の選任などが義務付けられた事業者)は、国際基準の見直しや重大事故の発生を受け、複数回の制度見直しの過程で対象範囲が拡大しており、現行制度での対象事業者は図2のとおりである。

【図2】「運輸安全マネジメント評価」対象事業者数
「運輸安全マネジメント評価」対象事業者数
(出典:国土交通省「運輸事業の安全に関するシンポジウム2025 運輸安全マネジメントに係るこれまでの取り組みと現状の課題」(2025年11月)※3)

② 評価実施機関の民間への拡大

2009年10月より、国土交通省の認定を受けた民間機関による運輸安全マネジメントの評価が開始された。民間のリスクコンサルティング会社などの専門的なノウハウを活用し、より多くの事業者へ運輸安全マネジメントを普及・拡大し、取り組みについて助言を行うことを目的としている。

現在、認定されている民間機関(第三者認定機関)は表1のとおりである。

【表1】安全マネジメント評価第三者認定機関一覧
会社名 認定日
独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA) 2009年10月26日
MS&ADインターリスク総研株式会社 2010年9月16日
SOMPOリスクマネジメント株式会社 2010年3月31日
東京海上ディーアール株式会社 2010年3月31日
一般財団法人日本品質保証機構(JQA) 2010年3月31日
一般社団法人日本海事検定協会(NKKK) 2009年10月26日
黒井産業株式会社 2026年3月31日
(出典:参考文献※4を基にMS&ADインターリスク総研作成)

③ 運輸安全マネジメント優良事業者等表彰

国土交通省は、2017年度より、運輸安全マネジメントに取り組む事業者等を公募し、他の運輸事業者の模範となりうる先進的な取り組み等を行っている事業者等を表彰している※5。

対象者は事業者・団体・個人で、単なる事故削減という結果だけではなく、以下の三つの表彰区分で選考されている。

【表彰区分】
  • 経営トップから現場まで一丸となって安全管理体制の構築に努めるとともに、他の運輸事業者の模範となりうる先進的な取り組みを実施していること
  • 運輸安全マネジメント制度の普及・促進に尽力していること
  • 新技術の導入等革新的な取り組みにより輸送の安全の確保に尽力していること

なお、2023年度より、自薦・他薦を問わず公募制となっており、安全取組への意欲の向上を図っている。

④ 安統管フォーラム(安全統括管理者会議)

国土交通省は、交通モードの垣根を越えて、他事業者の安全統括管理者や安全管理部門同士が交流を深めるため、2017年度に「安統管フォーラム(安全統括管理者会議)」を創設した※6。

フォーラムでは、先進事例の紹介や、社会や業界の情勢を踏まえたテーマのグループディスカッションが行われており、安全のキーパーソンとしての安全統括管理者の悩みや課題を共有・議論できる横断的な交流の場となっている。

⑤ 運輸事業の安全に関するシンポジウム

国土交通省は、制度が開始された2006年から、運輸事業の安全の更なるレベルアップを図る場として、また運輸安全マネジメント制度の一層の浸透・定着に向けた取り組みの一環として、シンポジウムを主催している※7。

同シンポジウムでは、今日的な安全管理の課題(人手不足、コンプライアンス、DX推進など)をテーマに、学識経験者・企業経営者などの講演や、前述の運輸安全マネジメント優良事業者等の表彰式、事業者などによる優良事例プレゼンテーションが行われる(図3)。

【図3】運輸事業者の取り組みの深化を促進する方策
運輸事業者の取り組みの深化を促進する方策
(出典:近畿運輸局運輸安全マネジメントセミナー2026講演Ⅰ「運輸安全マネジメント制度①~概要・導入の経緯~」※8)

⑥ 運輸防災マネジメント指針

運輸事業者に求められるガイドラインに加え、2020年7月には、頻発化・激甚化する自然災害への対応として、運輸事業者が防災体制の構築および実践に取り組むにあたってのガイダンスとなる「運輸防災マネジメント指針」が策定された※9。同指針は、運輸事業者の自然災害対応への取り組み(防災+事業継続)を促進するため、企業防災体制の構築・実践の要点をまとめたものとなっている(図4)。

【図4】運輸安全マネジメントと運輸防災マネジメントの関係
運輸安全マネジメントと運輸防災マネジメントの関係
(出典:近畿運輸局運輸安全マネジメントセミナー2026講演Ⅰ「運輸安全マネジメント制度①~概要・導入の経緯~」)

(3)運輸安全マネジメント評価の実績

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