トラックの死角 ―車両や歩行者を脅かす「見えない危険」―【InterRisk Asia Report(2026年7月)】
[このレポートを書いたコンサルタント]
- 会社名
- InterRisk Asia (Thailand) Co., Ltd.
- 執筆者名
- Assistant Manager, Akimasa Tsutsumi
Training Program Development & Consulting, Head of Department, Chalisa Masuk
2026.7.13
- ASEAN各国の交通事故死亡率はおおむね高く、各国において交通事故が課題となっています。
- トラックの周囲には、トラック運転者がミラーを使っても確認できない死角が広範囲にあります。そのため、トラックの付近を走る一般車両、バイク、歩行者がトラック運転者に全く気付かれないケースが多々あります。
- 多くの交通事故は、他の道路利用者がトラックに接近しすぎたり、並走し続けたりすること、また「トラック運転者からは自分が見えている」という誤った思い込みをすることによって発生しています。
- 道路を安全に利用するためには、トラックの死角を理解し、死角に入らないようにトラックと十分な距離を保つことが不可欠です。
- 一人ひとりの小さな意識の変化や行動の改善が、トラック関連事故の発生率を下げ、被害を最小限に抑えることにつながります。
はじめに
2023年発表のWHOの推計によると、2021年における東南アジア各国の人口10万人当たりの道路交通事故死亡率および推定死者数は下表のとおりです(数値の不正確性によりブルネイを除外、参考として日本の数値も掲載)。東南アジア9カ国の中ではタイの死亡率が最も高くなっており、タイにおける道路交通事故の深刻さが分かります。また、東南アジア各国の死亡率はおおむね高く、各国において交通事故が課題となっていることが示唆されています。
| 順位 (2021年死亡率) |
国名 | 死亡率 (人口10万人当り) |
推定死者数 |
|---|---|---|---|
| 1 | タイ | 25.4 | 3,113 |
| 2 | ミャンマー | 19.3 | 17,229 |
| 3 | カンボジア | 18.8 | 1,217 |
| 4 | ベトナム | 17.7 | 4,680 |
| 5 | ラオス | 16.4 | 31,063 |
| 6 | マレーシア | 13.9 | 11,062 |
| 7 | インドネシア | 11.3 | 3,113 |
| 8 | フィリピン | 9.7 | 17,229 |
| 9 | シンガポール | 1.9 | 110 |
| ― | 日本 | 2.7 | 3,304 |
出所:WHO Global Status Report on Road Safety 2023を参考にMS&ADインターリスク総研作成
Thailand Road Safety Collaborationのデータによると、登録車両1万台あたりのトラック事故率は、2012年から2022年にかけて大きく変動しています。事故率は2018年に48.23件とピークに達しましたが、その後減少し、2022年には30.04件となっています。こうした変動は、道路の安全性が運転者の行動、道路状況、交通量、そして各県ごとの環境の違いといった複数の要因に影響されることを示しています。事故の重大な要因でありながら見落とされがちなのが、トラックの死角です。ここは運転者の視界に入らない場所であり、警告なしに深刻な事故を引き起こします。
例えば、2025年にChachoengsao県で発生した事故では、学校前の赤信号で停車していた複数の車両に10輪トラックが追突し、多くの児童や保護者が負傷しました。車間距離が近いために視界が制限されていたこと、そしてトラック特有の制動距離(ブレーキが効き始めてから止まるまでの距離)の長さが原因で、時間内に減速することができませんでした。また、都市部でも同様に、左折しようとするトラックの左側を追い越そうとしたバイクが衝突する事故が多発しています。これは、バイクがトラックの死角に入り込んでしまうことが原因です。どちらのケースも根本的な原因は同じで、「お互いの姿が見えていない」ということです。
トラックの死角とは?
トラックの死角とは、車両の周囲に位置し、フロントガラス越しやミラーを通しても運転者が確認できないエリアのことです。これには前方、左側、右側、そして後方のすべてが含まれます。トラックはその大きさゆえに視界が限定されており、運転者の視線が届かない範囲がいくつも存在します。もし他の車両や歩行者がこれらのエリアに入り込んでしまうと、運転者はその存在に全く気づかない可能性があります。
トラックが関与する事故は、その重量と衝撃力の強さから、通常よりも重大な結果を招くことが少なくありません。多くの場合、死角が要因となって、本来なら軽微な状況が深刻な事故へと一変してしまいます。トラックの死角は、主に以下の4つのエリアで構成されています。
1.トラックの前方
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トラックの運転席は高い位置にあるため、車両のすぐ目の前にある対象物を確認することが困難な場合があります。
| リスク | 避けるべき行動 | 取るべき行動 |
|---|---|---|
前方死角 トラックの直前にいる小型車やバイクが前方死角に入る |
|
トラックの運転者がミラー越しにこちらの車全体を確認できるくらいの距離を保つ |
制動距離 トラック特有の大きい制動距離(ブレーキが効き始めてから完全停止するまでの距離)により、運転者が前方車両に気付いた場合でも、停止が間に合わない |
トラックの前に入り込んだ直後に急ブレーキをかける | 追い越しを終えて車線に戻る際は、十分なスペースを空けてから戻るようにする |
2.トラックの右側
サイドミラーからドアのあたりにかけたエリアは、運転者の視認性が非常に限られています。トラックの右側の車線を走行する必要がある場合は、このエリアに留まらないようにすることが重要です。
| リスク | 避けるべき行動 | 取るべき行動 |
|---|---|---|
右方死角 トラックの側面にいる小型車やバイクが右方死角に入る |
|
|
側面衝突 トラックが右側に車線変更をしようとした際、並走している車両に気づかず右側面から衝突する |
3.トラックの左側
トラックの左側は運転席から離れているため、右側より運転者の視認性が非常に限られています。
| リスク | 避けるべき行動 | 取るべき行動 |
|---|---|---|
左方死角 トラックの側面にいる小型車やバイクが左方死角に入る。左方は死角が最も大きくなることが多い。 |
|
|
側面衝突 トラックが左側に車線変更をしようとした際、並走している車両に気づかず左側面から衝突する。 |
||
左折巻き込み トラックが左折しようとした際、並走しているバイクに気付かず左側面に巻き込む。 |
4.トラック後方
トラックの運転者からは、真後ろを走る車両がほとんど見えない場合があります。特に荷台に荷物を積んでいるあるいは後部が塞がっている場合、後方の視界が完全に遮られることがあります。後方からの追突事故は発生件数が多く、重大事故につながるケースも多く見られます。


| リスク | 避けるべき行動 | 取るべき行動 |
|---|---|---|
死角 トラックの真後ろの視認性は非常に限られている。 |
|
|
後方衝突 車間距離を詰めすぎると、トラックがブレーキをかけた際に対応できず、後方から衝突する。 |
||
左折巻き込み トラックが左折しようとした際、並走しているバイクに気付かず左側面に巻き込む。 |
トラックの死角による事故例
1.トラックの死角で停車中の二輪車が巻き込まれ、運転者が死亡(プーケット)
プーケットの交差点で、10輪トラックが右折するために赤信号で止まっていたところ、同じく右折しようとした54歳の女性が運転するバイクが近づき、トラックの直前に停止しました。信号が青に変わった瞬間にトラックが発進しバイクと衝突しました。バイク運転者の女性はトラックの左前輪に轢かれ、その後に負傷が原因で亡くなりました。監視カメラの映像により、バイクがトラックのフロント部分の死角に入っていたため、運転者からは全く見えていなかったことが確認されました。大型トラックはその車高の高さと設計上、車両のすぐ近くにいる人や物、特に小さなバイクなどは運転席から完全に隠れてしまいます。バイクがトラックのすぐ近くに停車すると、こうした「死角」による深刻な危険を招くことがあります。
このようなリスクを減少するために、大型トラックの直前で停車することを避け、安全な距離を保ちつつ、トラックの運転者から認識できる位置に停車あるいは走行しましょう。同時に、トラックの運転者は発進前に周囲の状況を注意深く確認し、ミラーや視覚補助装置(カメラなど)を効果的に活用する必要があります。また、信号が変わった瞬間に急発進することを避けてください。
2.わき見運転が原因か、バンコクでトラックが衝突し3人負傷
バンコクで発生したもう一つの事故は、6輪トラックがピックアップトラックと警察の検問所に衝突し、3人が負傷したという事故でした。運転者は、「スマートフォンを拾おうとして下を向いていた」と供述しました。また、別の車両が視界を遮っていたことも重なり、前方の検問所に気づくのが遅れたと認めています。運転者の体内からアルコールは検出されませんでしたが、この事故は「不注意によって道路状況への認識が失われる」という、行動面における盲点を示しています。たとえ一瞬のわき見であっても、特に重量があり制動距離が長い大型トラックを運転している場合、危険の察知は困難になります。大型車ゆえに、わずかなミスが重大な事故に直結しやすく、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。
このような事故を防ぐために、運転者は運転中のスマホ操作を避けて常に道路状況に集中する必要があります。また、安全な車間距離を保ち、特にリスクの高い場所では危険を予測することが重大な衝突事故を防ぐための不可欠なステップとなります。
トラック周辺を運転する際の安全チェックリスト
トラックが行き交う道路では、全ての道路利用者の意識と協力が欠かせません。トラックはその大きさ、重量、そして視界の狭さゆえに、特有のリスクを伴います。これらを正しく理解し、尊重することが重要です。以下のチェックリストは、乗用車やバイクや自転車の運転者、そして歩行者がトラックの近くで安全に活動するための推奨事項をまとめたものです。
道路における安全は、「あなたがトラックを見ているか」ではなく、「トラックの運転者があなたを見ているか」によって決まります。運転者、歩行者において、トラックの視界の限界を正しく理解し、それに応じて行動を調整することが重大な事故の防止につながります。十分なスペースを空ける、死角を避ける、予測可能な動きを心がけるといった小さな積み重ねが、道路全体の安全性に大きな影響を与えます。
| 観点 | チェック項目 | ||
|---|---|---|---|
| 乗用車 | 取るべき行動 | □ | トラックとの距離を十分に確保する。 |
| □ | 追い越しの際、トラックを完全に追い越してから元の車線に戻る。 | ||
| □ | トラックのウィンカーや動きなどを確認しながら運転する。 | ||
| □ | 車線変更や追い越しの際、ウィンカーで明確な合図を出す。 | ||
| □ | トラックが右左折や車線変更できるよう、十分にスペースを空ける。 | ||
| 避けるべき行動 | □ | 継続的にトラックと並走する。 | |
| □ | 至近距離でトラックの直前へ割り込む。 | ||
| □ | トラックの視界が限られている、あるいは死角エリアに継続的に留まる。 | ||
| □ | 「トラックの運転者からは自分が見えている」という思い込み。 | ||
| バイク | 取るべき行動 | □ | トラックが明確に認識できるエリアを走行する。 |
| □ | トラックとは通常よりも距離を置き、特にタイヤの周辺には近づかないようにする。 | ||
| □ | トラックが右左折の合図を出した場合、速度を落とし、警戒を強める。 | ||
| □ | 交差点や交通渋滞ではさらに警戒する。 | ||
| 避けるべき行動 | □ | トラックの右側からの追い越し。 | |
| □ | トラックの視界が限られている隙間や狭いスペースを走行する。 | ||
| □ | 継続的にトラックと並走する。 | ||
| □ | トラックの死角エリアに停車する、または留まること。特に信号待ちの際は注意が必要。 | ||
| 歩行者 | 取るべき行動 | □ | 安全を確保できない場合、または視界が限られている場合、トラックが完全に通り過ぎていくまで待機する。 |
| □ | 道を渡る際は常に横断歩道を利用する。 | ||
| □ | トラックの前を横断する際は、運転者とアイコンタクトを交わし、こちらの存在に気づいていることを確認してから渡る。 | ||
| □ | 右左折しているトラックに注意。特に交差点ではさらに注意が必要。 | ||
| 避けるべき行動 | □ | 至近距離でトラックの直前を横切る。 | |
| □ | トラックの前、横、またはタイヤの近くで立つ。 | ||
| □ | 「トラックの運転者からは自分が見えている」という思い込み。 | ||
| □ | 「トラックも乗用車と同じ速度で止まれる」という思い込み。 | ||
まとめ
トラックは、都市部や経済圏を結ぶ主要ルートを中心に、タイの交通システムにおいて重要な役割を担っています。しかし、その車体の大きさや重量、制動距離の長さ、限られた視界といった特性により、制御が難しく、事故が発生した場合にはより深刻な被害につながりやすい傾向があります。主要なリスク要因の一つがトラックの死角であり、これは運転者から見えない車両周辺を指します。そのため、他の道路利用者が運転者に気づかれないまま近くに来てしまう可能性があります。
死角に起因する事故は、車両やバイクがトラックに近づきすぎたり、トラックと並走し続けたり、十分な目視確認を行わないまま車線変更したりする場合に多く発生します。これらのリスクは、交通量が多い状況、道路状態が悪い状況、または運転者が速度や車間距離を誤って判断した場合に、さらに高まります。
道路の安全性を向上させるためには、トラック運転者、乗用車の運転者、バイクの運転者、歩行者など、さまざまな立場からトラックの限界を理解することが重要です。安全のための行動としては、十分な車間距離を保つこと、死角となるエリアを避けること、合図を明確に出すこと、そして周囲が予測しやすい運転を心がけることが挙げられます。
最終的に、道路の安全は交通ルールを守ることだけでなく、他の道路利用者が常に自分を視認しているとは限らない、という点を認識することにも左右されます。より広い車間距離を確保する、より安全なタイミングで車線変更や移動を行うといった行動の小さな調整が、事故の発生率と被害の深刻度の双方を大きく減らすことにつながります。
【Reference】
- https://www.who.int/teams/social-determinants-of-health/safety-and-mobility/global-status-report-on-road-safety-2023
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-tha-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-mmr-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-khm-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-vnm-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-lao-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-mys-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-idn-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-phl-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-sgp-2023-country-profile
- https://www.who.int/publications/m/item/road-safety-jpn-2023-country-profile
- https://www.frontiersin.org/journals/built-environment/articles/10.3389/fbuil.2025.1684955/full?utm_source=chatgpt.com
- https://www.who.int/thailand/our-work/road-safety
- https://www.bangkokpost.com/thailand/general/3077576/truck-hits-vehicles-stopped-at-red-light-students-injured
- https://www.khonraksiplo.com/content/29628/
- https://www.trumqtaxi.com/drive-near-truck
- https://www.trumqtaxi.com/drive-near-truck
- https://www.khaosod.co.th/breaking-news/news_9688420#google_vignette
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