コラム/トピックス

デジタル終活はなぜ進まない? 調査結果から考える“先延ばし”の心理

[このコラムを書いた研究員]

新納 康介
専門領域
食料安全保障、マイクロファイナンス
役職名
主席研究員
執筆者名
新納 康介 Kousuke Niiro

2026.11.2

故人が生前に保有していたデジタルデータやオンラインアカウントなどの「デジタル遺品」は、一般的に高いセキュリティで管理されているため、遺族が整理やアクセスを試みても、手続き上の困難が生じる事例が報告されています。こうした事情から、近年は万が一に備えて、遺族や関係者がデジタル遺品を適切に取り扱えるようにする、いわゆるデジタル終活が国民生活センターなどより勧奨されています。

MS&ADインターリスク総研は、保有するデジタルデータやオンラインアカウントの死後の取り扱いに対するユーザーの意識および対策の実態を把握すべく、2026年5月に、SNS、サブスクリプション、金融のオンラインアカウントを保有するデジタルサービス利用者500人を対象にアンケート調査を実施しました。

本調査の報告書であるリサーチレター「デジタル遺品に関する意識と対策の実態」では、デジタル終活の必要性については全回答者の86.0%が感じている一方でデジタル終活を「完了している」人は3.0%にすぎず、必要性の認識と実際の行動との間に大きな差がみられました。本稿では、デジタル終活を妨げる心理について考えていきます。

この記事の
流れ
  • デジタル終活の高い必要性の認識
  • 「完了」はごくわずか ~ デジタル終活の実施状況
  • 「デジタル終活を行う予定がない」と回答するも必要性は感じる回答者群
  • 多くの人が陥る「先延ばし(Procrastination)」とはなにか
  • 必要性を感じていながらなぜデジタル終活を行う予定がないのか
  • まとめ

デジタル終活の高い必要性の認識

「デジタル終活」は、万が一に備えて、PCやスマートフォン、利用しているオンラインサービスなどに関するアカウントやデータを整理・文書化しておくことです。本調査では回答者にデジタル終活の必要性を感じているかを聞きました。その結果「強く感じる」と「少し感じる」の回答の合計は86.0%でした(図表1)。

【図表1】あなたは万が一の時に、
遺族がデジタル遺品の整理に困らないように準備しておく必要性を感じますか
あなたは万が一の時に、遺族がデジタル遺品の整理に困らないように準備しておく必要性を感じますか
あなたは万が一の時に、遺族がデジタル遺品の整理に困らないように準備しておく必要性を感じますか

「完了」はごくわずか ~ デジタル終活の実施状況

また、本調査では、回答者に実際にデジタル終活(デジタル遺品の整理の準備)の実施状況を聞きました。その結果、わずか3.0%が「完了している」と回答しました。最も多い回答は「これから行う」(55.6%)で、「行う予定なし」(26.0%)がそれに続きます。(図表2)。

【図表2】現在、あなたが亡くなった後のデジタル遺品の整理の準備をしていますか
現在、あなたが亡くなった後のデジタル遺品の整理の準備をしていますか
現在、あなたが亡くなった後のデジタル遺品の整理の準備をしていますか

「デジタル終活を行う予定がない」と回答するも必要性は感じる回答者群

図表3は図表1と2をクロス集計したものです。ここでは、図表2における、デジタル終活を「行う予定なし」とした回答者群130人に着目しました。この回答者群の14.6%がデジタル終活の必要性を「強く感じる」、46.9%が「少し感じる」としています。つまり、本調査でデジタル終活を行う予定がないとした回答者群の6割超(80人)がデジタル終活の必要性を感じています。

【図表3】遺族がデジタル遺品の整理に困らないように準備しておく必要性を感じますか
(デジタル終活の進捗度別)
遺族がデジタル遺品の整理に困らないように準備しておく必要性を感じますか(デジタル終活の進捗度別)
遺族がデジタル遺品の整理に困らないように準備しておく必要性を感じますか(デジタル終活の進捗度別)

多くの人が陥る「先延ばし(Procrastination)」とはなにか

多くの人が陥る、やったほうが良いと分かっているのに、あえて大事なことを後回しにしてしまう現象を、心理学では「先延ばし(Procrastination)」と呼びます。カナダの心理学者Piers Steelは、先延ばしを「自分にとって良くない結果になると分かっていながら、自発的に物事を後回しにすること」と定義しています。

先延ばしは、個人、社会に様々な悪影響を及ぼすことから世界中で研究が進められています。例えば、学業、税金の納付、医療機関の受診、退職後の経済的備え、政府の債務、地球温暖化、など様々な場面における課題への取り組みの先延ばしが、不利益をもたらすことが指摘されています。

デジタル終活の不備による不利益は遺族やその関係者などに及びますが、本調査のデータは、デジタル終活に対する先延ばしが起きている可能性を示しています。そもそも終活自体が先延ばしされることは、不思議なことではないようです。Piers Steelは、先延ばしの典型例の一つとして「遺言づくりの先延ばし」を挙げています。

必要性を感じていながらなぜデジタル終活を行う予定がないのか

ここではさらに掘り下げて、前述のデジタル終活の必要性を感じながら「行う予定なし」の回答者80人にその理由を聞きました。多かった回答は「まだ自分には関係ないと思っている」「面倒くさい・時間がない」「何から手を付けていいかわからない」でした(図表4)。

【図表4】準備を行う予定がない理由として、当てはまるものは何ですか
(複数回答、n=80、単位:人)
準備を行う予定がない理由として、当てはまるものは何ですか(複数回答、n=80、単位:人)
準備を行う予定がない理由として、当てはまるものは何ですか(複数回答、n=80、単位:人)

Piers Steelは、先延ばしをする人は、「やるべきことを実行したいと思っている」が、「課題の実行を妨げる障害を実際以上にふくらませて考える」と述べています。これらの回答からは、必要性は感じていても、実際の行動を妨げる心理が勝っていることがうかがえます。デジタル終活が進まない状態は、先延ばしの概念で説明できるかもしれません。

まとめ

本稿では、デジタル終活の必要性を認識していても、先延ばしという心理が実際に行動に移すことの妨げとなっている可能性について述べました。先延ばしの原因は単なる意志の弱さではなく、環境、性格、脳の働きなど様々な要因が複雑に絡み合っているといわれています。

例えば、人間の脳は、「将来の利益」より「目の前の快楽」を強く評価してしまう傾向があります。これを「現在バイアス」と呼びますが、こういった認知バイアスも先延ばしの原因の一つです。

私たちはつい陥りがちな先延ばしにどう対処すればよいのでしょうか。先延ばしの対処法の一つとして、そのタスクの「最初の一歩のハードルを下げる」ことが挙げられています。例えばデジタル終活の最初の一歩として、まずは利用しているオンラインサービスを整理して一覧にすることなどが挙げられます。

「いつかやろう」で終わらせず、まず一つだけ行動に移してみる。こうしたアプローチが、デジタル終活の「先延ばし」を防ぐ第一歩になるかもしれません。

【参考文献】

  • ピアーズ・スティール(2012)『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』阪急コミュニケーションズ
  • Piers Steel(2007)”The Nature of Procrastination: A Meta-Analytic and Theoretical Review of Quintessential Self-Regulatory Failure”
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