WBCSDが代替化学原料のサステナビリティ評価ガイダンスを公表、共通指針として注目
2026.10.30
持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD:World Business Council for Sustainable Development)は2026年9月22日、化学・素材産業向けの代替原料に関する共通定義、サステナビリティ基準、評価手法を示したガイダンスを公表した。
現在製造されている製品・素材の95%以上は、少なくとも1つの工業的な化学プロセスに依存しており、化学セクターで使用される原料の大半は化石資源に由来する。さらに、化学セクターで生産される原料は、包装、消費財、建設、自動車、繊維など幅広い分野で利用されるため、化学セクターでの原料選択は下流の複数のバリューチェーンの温室効果ガス排出量にも大きく影響する。
このため、大幅な脱炭素化には、製造工程のエネルギー転換だけでなく、製品を構成する炭素の供給源そのものを見直し、化石由来原料から持続可能な代替原料へ移行することが不可欠である。一方で、代替原料の普及は十分に進んでいない。この背景には、「持続可能な代替原料」の共通定義や統一の要件がないこと、需要シグナルの弱さ、市場メカニズムの未整備、投資判断に必要な予見可能性の不足などがある。
WBCSDはこうした課題に対応するため、バリューチェーンの上流・下流の双方を含む会員企業の連携により、代替原料の拡大に向けた共通枠組みを以下のとおり構築した。
(1)共通の分類法(Taxonomy)
本ガイダンスでは、代替原料を、バイオマス、残渣・廃棄物、回収炭素由来の原料であって、化石由来原料と比べて環境・社会フットプリントを低減する可能性を持つものと定義している。そのうえで、代替原料を以下の3つに分類している。
① 生物由来(バイオジェニック)炭素
生物由来の炭素を含む原料。農業・林業・水産由来の残渣や廃棄物、生育中の作物、木材、藻類のほか、わら、バガス、食品加工残渣などが含まれる。
② 使用済み(end-of-life)炭素
役目を終えた炭素含有資源。化石由来・生物由来の両方を含み、廃プラスチック、廃繊維、使用済み食用油などが該当する。なお、生物由来の使用済み廃棄物は、2つの分類にまたがる場合がある。
③ 回収炭素
工場排ガスや発酵工程から回収した二酸化炭素、大気直接回収(DAC)による二酸化炭素、鉄鋼産業から回収した一酸化炭素などが含まれる。
回収炭素は分類上細分化されていないが、持続可能性は主としてライフサイクルGHG評価で判断する考え方が採られている。ただし、回収元の施設や工程など、原料の由来確認は必要である。このように、原料を分類するだけでは不十分であり、それが本当に持続可能かどうかを判断するための共通基準と評価方法が必要になる。
(2)最低限かつ堅牢なサステナビリティ基準と評価方法
WBCSDは、代替原料の持続可能性を評価するに当たり、まず全ての原料に共通して確認すべき事項を共通原則として示したうえで、環境面および社会面の個別基準を整理している。
また、個別基準については、理想的には全てを確認することが望ましいものの、実務上は当初から全サプライヤーに同一水準の対応を求めることは現実的ではない。このため本ガイダンスでは、まず確認すべき「最低基準」と、原料の特性や地域事情に応じて段階的に取り組む「追加基準」を区別している。
最低基準は、全ての原料に共通する「炭素強度」と「地域社会との対話・協議」であり、さらに陸上の生物由来原料においては、「水使用」も最低基準となっている。一方、生物多様性、土壌、大気環境、地域の社会・経済への貢献などは、原料の特性や地域事情に応じて段階的に確認を進める追加基準と位置付けられている。
1.共通原則
原料の信頼性やトレーサビリティ(追跡可能性)を確保するための土台として、以下の共通原則が示されている。
- 環境・社会関連法令を遵守していること
- 原料の由来が確認できること
(例:位置情報、原料の種類、廃棄物としての扱い、CO2の発生源など) - 重大な環境・社会リスクがないこと
(例:高保全価値地域(HCV)への影響、森林減少・森林劣化との関係、その他の重大な悪影響) - 地域特性を踏まえて確認すること
(例:その地域の社会・経済・ガバナンス状況、土地・水・残渣等の既存利用、地域住民の依存関係)
2.個別基準
【表1】代替原料のサステナビリティ評価基準
| 分野 | 区分 | 評価基準 | 主な評価内容・評価方法 | 要求資料 |
|---|---|---|---|---|
| 環境 | 最低基準 | 炭素強度 | 原料の生産・回収・捕集・前処理に伴う温室効果ガス排出を評価する。CO2排出だけでなく、必要に応じて土地利用変化の影響も考慮する。製品カーボンフットプリント(PCF)やライフサイクル評価(LCA)などの手法が用いられる。 | PCF報告書 原料LCA報告書 EPD(環境製品宣言) |
| 最低基準 (主として陸上の生物由来原料) |
水使用 | 原料調達に伴う水使用量や、水不足地域への影響を確認する。特に陸上のバイオマス原料で重要とされる。 評価には、ウォーターフットプリントや地域の水リスク評価ツールが用いられる。 |
ウォーターフットプリント報告書 生産地の水ストレス評価資料 水使用削減計画 |
|
| 追加基準 | 生物多様性・生態系への影響 | 原料調達によって、生物多様性や生態系の機能・回復力が損なわれないかを確認する。IBATやWWF Biodiversity Risk Filterなどのツール活用が想定される。 | 生物多様性影響評価報告書 | |
| 追加基準 | 土壌の健全性 | 原料調達が土壌の質や長期的な生産性に悪影響を与えないかを確認する。土壌構造、pH、有機物、栄養塩、ミミズの数などのモニタリングが例示されている。 | 土壌健全性モニタリング報告書 | |
| 追加基準 | 大気環境 | 原料の生産・回収・捕集に伴い、有害な大気汚染物質が発生しないかを確認する。 | 大気測定報告書、施設のモニタリング報告書 | |
| 社会経済 | 最低基準 | 地域社会との対話・協議 | 地域住民や先住民族などへの影響を把握し、継続的な対話や、苦情を受け付けて対応する仕組みが整っているかを確認する。人権デューデリジェンスの活用も想定される。 | ステークホルダーエンゲージメント計画とその結果 社会・人権影響評価管理計画 サプライヤー宣言、行動規範 社会面のLCA報告書 |
| 追加基準 | 地域の社会・経済への貢献 | 原料調達が地域の生計や社会の発展にどのように寄与するかを確認する。 | 当該項目に関する具体的な評価方法・要求資料は示されていない。 |
出典:WBCSD資料よりMS&ADインターリスク総研が作成
最低基準は、実装しやすさを踏まえた出発点にすぎないことから、企業においては、原料の特性や地域リスクに応じ、追加基準についても段階的に調達判断へ組み込んでいくことが求められる。
さらに、代替原料の評価においては、基準間のトレードオフの観点も重要である。例えば、GHG排出を大幅に削減する一方で、水ストレス地域で大量の水を使用するケースが考えられる。このようなトレードオフが想定される場合、企業は以下の対応を行うべきとされている。
- 正負の影響の重要性(materiality)を評価する
- 調達先に追加資料を求め、リスク管理や緩和策を確認する
- 単一基準ではなく、全体としての持続可能性を踏まえて判断する
- 判断理由を文書化する
- 必要に応じて改善措置やモニタリング条件を付す
持続可能な代替原料をめぐる議論は、脱炭素、資源循環、自然資本、人権などの様々なテーマを包含する経営課題となっている。日本企業としても、国際的な基準形成の動向を踏まえつつ、自社の調達・リスク管理のあり方を見直す契機として活用することが望まれる。
【参考情報】
2026年10月8日付
https://www.wbcsd.org/news/wbcsd-launches-new-guidance-to-support-the-scale-up-of-sustainable-alternative-feedstocks/
E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)に関する国内外の重要な話題を毎月レポート形式でお届けしています。
以下のリンクからご覧ください。
月刊レポート「ESGリスクトピックス」一覧